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世界を壊しに(前編)


安眠会を後にするころには、あたりはすっかり暗くなっていた。

僕は、意識的に霊華の手を掴みながら、まじまじと歩いていた。

霊華はなんだか嬉しそうだ。

(まるでデートみたいだな……)

一方で僕の気分は暗くなるばかりだ。

だって、おそらくはもう僕は、日常の生活には戻れない。


僕はすでに、警察に目をつけられている。

今日、それがわかった。

なんとか霊華のおかげで助かったが、明日からどうなるかわからない。

「ねえタクト。どうしたの?」

霊華は僕の様子に気づいたのか、話しかける。

僕は迷いながらも、霊華に今の思いを打ち明けることにした。


「僕はもう、生きられないかもしれない。」

僕は、自分の思いを吐露した。

「警察は僕を追っている。たぶん、明日にもまた僕を連行しにくる。デパート事件のことも、安眠会の悪魔召喚のことといい、僕には言い逃れできる材料がない」

「このままじゃあ、牢屋に直行だ。そうなるくらいなら、いっそここで」

「君に殺されたい」

そう言った。


すると、霊華は立ち止まった。

「霊華?」

僕も足を止めて振り返るが、暗い最中で彼女の表情はわからない。


一線を超えた発言をしたことはわかっている。

僕は恐る恐る彼女のそばによると、それに気づいた霊華は、僕のことをまっすぐ見てこう答えた。

「うん、わかった」


そういうと霊華は、僕の横を通り過ぎて前に出た。

そして霊華は振り返って、死神の笑顔で告げる。

「じゃあ、こんなのはどう?」

彼女の背後から黒い煙が立ち込み、その中から、いつかの巨大な「赤い目玉」が出てくる。

トラウマが蘇る。

僕はつい最近、デスゲームの会場でこいつに殺されかけた。

でかい目玉の妖怪が不快な不協和音を鳴らして人間を探していた描写が蘇ると、自分の背筋が冷えるのを感じる。


だがこんかいの赤い目玉は以前のように活発ではなく、寝むそうにまぶたを9割閉じて霊華の方を見ている。

霊華はその赤い目玉の頭を撫でながら僕に告げる。


「可愛いでしょう?」

「200年くらい前に見つけた妖怪なんだけど、出会ったときはもっと小さくてね」


そういって霊華は手でテニスボールくらいの形を作る。

「気づいたらこんなに大きくなっちゃって..」

「この子と目が会った人間は、この子に魂を吸い取られちゃうのよ」

「....」


霊華は冷ややかな笑みを浮かべながら話を続ける

「せっかくだからこの子の餌になってもらおうかしら?」

僕は赤い目玉をジッと見る。

「..!」

周囲の緊張が高まる。

だが、赤眼は僕を見ながらも、意識は別の方向に向いているように見えた。

「……」

(こいつ、僕を見ていない……)


僕は霊華のやり方に違和感を感じた。

自分が死の恐怖を感じてしまうことは一旦置いておこう。

それよりも僕は自分の不本意さを霊華に伝えため、彼女に近づいた。


そして、思い切って抱きつく。

「ひゃっ!?」

霊華は、驚いた声を上げてもがくが、僕は決して彼女を離さなかった。


夜よりも冷たくて、柔らかい体。

僕から抱きつくのは初めてだ。けど、こんなことでもう恐れない


おそらく霊華の狙いは赤い目玉に僕を殺させることにある。

だが、もしかすると違うのではないかと感じる。

だから僕は、最期に彼女の真意を問う。


「わがままで悪いけどさ、僕は目玉じゃなくて君に殺されたいんだ。君は、その手をかざすだけでそれがやれるだろう?」

「!」

霊華は、僕の発言に驚いたのか、一瞬動きが止まった。

そして、彼女は僕を突き放して、距離を取る。

「タクト……」

霊華は僕から目をそらしながら言う。

「それは……無理よ」

「どうして?」

「……私は、タクトを…」

それ以上は死神としての人格が許さなかった

霊華はなにか言おうとしながらも、やっぱりやめて首を横に降るだけだった。


正直、そんなことはないと思っていた。

だってあくまで彼女は死神で、人を見たら本能的にやりたくなると自分で言っていた。

だけどこれで確信がついた。

霊華は、僕を殺したくないらしい。


「……そっか。ごめんな」

(僕は勘違いをしていたのか?)

