表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

幕間:樹海を彷徨った日のこと

主人公の過去編です。

僕は片道の電車賃を握って、不死山のふもとにある駅へと移動していた。

ガタンゴトンと音を鳴らす列車の時間は長く、退屈で、窓から見える「日常」の光景を眺めるとなんだか悲しくなってくる。


もう戻れない。お金は片道分しかないから。

僕は最後まで根性のない人間だ。

今この瞬間も、もう少し生きていれば良かったんじゃないかと、後悔している。

だからこそ、絶対に後戻りできないようにこの選択を取った。


せめて、自分の命をどうするかくらいには、意地を持ちたいから。


やがて到着した駅で僕は、不死山麓の樹海に入り込んでいった。

樹海の木々はどれも高く、太陽は薄い雲に覆われて見えない。

木々の隙間に出来た天然の道を歩いていると、たまに枝葉の隙間から光が射しこんでくる。

そんな光景をみながら歩き続ける。

しばらくすると、川の流れが聞こえるようになったのでそっちに向かっていくと、川の流れる音がどんどん大きくなってきた。

同時に視界が開けてくるようにもなっていったので、そちらを見てみる。

すると、そこにはとても美しい滝があった。

大きな音を立てて、水が落ちていく。

僕はそんな滝の流れをしばらく眺めていた。

「最後に綺麗なものを見れて良かった」

そう呟いたときだった。


近くの草にぬめりと動くものを感じた。

「!?」

蛇だ。

まるで僕を殺しに来た死神のように、そいつはこちらを見てきた。

気持ち悪い..

僕は、蛇が嫌いだ。

いや、それ以上に死そのものが嫌いなのだ。

だから僕は……蛇をみつけた瞬間、一歩後ずさる

そしてすぐに方向転換して一目散に逃げだした。。


こういうところだ。

僕の弱い心は。


まあでも、時間はまだまだあるんだし、今回逃げても、いずれはあいつらに殺されるんだ。

だから、焦る必要はないだろう?

そう言い聞かせ、僕は今の危機的状況から逃亡した。


それから僕は、山道を気楽に歩き続けた。

しかし……

「がっ!!?」

突然足に激痛が走る。何かにひっかかったらしい。

前のめりに倒れた僕の体は、斜面をごろごろと転がり落ちていった。

「ぐっ!!!」

やがて木にぶつかって止まった体を起こす。膝ががくがくと笑っている。

傷口は最初はかすり傷かと思ったけど、すぐに血がどぶどぶと出てくる。

止血する道具などない僕は、ただ大きな木のふもとまで頑張って歩き、腰を下ろした。


痛い……痛いよ……助けて……誰か…………誰か……

いや違うだろ……?僕自身が選択したことじゃないか。

自分で決めて、逃げてきたのに、都合が良すぎるよ……

そして、僕は自分の死を悟った。

もう動けないし、道もわからない。

きっとこのまま誰にも知られず死ぬだろう。

でも僕はもうそれでいいのだ。

こんな僕の命なんて、結局はちっぽけなものだ。


...本当は良いわけがない。

悔しいよ。

悲しいよ。


でも、挽回する覚悟も実力もなくって、

だから、僕にできる唯一の希望は、死後の救いに期待することだけだ。

「ああ、神様。どうか来世はもっと良い人生にしてください」

そう祈りながら僕は目を閉じた。


次に目を開けた時、そこは樹海だった。

ははは。足を折っただけで、死にはしないか。。

クソ痛い。


もし、、ここに誰か来てくれたら、助けてもらえるのかな。

優しくしてもらえるかな。。

だって今の僕、最高に可哀そうだろう..?


まあ、こんな山の中、誰もいないだろうけどね。

「誰かいませんか?」

僕はふと、自分の周囲を360度見渡した。

返事はない。当然だ。こんな場所にくる人なんk...


