悪魔召喚の儀式(後編)
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儀式のやり方はいたってシンプルだった。
1,まず、悪魔を召喚するための祭壇を用意し、正義感を持った人物を生贄に捧げる
2,祭壇の中央で、1人で呪文を唱える
3,召喚された悪魔が目の前に現れたら、契約を締結する。その際に『代償』をささげる(代償は攫ってきた人間計10名で足りるだろう)
4,契約の内容は、今後10年間に渡って教会の不滅と盛栄を保証すること
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(こんな手順で本当に呼び出せるのだろうか?
僕はそう思いながらも、ゆっくりと儀式の準備を進めていく。
...警察はまだ来ないのか?
霊華の様子も、スマホで返事を確認する隙がないから全然読めない。。
「さあ、祭壇に生贄を捧げる時間だ。」
組織のボスが取り巻きどもに向かってそう叫ぶと、彼らは警官を運んできた。
「な、なにすんだ!」
「うるせぇ!静かにしてろ!」
そういって一人のマフィアが警官を殴りつける。
そして彼らは縄で手足を縛られた一般人たちを並べた後、僕の方をギロッと睨んだ。
「おい、三河」
「は、はい。」
「施設の外周はサツが包囲してる」
「え?やばくないですか」
「ああ、悪魔を召喚できたら、奴らをなんとかするようにも頼んでおけ」
「もし捕まったらお前もただじゃ済まないからな」
そう告げ口をして彼らは去っていった。
さて、祭壇の状況だが、まず祭壇の中央に大きな壺が置いてある。警官2人はこの壺の中に詰め込められていた。
そして祭壇を囲うように10人の生贄たちが立たされている。
生贄たちは、皆々が恐怖で怯えていた。さっきボスの部屋で見かけた子たちだ。性別はバラバラだが、年齢層は比較的な人が多い。中には小学生くらいの子もいる。
彼らは皆、白い衣服を着せられていた。
それからマフィアのボスと、山田と松本は僕の後ろ、この部屋の出口付近で儀式の様子を見届けているようだった。
僕はというと、祭壇の中央と出口の間くらいにある教壇みたいなところに立たされている。側近も僕の隣に立っている。
「あなたは向こうにいかないんですか?」
そういうと側近は僕をにらみながら答える
「一応、あなたが裏切らないか見張る必要があるので」
「そうですか。。」
「あなたには、この儀式を絶対に成功させる義務があるわ」
「はい」
側近がそういっていると、後ろにいたボスが僕らに声をかける。
「儀式を始めるぞ」
「まずは生贄どもよ、祭壇に火を注げ」
そう言うと生贄の子たちは、震えながら火のついた松明を壺に近づける。
ボォォ……
「え……」
僕は唖然とした。生贄たちは、僕やマフィアたちに見られている恐怖からか、恐怖のあまり手が震えてしまって、なかなか火を注げないのだ。
「早くしろ!」
山田が生贄の子たちを脅す。
「は、はい!」
しかしそれでも手が震える。
(だめだ……このままじゃ儀式が失敗してしまう)
僕は内心ヒヤヒヤしていた。
周りの空気から苛立ちを感じる。
この状況を打開するにはどうすればいい?
そんなことを考えている間にも、生贄の子たちの恐怖は増していくばかりだ。
すると、しびれを切らした山田は、火を灯せない子のところに走って行って、かわりに火を灯してしまった。
「す、すいません!」
「手間かけさせやがって。」
そういうと彼はこちらを見てニヤッと笑った。
すべての祭壇に火が灯ると、雰囲気はガラッと変わった。
生贄の子たちはみんな震えていたり腰が引けていたりするが、教壇のような場所に立つ僕をにらんで何かをつぶやいてる子もいるな
……何やってんのって感じだが、ここで怖じ気づいてはだめだ。
「_____」
僕は台本に記された呪文をゆっくり読み始める。
すると祭壇中央の壺からは、黒い煙のようなものがあがりだす。
始めは微かに。そして徐々に、濃くはっきりとした煙が吹き出す。
「これは……間違いないな」
その様子を見たボスが、ニヤッとしてつぶやく。
「悪魔だ……いよいよ現れようとしているぞ!」
ボスは、興奮のあまりずっとニヤニヤしている。
僕は壺と台本を見ているのでボスの顔は見れていないが、声でわかる。
ああ、
このままだと本当に悪魔か何かが出てきそうだ。
この世に現れてはいけないものを僕は召喚してしまいそうだ。。
...やつらの言いなりになっていて良いのだろうか。
でも、少なくとも僕には、かれらに逆らうことができない。。
だから、求められていることをやるしかない。
(集中しないと……)
そして、詠唱が終わる頃には、壺からは黒い煙が溢れ出ていた。
「おい、出てきたぞ!」
松本がそういうと、煙が晴れていき、中から何かが現れる。
(これが悪魔……)
現れたその悪魔は、馬のような体格に翼が生えていて、まさに悪魔といったところだ。
「キサマラハワタシニナニヲノゾム」
現れた悪魔はそう話すとこちらをじっと見ている。
「あ、、あああ」
僕は言葉を詰まらせた。
(やばい、契約しないと……)
「悪魔さん!契約だ!」
僕がそう叫ぶと悪魔は何やら呪文を唱え始めた。
「ナニカナマエヲヨンデミロ」
そういうと悪魔はこちらを見た。
(えっと……名前?)