そう思った瞬間だった。


霊華は僕の後ろに回って、不敵な笑顔を作りながら話はじめた。

(こいつ、もうなにか思いついたのか?)

「タクト。初めて合った時の約束覚えてる?」

「……約束?」

「タクトは私に『一緒に死んでほしい』って頼んだよね?」

「……ああ。そうだったな」

「だからタクトは殺してないんだよ?」

「え...」


僕が動揺した直後、霊華は華麗に僕の横を2回転しながら赤い目玉のもとに戻って、こちらに人差し指を向けて言い放つ。

「死にたかったら、まずは私を殺す方法を見つけなさい!」

赤い目玉は、びっくりしたようで急に目を開いて少し跳ねた。

赤い目玉は僕から視線を外して、霊華を見ている。


「そしたら一緒に死のうね♪」

彼女は僕にそう言って満面の笑みで笑った。

その笑顔は、とても愛らしいものであったが、同時にぞっとした。

「お、おう...」

僕はうなずくしかなかった。



「よし、この話はおしまい!」

霊華は僕に言う。

「タクト、人間として生きれなくなったならうちにおいでよ?話はそれからだよ」

「えっ…そんな悪いよ…」

「…今更遠慮しないの!」

霊華はいつにないハイテンションで、僕の背中に手を回した。


霊華を殺す方法なんて考えたこともなかった。

少なくとも僕にはその必要性を感じなかったから。

というか、死神を殺す方法なんてあるのか?


ないだろう。仮にあったとして、僕はそれを望まない。

そもそも霊華は僕を殺したくないという気持ちがわかってしまった。

つまりこれは僕を殺さないための体の良い言い訳に過ぎない。

とすると、僕って死ねない?

マジか。。


落胆しながらも現状を打開する方法が見つからない僕は、大人しく霊華の指示に従うことにした。

僕は一度家に帰り、最低限の荷物を持ったら、再び霊華と合流した。

結局、僕の家はもう安全ではない。正確には僕が世間的に安全ではないのだけど。

「どこに行くんだ?」

僕は霊華に行き先を尋ねる。

「私が住んでるとこ」

「どこに住んでるんだ?」

「えっと、前回デパートで会ったときのことは覚えてる?」

「ああ」


ほんの1週間前のことだ。

僕が入ったデパートは不運にも殺人鬼たちの巣窟になっていた。

僕は霊華とたまたま会えたから生き残ったけど、他の人達は全員死んだ。

あの事件のことか。

「あの時私、雇われているって言ったよね。」

「え、ああそうだったね。」

「ってまさか」

「そう、私を雇ってた組織、アラウンに行くしかないね」


「え、ええ……」

正直気は乗らないけど、もう行くしかないのだろう。


---


「さて、ついたよ」

そこは結構古びた雑居ビルだった。

1階部分は看板もないし、本当にここなのか?という感じだ。

霊華は2階の玄関の鍵を開ける。

「さ、入って入って」


中に入るとそこには、数人の住人らしき人がいた。

その中には僕の見知った顔もいて……。

「あ、あの時の忍者。。」

忘れはしない。

あの日のデパートで、僕を殺そうと天井から襲ってきた忍者だ。

「むっ...」

忍者も僕のことを覚えていたようだ。

僕は取り敢えず、軽く会釈をして挨拶をした。


そして奥から一人の男が出てきた。

「おう霊華!帰ったか!」

「...馴れ馴れしい。」

霊華はなかなかお目にかかれない呆れ顔を見せながらその男を紹介してくれた。


「こいつが私を雇ったこの組織のボスよ」

「こ、この人が?」

ボスはかなり陽気な印象だった。

とても、殺し屋が集ってる悪臭強い組織のボスには見えない。


「おう、俺がここのボス、キョウだ!よろしくな!」

キョウと名乗った男は、かなり人懐っこい笑顔で挨拶してくれた。

「え、はい。よろしくお願い...します」

とっさに僕は挨拶を返した。


「霊華が人を連れてくるとは意外だな!」

「そうね」

「一体どういう風の吹き回しだい?」

「さあね」

「冷たいなあ。」

霊華は冷えた態度でキョウに応じる。

諦めたキョウは、再び僕に視線を向けて質問を始めた。


「それより君の名前を教えてくれよ」

「えっと。三河拓斗と申します。」

「ほうほう、拓斗くんね。」

このひと、いきなり下の名前で呼ぶのか...