見てはいけないものがあった

背筋が一気に凍る。


僕の視界のずっと奥。そこには、真っ黒な衣服と、大きな鎌を持った人間らしい「何か」が立っていた。

遠くて顔は良く見えないが、お面のようなものをしている。

もちろんそれはかわいらしいものではなくて、骸骨のような白い模様をした何かだ。


「ひっ!」

僕は、その突然のことに恐怖して地面に倒れた。

そいつは僕をじっと見ている。

死神、、そう言うのが一番適切だろう。


僕はそいつをみるなり、恐怖で硬直して動くことができなくなっていた。

動けない僕をみたそいつは、ゆっくりと近づいてきた。

そして、残り20mくらいの距離になったとき、そいつは足を軽く蹴って、一気に僕のところに距離を寄せた。

そして鎌を構えて、僕の頭をめがけて振り下ろしてきた。

僕は恐怖で目を瞑ることができなかった。

死神の鎌が、僕の頭に当たるまであと数ミリといったところで……


僕は体を倒して鎌をかわした。

自分でもなんでかわったのかわからないけど、この一撃をくらったら死ぬと直感したのだ。


死にたいならここで死んでおけよって思うかもしれないけど、

その、なんだ。

たぶん僕はこいつから逃げられない。

だからさ、せめて精一杯抵抗してみたくなったんだ。

最後くらい、全力出して死にたいの。

こんな僕の命なんだからさ……

僕は、自分が思う最高の俊敏さで立ち上がった。


そしてそのまま、そいつに向かって走る。

途中手ごろな木の棒があったのでついでに拾って、


そいつは驚きながらも僕を迎え撃とうと身構えている。

そんなの無視して、僕はそいつに体当たりをかまそうとする。

「おらああああああああ!!!」


その瞬間、僕は足を滑らせる

体が危険な角度に曲がり、僕はとっさに死神の腕をつかんだ。

そして地面にダイブ。

死神も一緒にバランスを崩して倒れる。

そしてそのまま2人ともゴロゴロと坂を下っていく。。

あばばばばっば

ああばばあ!?