僕は一考しつつも自分の名前を答えた。
「三河拓斗です!」
すると悪魔は僕に向かって話を続ける。
「オマエノナヲシッタカラ、ワタシニナニヲノゾムノカキメロ」
「はい……えっと、、、」
(確か、今後10年間のこの組織の繁栄と不滅。それから警官に囲われている今の状況をどうにかしてくれってことだよな)
皆が僕に注目する。冷静沈着な側近も、流石にこのときは息を飲みながら僕を睨んでいたような気がする。
僕は願いを言おうとする。
だがその時、部屋の扉が開いた。
バタンッ!
「だ、誰だ!」
ボスがそう叫ぶ。
その先にいたのは、僕のよく知る人間だった。
黒い衣装に赤い瞳。
ビリビリに破れた和服の生地から黒いオーラが溢れ出ている。
「霊華!」
僕の大切な人が、そこに立っていた。
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「タクト。あんた一体何やってんの?」
霊華は血相を変えて僕に詰め寄る。
「いろいろあってよ、、、それより、どうやって?他のマフィアたちは!?」
「向かってくるやつは全員殺したよ」
霊華はいつも通りに素っ気なく告白した。
「なんだこいつ、死神みたいなカッコしやがって!」
山田がキレている。
「まあ、落ち着きたまえ山田くん。」
マフィアのボスが山田をなだめる。
「さて、死神よ。どうしてここがわかった?」
「……私の大切なタクトがここにいると聞いたからですよ。」
「なるほど……」
「どうやら、本物の死神らしいな」
ボスはニヤッとして霊華に尋ねる。
すると霊華もニヤッと笑い返しこう言った。
「ええそうね。そしてあなたの敵よ!」
霊華がそういうと、山田と松本が霊華に向かって突撃する。
ボスは僕のいる教壇に走って来て命令する。
「悪魔よ!あの死神を倒せ!」
と。
一方、霊華は山田と松本をいとも簡単にあしらう。
「私の相手なんてあんたには1000年早いわ」
「ぐわあああああ!」
バタン。
「ミカワタクト。ケイヤクノアイテハオマエダ」
「くそが!」
ボスは僕に向かって走ってくる。
僕は逃げようとするが、側近が手を掴んで僕を逃さない。
それどころか、どこからか取り出したナイフを僕の首に差し向ける。
「言え!」
側近はそういうとナイフを首元に当てる。
僕は悪魔のほうを見る。
そして、一息ついて言う。
「悪いな。願いは無しになった。せっかくだから好きに生きてくれ」
「は?」
そう呟いた側近は次の瞬間、首が飛んだ。
あ〜あ。美人だったのに勿体ないな。。
ボスが僕の目の前に迫ってくる。
「なんでだ!どうして!」
彼は悲痛な叫び声をあげながら僕に向かって走ってくる。
次の瞬間、血飛沫と共に彼の首が飛んだ。
「タクト!大丈夫?」
いずれも霊華の鎌によって。
この部屋のマフィアは制圧された。
あとは、悪魔がどう反応するか。
悪魔は、僕が契約のキャンセルを行ったことに憤っている様子だった。
「タクト!そいつから離れなさい!」
霊華は必死に叫ぶが、悪魔は僕のほうを見てニヤニヤしているだけだ。
「どうした?僕の魂を取るのか?」
僕がそういうと、悪魔はゆっくりと僕に近づいてきた。
そして……次の瞬間、僕に跪いた。
「はあ!?」
僕は思わず声が出てしまった。
あっけに取られる僕を他所に、悪魔は僕に話し始めた。
「タクト。ワタシハジユウニイキルコトニシヨウ。」
そういうと、悪魔は立ち上がり、そして続けた。
「ネガイガナイトイウナラバ、ソレガアラワレルマデ、キサマニツイテイクトシヨウ」
そういうと悪魔はニヤリとして僕の方を見る。
「ホッ。それは良かった。じゃあこれからよろしくな。」
「えっ、ちょっとまって、なんでタクトに付いてくるの!」
霊華は側近とボスの生首を両手に持ちながら悪魔に問いかける。