僕も呆気に取られそうになるが、キョウは気にせず話を進める。

「ちなみに君と霊華はどういう関係にあるんだい?」

「えっ?」

いきなりの質問に僕は戸惑う。

「いやさ、。あの霊華が人を、まして男を連れてくるなんて意外だからさ」

うっ。困ったな。

僕は霊華の方を見るが、霊華もじっと僕が答えるのを見ていた。

どうする?


友達..?で良いか?

ここまで来たら恋人って言っても良いだろうか?

いや、でも言いづらいな。。

「えっと……それは……」

僕は返答に困っていると、霊華は繋いでいた僕の手を強く握りしめた。

焦った僕は咄嗟に思いついたことを言う。

「僕を、殺してくれる人です。」

その言葉を聞いて、霊華は苦い顔をした。


「……ほう」

キョウは僕の言葉に興味深そうな反応を見せる。

「まあ、詳しくは聞かないでおくよ。それよりもさ!」

キョウは話題を変えるように明るい声で話しかけてきた。

「うちの組織に入らない?」

「……え?」

僕はその提案に驚いた。正直、そんな簡単に入れるものなのか?…。


「えっと、その前に、実は僕はすでに警察に目をつけられていて…」

と僕は事前に伝えるべきことを言おうとする。

が、キョウはそれを静止する。


「あ〜。うちは動機や事情は不問だ!」

「ここに入るのか?嫌なのか?どっちかで答えてくれ」

「あ、はっ、入ります。入らせてください!」


2択を迫られた僕はとっさに答える。

うん、この強引な聞き方。

こんなことができるのは闇市の人間だけだ。間違いない。


「よっし、決まりだ!」

キョウは満足そうに僕の肩を叩く。

「よろしくな!拓斗くん!」


「よろしくお願いします」

そうして僕は、殺し屋の集団、アラウンに入ってしまった。


いままでは一応、一般人として生きてきたつもりだ。

もっとも、霊華と出会ってから、当たり前のように死体を見るようにはなった。

そこは異常なことだが、まだ僕は誰も直接手を出していないし、犯罪も犯していないと自負していた。

だからこそ、「人」として生きる道が選べた。


だけど、それはとうとうできなくなった。

だってもう僕は、犯罪組織の一員になったのだから。

後戻りはできない。一線を超えてしまったという不安が僕の心を縛り付ける。

でも、そばには霊華がいる。

そう思うと、少しだけ楽でいられる気がした。


「さて、タクトくん。まずは我が組織。アラウンの目的を話すべきだろう」

キョウが突然、そんなことを話し始めた。

僕はゴクリと唾を飲む。

「それは」

それは?

「すべての生命を無に返す、だ」

「すべての生命を無に返す?」

(ストレートに悪人だな。このひと)


