世界を壊しに(後編)
「えっ..」
美鈴と夏凪は唖然としている。恐怖だろう。
一方、僕の心の底から、快楽が湧いた。
殺りたい。
殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。殺りたい。
グシャ
「キャー!」
殺りたい。殺りたい。殺りたい。
「嫌、来ないで...!」
殺りたい。殺りたい。殺りたい。
「やめて!離して!」
殺りたい。殺りたい。殺りたい。
「……タクト!」
ガッシャン。
何者かが僕の顔面を床に叩きつけた。地面には少しヒビが入り。僕の顔面はバリバリに砕けた。
「....ごめん。今治すから。」
そんな声が聞こえた。
次の瞬間。僕の正気は元に戻った。
いや、むしろかなり意識がはっきりしている。
「た、タクト……」
僕が顔を上げると、目の前には心配そうにこちらを見つめる霊華の顔があった。
「大丈夫……なの?」
霊華が聞いてくる。
僕は答えた。
「……うん」
「……そう。よかった」
「夏凪さんたちは?」
僕がそう聞くと、霊華は右を向いた。
そこには、1人の男と、2人の女の死体があった。
「....僕が殺したのか?」
僕が聞くと、霊華は答える。
「うん。」
そうか……。殺っちゃったのか……。
最初は何も感じなかったが、後から徐々に罪悪感が湧いてきた。
きっと、さぞ絶望していたことだろう。
それは夏凪さんの死体の顔を見ればよく分かる。。。
「霊華は大丈夫なの?」
僕が聞くと、彼女は答える。
「別になんともないよ」
と、そう答える彼女だったが、よく見ると、霊華の両手が消えていた。
「霊華!手が!」
僕は飛び上がるように驚いてしまう。まさか僕が?
僕の心中を察したのか、彼女は静かに首を横に振った。
「違うよ。」
「タクトが暴れだすから、押さえつけようと思って、自分の手錠を取ろうとしたの。」
「でも無理矢理外したから、手がえぐれちゃったのよね。」
「は...?なんて無茶するんだよ。。」
僕は呆気に取られると同時に、今日一番の罪悪感を感じた。
ああ、僕はなんて愚かなことをしたのだろう。
自分が悪魔の力に頼ったことで、結局一番大切な友人まで傷つけてしまうとは。。
「ごめんなさい……」
僕が言うと、霊華は答える。
「なんで謝るの?」
「僕のせいで君が傷ついた」
「別にそんなの気にしてないよ。それより私は……」
霊華は黙って、僕の右腕を見た。
右腕を見ると、それは確かに悪魔の腕に変容していた。
太くて真っ赤で、所々がボコボコしている。見ていて気味が悪い。
「なにこれ?」
思わず呟くと、霊華が答える。
「知らないよ。でも気持ち悪い」
「……シクロ。お前だな」
僕はボソリと呟いた。
すると僕から黒い煙が現れ、そこから白髪の少女が現れる。
「ふん。やっと気づいたか」
シクロはニヤリと笑った。
「教えてくれ。僕の体に何をした?」
僕はシクロに問いかける。
「良いだろう。タクトには悪魔を宿らせた。」
シクロは笑いながら答える。
「悪魔を宿らせた?どういうことだ?」
僕はシクロの言葉に疑問をぶつける。
僕の問いに、彼女は答えた。
「そのままの意味だ。タクト、貴様は我らと同じになれるということだ。」
「え?」
僕が思わず聞き返すと、シクロは淡々と語り始めた。
「貴様が力を欲するたびに、貴様の体を悪魔の心が支配していく」
「手始めに欲した力の結果が、その右腕だ」
「それが……悪魔に体を支配されるということなのか?」
僕が聞くと、シクロは頷く。
「そうだ。そしてそれをコントロールするのも貴様だ」
そう言って彼女は笑う。その笑顔は邪悪だった。
その笑顔、なぐり潰したい。
「じゃあ、お前を消せば僕は元に戻るんだな?」
僕が言うと、シクロは首を振った。
「いいや、我を消せば貴様は死ぬ。」
「なに?」
僕の言葉に、シクロは笑いながら答えた。
「貴様はすでに我の同胞になった。もっと言えば分身。傀儡。」
「つまり、貴様が死ねば我も死ぬし、我が死ねば貴様も死ぬ。」
「運命共同体というわけか」
僕はそう呟いた。
「そうだ。だから、タクトは我が生きている限り死ぬことはできん。」
シクロは答える。
なるほど、つまり彼女は僕に二重に呪いをかけたわけだ。
シクロを殺せば僕が死ぬように、僕が死ねばシクロも死ぬように。
