殺人鬼とデパート(後編)
今回でとりあえず書きたかったものが完結です。続編はモチベ次第...
僕らはエスカレーターを使って5Fに上がる。
けど、エスカレーターでは屋上には上がれない。
このビルの屋上に行くには、階段を使うしかない。
ゆえに、僕らは5Fのフロアを歩いて移動する。
辺りは相変わらず人の血、死体。
僕はもう慣れてしまったが、木月さんは怯えている。
「あ、あの、大丈夫?」
僕は木月さんを気遣うが、木月さんの顔は青い。
「ダ、大丈夫...デス。」
凄く小さな声で、そう言ったみたいだ。
そんなやりとりをしながらも階段が見えてきた。
左右にあるレストランを通過した先に、階段がある。
僕らはてくてくと歩いていく
「タクト!」
霊華は突然僕を押す。
直後に銃撃と、窓ガラスが割れる音がした。
うっ。油断した。
また殺人鬼か?
そう思ってレストランの方を見ると、そこには武装した一般人がこちらを睨んでいた。
服装はサラリーマン姿だったり、私服だったり様々。
ぱっと見て5人はいる。
「まずいね。」
と霊華が言う。
確かに、僕たち3人に対して武装した一般人が5人。圧倒的に不利だ。
すると、その中の一人が口を開く。
「お前らだな?ビルで人殺しまくってる奴は!」
くそっ。
さっきの田中くんと同じ、宝箱から武器を得て、殺人鬼を狩ろうとしている人たちだな。
「いや、違うんですよ!僕たちは全員巻き込まれたんですって……」
一応、弁明してみる。
「だったらその死神を使役するってどういうことだよ!」
と、正論なツッコミが返ってくる
そんなことをしていると、霊華は僕に聞こえるだけの小さな声で呟き、鎌を構える。
「あんたら雑魚に構っている暇はないんだよね~」
(..余裕かこいつ。)
さらに、霊華の後ろからぞろぞろと赤い目玉が登場する。
パシャ
パシャ パシャ
赤い目玉に見られてしまった何人かの一般人が頭から血を吹かせて倒れる。
「あ、あぁ!?」
一般人の人たちは恐怖で動揺している。
「撃て!」
それでも彼らは銃を構えたり、ナイフを構えたりして戦闘態勢を取る。
「タクト、さっさと階段登ってよ」
霊華が僕に言う。
確かに、ここで僕らがいても足手まといだ。
「木月さん。いこう!」
「...っ!」
木月さんも固まっていたが、僕は彼女の手を無理やり引っ張って階段に向かう。
霊華も、赤い目玉に一般人を襲わせて僕らを追いかけてくる。
僕は木月さんと一緒に屋上へ向かう。
屋上への扉には錠がかけられていた。
でも、1Fのやつとは違って一般的な錠だ。
これくらいなら...
「木月さん。ちょっと待ってて」
僕は刀を構えて錠を斬る
「バリーン」
よし、開いた。
そして僕は木月さんを引っ張って屋上へ出ようとする。
「...どうして」
「え?」
木月さんは足を曲げて座りこくってしまった。
「どうして、人を殺すの?」
掠れた声で、泣きそうな声で、僕に問いかける。
「……」
僕は何も言えない。
人を殺してほしくないのはわかる。でも、僕だって死にたくないんだ。だから……
木月さんは目に涙をためて続ける。
「人を殺しちゃダメなんだよ?それは悪いことなの!ねえ、なんで人殺しなんてするの?」
なんでなんて言われても……人を殺すのって悪なのかな? そりゃそうか。普通は殺すことは悪いことか。
今更だけど、霊華は木月さんの同期を殺してるし、僕も彼らを見殺しにしてしまった。
そのうえで今も、一般人を殺している。
僕は霊華とずっといたのもあって、人間の命が軽いものに感じられてしまうけど、普通はそんなわけないよな。
「ごめん」
僕の口からはそれしかでなかった。
「行こう。木月さん」
でも、それでも僕は行くしかない。
「もういや!」
そう言って彼女は僕の手を拒絶する。
「……」
一体どうすれば....
そんな木月さんを見て、僕は考える。
「ハア、ハア、ハア、ハア...ゲホッ、ァァ」
木月さんはとても苦しそうにしている。
「もう、その子はダメだよ」
いつの間にか僕の後ろに霊華がいた。
「その子はもう、壊れてる」
「……っ!」
木月さんは怯えるように霊華を見る。
「シニ...が...ミ」
「そうだよ。」
霊華は木月さんに近づく。
「木月ちゃん。死にたい?」
「……しに……たい」
彼女は霊華の赤い瞳を見つめながら言う。
「そう。分かったよ」
そして、霊華は鎌を振り上げる。
僕は慌てて叫ぶ。
「ちょっ!待ってくれ!」
僕の声を聞いた霊華は、鎌を下げて、代わりに左手を木月さんの顔に添えた。
「あっ.....」
木月さんはそのまま横になって、動かなくなった。
「少しだけ、痛くないようにしてあげたよ。」
「……くっ!」
...違う。そうじゃない。
なんで木月さんが死なないといけないんだ。
せっかく、ここまで守れたのに。
でも、死神には人間の心境など伝わるはずもなく。
僕は何も言えなくなり、自分の不甲斐なさを呪った。
僕は泣いていた。
木月さんは、健気で可愛い後輩だった。
機械の操作方法を教えたり、一緒に段ボールを運んだりした。
ああそうだ。僕は後輩ができると張り切って、マニュアルを改定したんだ。それをあの子はとても分かりやすいと褒めてくれた。彼女自身、日々成長していて、これからが本当に楽しみだった。
或いは、僕はそんな彼女が好きだったのかもしれない。
でもそんな彼女は、今……目の前で倒れている。
「.....」
霊華はそれ以上何も言わなかった。
慰めの言葉もないのだろう。
死神にそれを求めるのが酷なのはわかっている。
でも、僕はその沈黙が辛かった。
「霊華。」
「?」
「僕は、どうすればよかったんだ?」
「……」
「僕は、どうすれば結衣さんを救えたんだ?」
「……知らない」
霊華は冷たく突き放す。
「そうか」
「でもまともな子だから、耐えられなかったんじゃない?」
「普通、死神と手を組んだりしないから。」
「……そうだな。」
そりゃそうか。
人を平然と殺すやつに助けられる なんて、精神が狂っていないと受け入れられない。
僕は、僕なりに彼女を守ろうとした。
でも、それは僕のエゴでしかなかったみたいだ。
「木月さんは僕が殺したようなもんなのかな。」
「……さあね」
そんな会話をしながら、僕も霊華も階段を降りていった。
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後日。
例の大量殺人事件が報道されていた。
被害者は千人を超えた。
歴史に残る甚大なテロ行為だ。
生存者は確認されていない。被害者の死因も様々で、銃殺、刺殺、毒殺、撲殺、、など。僕が見なかった殺人鬼たちも暗躍していたらしい。
そして、容疑者とみられる人物は、まだ定まっていない。
ただ、武装していた人が何人かいたため、その者たちのテロ行為ではないかと推測する意見もあるそうだ。
霊華を含め、殺人鬼たちのことについては一切足がついていないようだった。