僕がオウム返しに言葉をつぶやくと、キョウは得意気に語り始める。

「そうだ、無に返そうとする理由は各々だ。だが、私の意見としては、生命が呪われているからだと考えている」

「動物たちは、必ず、他の生命を奪うことで生存している。」

「いつかは自分が誰かの餌になる。」

「だが生物は自分が食われることを一番の恐怖として認識している」

「逃れられない宿命から逃げ続けている。」

「皮肉な生涯だとは思わないか?」


「まあ、それは...」

僕はなんとなくそれはそうだろうと思って頷くと、キョウは話を続ける。

「まあ人間はもう誰かに食われることは早々ないが、代わりに社会での「役割」を果たすことを求められる」


「しかもそれは生きている限り終わるどころか、どんどんエスカレートしていく」

「年を取るたびに社会からの期待は高まり、ワガママは許されなくなる」

「学校ではいじめられ、軽蔑され、順位をつけられ、授業で答えられなければクラスの見世物にされる」

「おとなになってからは、年々責任という重荷が増え続ける。ずっと我慢、成長、成長だ。かといって走るのを辞めれば没落する」

「だから大半の人間は耐えるしかないのさ」

「痛覚、恐怖、あるいは欲望に駆られて」


「そしてなぜか、我々は子孫というものを残して、子にも同じ運命を背負わせようとする」

「子孫たちもまた、死の恐怖から逃げ続け、なぜかそれを子孫に引き継ぐ」

「種が全滅するまで、その呪いは終わらない」

「人は、生命がここまで存続してきたことを奇跡という」

「だが、私はこれを、終わらない悲劇の連鎖だと思っている。」

「君は、それでも生命は尊いと思うか?」


キョウは真剣な顔つきでそう言った。

僕はその迫力に押されながらもなんとか答える。

「さあ…」

正直全く意味が理解できなかったが、僕にはそこまで興味はなかった。

自分の人生が嫌で死にたいとは思うが、それで世界をどうこうするべきだなんて思うことはない。

生きたいやつは好きにすれば良いし、嫌なら自分だけ抜ければ良いだろう?