そんな僕の思考を余所に、シクロは僕に問いかけてくる
「さあどうするタクト。悪魔としてどう生きる?」
シクロは笑う。
「タクトが望めば、その力で世界中の人間を虐殺することだって可能だ。」
「そんなことはできない」
僕が答えると、シクロはなおも笑いながら続ける。
「できるさ。我にできないことなどありはしない」
「……何が言いたい?」
僕は問いかける。
するとシクロは言った。
「我とともに世界を支配しないか?我々なら世界を意のままに操ることもできるぞ?」
それを聞いて僕は考える。たしかに魅力的な誘いだ。
「僕はもう十分だ。霊華に殺されることが今の僕の願いなんだ。」
僕が言うと、シクロはククッと笑う。
「ハハハッ。そうであったな」
「だが、その娘は別のことを考えているようだぞ」
シクロは霊華の方を見ると、霊華はドキッと表情を変える。
「霊華は、僕が悪魔になったことをどう思う?」
僕は霊華に尋ねる。
「私は、タクトが悪魔だろうと人間だろうと関係ないよ。」
彼女は、そう答えた。
それを聞いて僕は笑った。
「そうか」
「霊華、僕は、霊華に殺されることが今の僕の願いなんだ。」
「.....だから僕は自分が死ぬまで霊華と一緒にいたい」
「ねえ。霊華の願いはなに?」
「私はタクトと一緒にいること。それが私の願いだよ。」
霊華が答えると、僕は笑った。
「ありがとう、霊華」
僕の言葉に、彼女は微笑んでくれる。
そんな僕らの様子を前に、シクロは笑うのをやめた。そして再び質問をする。
「で?どうする?」
「わかった。シクロ、お前の提案に従うよ」
「一緒に人間と戦おうか。」
僕が言うと、シクロは笑って答えた。
「決まりだな!」
ああそうだとも。シクロが望むなら、僕はいくらでも戦ってやる。
なぜなら、僕は悪魔だ。
「まずはこのビルを包囲している兵士たちを蹴散らすと良い」
シクロはニヤリと笑いながらそういった。
「わかった」
僕はそう答える。
「霊華、協力してくれ」
僕がそう言うと、霊華は頷く。
そして、僕らはビルの出口に向かった。
---
外に出ると、僕らのいた建物を包囲する大量の警官の姿があった。
警官たちはみな銃を持ち、車の影に隠れながら攻撃のタイミングを伺っている。
対して、ビルの入り口にはアラウンの殺し屋たちがいて、警官たちを迎え撃つ準備をしていた。
「おっ。タクトくんも来たか。」
キョウが僕らに話しかけに来る。
「うん。待たせたね。」
「いやいや、別にいいんだけどよ……その右腕..」
キョウが心配そうに僕に尋ねる。
「大丈夫、これは気にしなくて良いよ」
僕はそう言って右腕を見せる。
「そうか……ならいいんだけどよ」
キョウは心配そうな顔をしながら答えた。
その横では、霊華が退屈そうに欠伸をしている。
僕はそれを見て思わず笑ってしまう。
「そろそろ、やるか……」
僕が呟くと、霊華は頷いて答える。
「そうね。さっさと終わらせましょう」
そんな僕らを見て、アラウンの殺し屋たちは動揺する。
「なんだこいつら……なんでこんなに落ち着いてるんだよ……」
「あの白い女はなんだ...?怖えよ……」
そんな彼らを見て、シクロは笑う。
「ふん。狼狽えるな」
「我らの目的は世界だ」
「さあ、暴れるぞ!」
その言葉と共に、シクロは勢いよく飛び出した。
僕と霊華もそれに続いた。
...きっと、僕はどこかで道を間違えたのだろう。
人を殺す少女に恋をして、悪魔を召喚して、こうして今、人類に敵対しようとしている。
だけど、後悔はない気がする。
それは僕が無知なだけかもしれない。
きっといつか、わからされる日が来るだろう。
悪は滅びるのだろう。
だけど今は、これで良い。
彼女と一緒にいられるという今があるのなら、僕はそれで十分だ。
だから僕は悪魔になる。
世界を支配する、悪魔に。
~死神の恋人 完
死神の恋人、いかがでしたでしょうか。
元々はデスゲームの殺す側に知り合いがいたらどうなるか?をシミュレーションしてたのに、気づいたら死神彼女とイチャイチャしたくなって追加で妄想してました。悪魔、、なんで出したんだr。楽しんでいただけたのなら幸いです。
ご意見、ご感想をいただけると嬉しいです! 何卒よろしくお願いしますm(_ _)m