「あ!ああああああ……」


僕らは数十メートル落ちた先にある、ちょっとした崖まで落ちて、その下で目覚めた。

痛い。なんだこれ。体が熱い、全身が痛い。

僕は痛みに耐え切れずに大声をあげたが、声を出すたび痛みは増すばかりだった。


「ちっくしょうめ!」

僕は、大声で叫んだ。

そして、今までの人生の愚痴を森に向かって叫ぶ。

「ああ!もう!なんで!」

「なんで皆、あんなに強く生きられるんだよ!」

「なんで趣味の合う友達が当たり前のようにいるんだよ!」

「なんで怒られてもすぐにけろっとした顔ができるんだよ!」

「なんで成績に4以上があって当たり前なんだよ!」

「なんで俺は、親に呆れた顔をされるんだよ!」

「なんで..ゲホッゲホッ」


僕はそう言って、涙をこぼしながら目を閉じた。

そうだ。死のうとした僕なんかには、きっと相応しい死に方だろうさ。

痛みで頭がぼんやりとしてきたころ、僕の目前には、死神の鎌が落ちていることに気が付いた。


僕はなんとなく、それを拾ってゆっくりと立ち上がった。

立ち上がろうとしたが、足に激痛が走って結局座り込んでしまった。


向かいには、倒れていた死神いた。

そいつは鎌を持った僕を見るやいなや、ゆっくりと立ち上がって、こちらを警戒していた


これが、鎌か。

握るとなんだか不思議な感覚を得る。

呪い?というか、憎悪なのか。よくわからない。


僕は地面に座り込んだまま、両手で鎌を横に向けて、死神に差し出すポーズをした。

死神は意味が分からないというような顔をしている。

「これ、返すよ」

僕はそういうが、死神は喋らない。

喋れない存在なんだろうか。


ただ、死神はゆっくり近づいてきて、僕の差し出す鎌を手に握った。

僕はそれをみて、そっと微笑むと、一言お願いする……

「僕と一緒に死んでくれない?」

「...ぇ?」


甲高い声が、小さく、でも確実に聞こえた。

それは、死神の声だった。

僕は、ああやっぱり喋れたのかと納得すると同時に、その声が女の子に近い声であることに気が付いた。


「どういふ?」

死神はそう喋った。

どういうこと?って言いたいのかな。


「いや、思いつきだ。一人で死ぬのは寂しいと思ってさ。。」

死神は、数秒考えたあと、鎌を己の肩に乗せながら言った。

「いいよ」

「ありがとう。……君は死神?」

「……そう」

「名前は?」

「名前……ない」

「……そうか。じゃあ、僕が付けていい?」


そういうと、彼女は嬉しそうに頷いた。

僕は少し考えて、そして言った。

「霊を狩る者だから。。霊狩!」

「いや、でももう少し花を持たせたいな。」

「漢字を華麗の華にして霊華!」

「…漢字。分からない」

「ああ、えっとね……」


僕はポケットからスマホを取り出して、漢字の読み方を調べた。

「なるほど、こういう字か……。あ!そうだ!」

僕はまたスマホを操作して、霊華に見せた。

「どう?綺麗じゃない?」

「へぇ…」

素っ頓狂な声を出す彼女だが、ひとまず受け入れてくれたみたいだ。

僕の自己満足だけど、なんとなく良かった気がする。


「あ、僕の名前は拓斗ね。」

「タクト?」

「そう。」

「よろしく」

僕はそう言って、右手を差し出した。

彼女も握手に応じてくれて、僕の手を優しく握ってくれた。

その日から僕らは、死神と人間という奇妙なコンビとして、樹海を彷徨うことになった。


霊華は、案の定現代の言葉をほとんど知らなかった。

人と話さないのだから当然だろうけど。

一応、最低限の言葉は通じるんだけど、なんか時代錯誤って感じがする。

だから僕は、一緒に過ごす中で霊華に沢山の言葉を教えた。


「霊華、これはスマホっていうんだ。」

「スマホ?」

「そう、人類の技術の結晶だ。なんでもできるんだから」

「へえ……」

彼女は意外と頭が良いようで、スポンジのように様々なことを吸収していった。


霊華と過ごしていて、分かったことが2つほどある。


まずいきなりだが、彼女は生物的に人間とはかなり違う。

体はものすごく軽く、ざっと5kgといったところだろう。

対して、力は人間より強いくらいだ。

一歩の踏み出しで10mくらいは飛べてしまう。

極めつけは、妖術というか、そういう類が扱える。

例えば、僕が樹海の坂を転げ落ちた際にできた傷。

霊華が左手を僕にかざすと、ほとんど一瞬で痛みが引いてしまった。


次にだが、霊華は人を殺す。

霊華は、樹海にさ迷う人々を見つけては、無作為に襲っていた。

霊華曰く、人を殺すと色々と満たされるらしい。

死神の本能的なものだろうか。魂を食料にしてるってことかな?

襲われる人たちには少しだけ同情はするけれど、今更人の命などどうでも良いと思っている僕は彼女の行為を止めることはなかった。


僕には彼女を知りたいという生きる目的ができてしまった。

死ぬことを先に延ばした僕は、家に帰って、普段通りに高校に通うようになっていた。

というのも、流石に樹海に住んでいたら食べるものがなくて詰むからだ。

帰りの電車賃はないからな...ああ、何十キロの道のりを歩いて帰ったさ。


それからというものの、

平日は学校に通い、土日は樹海に通うというのが、僕の日常になっていた。


そんな生活が3年続き、僕は高校を卒業した。

今は工場で働いている。


今でも僕は以前と同じく、休日に樹海に行っては彼女と会っていた。

本人には言わないけど、ある意味では恋人のようだ。

奇妙な点は2つだけ。

人を殺す、危険な恋人。

そして、いざとなったらきっと僕を殺してくれる、最後の拠り所。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