「なるほど。君はすでに生の呪縛から開放されてるようだね」

キョウは僕の心を読んだかのような発言をする。

「社会から居場所をなくした人間には、そうなるものも多い」

「人ってそういう生き物なんですよ」

「はあ」

僕は適当に返事をする。

するとキョウは、意外なことを僕に言った。


「さっきも言ったが、君の動機は問わないよ」

「すべてを捨て去る気概を持っている時点で、君は使える」

「そこの忍を見たまえ」


そう言ってキョウは頭上を指差す。

僕が顔をあげると、そこにはいつかの忍者が壁に張り付いていた。

「はっ!何をしているんですか?」

「....見張っているだけだ」

忍者は愛想なくそう答えた。


するとキョウは話を続ける。

「彼は鬼風丸だ。見ての通り忍だ」

「だが、仕えるべき主人も、生きるべき目的もない、抜け殻さ」

キョウは鬼風丸を横目で見ながら言う。

「そんな者が何しにここにいると思う?」

「……さあ」

僕にはわからなかった。

すると、鬼風丸は、独り言のように勝手に喋りだした。

「拙者は何も求めてはいない。ただこの変な男に拾われて、無心で仕えている」

「死ぬべき機会を逃した、マヌケでござるよ」


「生きてる実感もないまま、死ぬこともできず、ただ命令されたまま生きる」

「人形……」

「いい表現だ」

キョウは感心したように頷く。

そして話を続ける。

「我々は死に場所を求めている。」

「だがそんな者は多くいる」

「故に我らの組織は戦力が不足することはない!」


キョウは拳を握りしめながら言う。

「だからタクトくんよ!君は霊華くんと一緒にこの組織のために力を貸してくれないか?」

キョウは僕に向かってそう語りかけてきた。

僕は少し考えて、答えた。

「正直、僕なんかが役に立てる自信はありません」

「でも、霊華と死ねるならどこでもいいです」

僕は霊華の顔を見てから言う。

するとキョウは満足そうに頷きながら言う。

「それで十分だ!」


----------

そうして僕は、アラウンのメンバーになった。

理由は、ただ社会での生き場所を失ってしまったから。

実に下らない。

だが、僕が思っていた以上に、この組織は闇が深かった。

---


アラウンは、さっそく次の事件を起こそうとしていた。

キョウは楽しそうにボクに次の計画を説明した。

「前回のデパート襲撃は一般大衆をターゲットにして成功させた」

「だから次は、大物を狙う」


「大物ですか?世界征服でもする気ですか」

「いいや?そういうのは興味ない。でも世界をひっくり返すのは面白そうだ」

キョウは笑いながら言う。

「君がここに来たのは運命だと思っているよ。拓斗くん。」

「ちょうど明日だ。」

そう言って、キョウは地図を広げた。

「あ、明日。。急ですね。何をするんですか?」


僕は驚きながらも、次の計画を詳しく聞く。

「そうだねぇ〜。まあ一言で言えば」

キョウはもったいぶったような言い方をする。

そして僕に向かってこう言った。

「金持ちたちが集まるパーティー。ここを襲撃するのさ!」

そう言って、キョウはこの国の一流企業が集うビルである「センタービル」を指さした。


---

翌日。

僕はアラウンで、いくつかの武器を供給してもらった。

日本刀とスタンガンだ。

遠距離道具がないのは不安だが、扱い方の分からないものを持つよりは確実だろう。

ちなみに霊華は、相変わらず鎌を持っている。

昨日は忍者と数人の部下しかいなかったが、今日は20人くらいの人間がこの基地に集まっている。

ジャンルは様々だ。ヤクザ、無職、青年...ちなみにデパートで僕を襲ったマシンガン男もしっかりいた。

各々が変な格好をしていて、本当に変態集団、社会のゴロツキを結集させたような感じになっている。

「えっと、霊華?」

「ん?なに」

「これから僕ら、人を殺しに行くんだよね?」

「そうよ」

霊華はなんでもないように言う。

僕はなんだか、とんでもないところに来てしまったような気がしてきた。

「はぁ。。まあいっか」

僕が諦めていると、キョウが僕らの方に向かってくるのが見えた。

「おーい、準備はできてるか?」

「はい」

僕が答えると、キョウは頷きながら言う。

「なら予定通り行くぞ!」

僕らは2tトラックの荷台に入場し、目的地へと運ばれるのだった。


---


車に揺られながら、僕らはトラックの荷台の中で待機していた。

搭乗員はお互い知らない仲が多いみたいで、ほとんど会話をする姿が見られなかった。

だからこの空間では永遠と沈黙が続く。

霊華はフードを深く被って、寝っ転がりながら僕の方をじっと見ている。

「...」

「なに?」

僕の目線に気がついた霊華は声をかける

「ん?、特に何も」

「そう……」

霊華はそれだけ言うと、僕に背を向けて寝っ転がってしまった。


...もしかして悪いこと言っちゃったかな。

そう思った僕は、寝っ転がる霊華の頭をゆっくりと撫でてみた。

すると霊華は少しだけ、僕に体を寄せてきた。

「……」

僕は黙って、霊華の頭を撫で続ける。

……かわいいなあ。

そんなことを考えていると、誰かが舌打ちをする音が聞こえた。

僕は霊華から手を離し、そっと顔を上げる。

すると、目の前にはボサボサの服を来た年上の男がこちらにきた。


「いけ好かねえな……」

「なんでてめえみたいなクソカップルがアラウンにいるんだ?」

そう言って、男は僕の顔を睨んできた。

「ど、どうも……」

僕は愛想笑いを浮かべて答える。


「てめえには聞いてねえんだよ!!」

男は僕に向かって叫ぶと、後ろの霊華を指差しながら言う。

「そこの女が気に食わねえんだよ!ぶっ殺すぞ!」

キョウがそんな様子を見兼ねてか、立ち上がって僕と男の間に割り込む。

「おいおい……どうした?」

そしてキョウは軽く笑いながら男に語りかける。

「てめえには関係ねえだろ!」


男はキョウに怒鳴ろうとするが、キョウが男の方に手を置くと、すぐに大人しくなった。

「落ち着けって。ここは仲良くいこうぜ?」

キョウはヘラヘラ笑いながら言う。

「……ちっ」

男は舌打ちをしながら、霊華の隣に座る。

……なるほど。これがカリスマというやつか。

僕はそう思った。この男がいきなり従順になった理由がわかる気がしたからだ。

人の上に立つ人間が持つオーラみたいなものを……。

そんなことを思いながら、僕は霊華の貴重な寝顔を堪能するのだった


---

「そろそろつくぞ。」

トラックの運転手が後部窓を開けて通達する。

「全員、降りる準備をしろ。」

キョウが全員に指示を出した。

「..いよいよだな」

さっき僕に向かって怒鳴ってきた男が、小さく呟く。

その姿は微かに笑っている。


トラック内は極めて静かだ。

ガタガタと揺れる音、それから、稀に響くのは、銃の安全装置を外す音。

その音を聞く度に、僕の心には恐怖と、興奮が隆盛していた。


やがてトラックは停車し、完全な静寂が訪れる。

「じゃあ、作戦開始だ」

キョウはそう言い、トラックを降りる。

それに続いて他の皆も、トラックから降りて行く。

僕も霊華の手を握って、トラックを降りた。

「おい、そこのカップル!ちゃんと仕事をしろよ?」

さっきの男が僕らに向かって言う。

僕と霊華は目を合わせて笑いあった。

そしてそのまま、僕らはトラックを降りて作戦に向かった。



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