「コノオトコトケイヤクシタカラダ」
「なっ!?契約ってどういうこと!」
霊華は生首を祭壇に置きながら僕の方を見た。
僕は、霊華にこれまでの経緯と、悪魔と契約したことを話した。
「タクトのバカー!」
「私というものがいながら!」
霊華は泣きじゃくってしまった。
「うっ、すまん……」
僕が霊華に謝っていると、いつの間にか悪魔が僕の後ろにいた。
「ツギハワタシノコトダ」
僕はビクッとして後ろを向くと、そこには綺麗な白髪をした女の子がいた。
「うわ!お前。姿を変えたのか!」
「うむ。貴様の好みの姿になってやったぞ」
「話し方も普通になってるし!」
「我からも聞きたいのだが、この娘は何者だ?」
悪魔が霊華の方を見ながら尋ねる。
「こいつは……」
僕が説明しようとすると、霊華がいきなり話し始めた。
「私は霊華よ。そこにいるタクトの嫁!そして死神!タクトを殺すのは私だからね!」
ん?こいつ今嫁って言ったか?てか最後の言葉怖いよ
「ん?この娘が?ただの人間のように見えるが」
「ああ、まあいろいろあってな。」
僕は話をはぐらかそうとした。
「そういえば悪魔はなんか名前ないのか?」
僕は悪魔に尋ねる。
「名前?そんなものはない」
「じゃあ、僕がつけてやるよ!そうだな……」
僕は少し考え込んだ後、こう名付けた。
「黒白」
「クシロ?」
「ああ、お前の髪と目の色が真っ黒と真っ白だったから……安直なネーミングだがな」
「そうか……。まあいい、では我はここで消えよう」
「必要になったら我の名を呼ぶが良い。」
そういうと悪魔は、黒い煙に包まれながら姿を消した。
「はー。」
なんだか急に疲れが湧いてきた僕は、床に尻餅をついてしまった。
「霊華」
「なに?」
「助けに来てくれて本当に助かったよ。ありがとう」
「ふん!」
霊華はそっぽを向いてしまった。
う〜ん。ごめんよ。
...あれ?
そういえば、生贄にされるはずだった子たちはどこへ?
あたりを見回したが、この空間にはもう誰も残っていなかった。
「おい、霊華。生贄にされた子たちはどうしたんだ?」
「そんなの私が知るわけないでしょ」
そういうと霊華は僕の手を引っ張って起き上がらせようとする。
「とにかく、ここから出ましょ!」
「お、おう」
無事に逃げられたってことか....?
それなら良かったってことだよな。
警官たちは助けられなかったけど、まあ、あの子たちの命が無事ならそれで良いか。
ん?警官。。
「そういえば霊華。この施設って警察に包囲されてるんじゃ...」
「あ、そうだったね」
霊華は僕の手を取り、出口の方に向かって走って行く。
まずい!
応援を呼ばれていたら捕まるかもしれない!
「どうしよう!このまま出ても僕ら八の巣になるよ!」
「大丈夫♪全員やるから」
霊華は笑顔でそういったが、僕は真っ青になった。
「できればそれはしないでほしい...」
「流石に何十何百人いるかもわからない警察を虐殺したら」
もはや伝説級の殺人鬼としてメディアに取り上げられるだろう。。
「クシロ!なんとかしろ!」
僕はとっさにシクロのことを思い出した。
名前を叫ぶと、僕の周りから黒い煙が湧き出て、そいつの声が聞こえた
「…やれやれ。しょうもない望みだ」
「いいから早く!」
僕は悪魔を急かしてお願いした。
すると目前の空間が切り裂かれ、裂け目ができた。
「うおっ。なにこれ。」
「便利じゃない。行きましょ」
こうして、僕たちは逃げ出したのだった。
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外に出ると、パトカーのサイレンやら何やらですごいことになっていた。
僕らは包囲網の外側をそそくさと歩き、闇夜の中に消えていった。
(第二部 完)
ここから先どうするかは迷走中です...