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殺人鬼とデパート(中編)

僕は今、マシンガンを持った男に狙われている。

商品棚を使ってなんとかやつの視界から消えることができたが、ここにいても危険だ。

どうする。。

己の選択によっては即死だ。


...ここから動かないのは悪手だろう。すぐに見つかる。

なら、マシンガン男の視界に入らないことを祈って、もっと遠くへ逃げるしかない。。


……よし、いくぞ。。

僕は今いる店舗ブースからさっと出てきて、奥にあるエスカレーターに駆け込んだ。



エスカレーターを登りF3についた時には、マシンガン男の姿は全く見えなくなっていた。

僕は胸をなでおろした。

「これで一安心かな?」


でも、霊華と離れてしまった。。

唐突なことで仕方なかったとはいえ、霊華が心配だ。

今登ってきたエスカレータは危ないので、僕は別のエスカレーターがある場所に向かう。

3Fの通路も、相変わらず死体が蹣跚としている。


「ん?」

3Fのエスカレーターに向かう途中で、見覚えのある姿があった。

会社の後輩たちだ。

「あれ?先輩じゃないですか!」

後輩たちが僕に気づいて声をかけてくる。

「みんなも、このビルに来ていたのか。」

僕は生存者と合流できた喜びと、皆殺されるんだろうという絶望を感じながらも、後輩たちに近づいた。

「はい。3人で買い物していたんですが、、なんだか変なことに巻き込まれたみたいです。。」


後輩たちは不安そうな顔をしている。

後輩たちについていうと、

後輩内でリーダー的な立ち位置にいる田中くん。

僕が教育担当になっている木月木月さん。

あんまり印象はないけど渚沙くん。


皆知ってる人だ。特に木月さんとは毎日話している。

可哀そうに、、みんな殺人鬼たちに殺されるのだろうか?


なんとか助けてあげたいところだが、、

「先輩。まずは今わかってることを共有しませんか?」

さっそくと言わんばかりに、田中くんは僕に提案してきた。

まずは、情報共有か。

流石田中くん。良い判断だろう。

...霊華のことは黙っておいたが、僕も今まで知ったこのビルの出来事を一通り話した。


「なるほど、赤い目玉、忍者、マシンガンを持った男に襲われたんですね。。。」

「先輩、良く生き延びましたね。。」

後輩たちは口々に感想を言っている。

「まあ確かに、運が良いのか悪いのか……」


「みんなは、ここにいて何か分かったことはある?」

「いえ、僕たちも分からないことだらけです」

「電話はつながらないから助けも呼べないし。。」

「ただ、道中で怪しい宝箱がおいてあって、そこでこういうものを拾ったんです。」

後輩はそう言うと、ポケットから拳銃を取り出した。


「これは、殺人鬼に対抗できる武器だと思います。」

「な、そんなものがあるのか。」

「はい。」

田中くんはひと呼吸おいて続ける。

「まるでデスマッチです。殺人鬼と、僕ら一般人。両者を戦わせて、どちらが生き残るかを見ているような..」


....なるほどな。

田中くんの推理はたぶん合っている。

霊華の話によれば、この事件には殺し屋たちを雇っている主催者がいるのだ。


主催者の目的は分からないが、単なる虐殺目的なら、宝箱に武器などおかないはずだ。

ならばこういうデスマッチじみた戦いをけしかけることが、本来の趣旨だろう。


そんなことを考えていると、渚沙くんが僕の袖を引いてきた。

「あの、先輩。」

「……ん?なに?」

「あそこにも宝箱があります。行ってみましょう!」

「え?あ、ああ……」


後輩の指さす先は靴屋のブースで、その通路には確かに怪しげな宝箱がおいてあった。

「お、この箱か」

「はい!」

後輩は嬉しそうに答えた。

僕は箱を開けてみる


「ん?なんだこれ?」

「これは……」

中には刀が一振り入っていた。

試しに握ってみると、ずっしりと重たい。

おもちゃではない。たぶん本物の刀って感じだ。


「結構重いな……」

「先輩、ちょっと使ってみてください!」

後輩は目を輝かせながらそう言った。

まあ、誰も使わないよりはいいか……。

僕は刀を構えてみる。


剣術については霊華と遊ぶときに教わった記憶がある。

霊華は鎌を、僕は刀をもって、一緒に稽古をしていたな。

まあ、あの時の刀はもっと軽くて、刃もついてなかったけど。


「とりゃっ!」

僕は刀を振り下ろす。

一応、扱えなくはないか。。

「先輩!すごいじゃないですか!」

田中くんは興奮気味で言った。


「あ、ああ。ありがと」

こいつこの状況を楽しんでないか?

まあ、こうして自分の隠れた能力を褒められるのはちょっと気持ちいいな。

「僕らは一通り武器を集めたので、先輩はぜひその刀を使ってください!」

「一緒に殺人鬼たちを倒しましょう」


「う、うん。」

確かに、霊華と離れていた上に、武器もないんじゃ不安すぎるな。

それに、普通なら絶望するべき状況だというのに、彼らは希望をもって前向きに生きようとしている。

そんな彼らの中にいると、不思議と自分も安心してくる。。


ただ、田中くんたちは殺人鬼を全員倒すと言っていた。

それが可能なのかはさておき、もしそうなったなら、田中くんたちは霊華とも戦うことになるのだろうか。。


もしそうなったら、僕は。。

「先輩、大丈夫ですか?」

木月さんが僕を心配して声をかける。


「……いや、なんでもないよ。皆凄いなって思って。」

僕は気持ちを切り替えて言った。

「うん。皆についていくよ。ここを生き残ろう!」

「はい!!」

僕たちはエスカレータで4Fに上がろうと、フロアの中央にやってきた。

僕は念のため3Fから登ってくるエスカレータに誰もいないことを確認した。


が、そこにはエスカレータを登る霊華がいた。

マジか、、心臓が飛び出そう..


「皆、逃げろ」

僕は冷静な声で皆に告げた。

「え、どういうことですか?」

田中くんも下のエスカレーターを見に来る。。


あ~やっぱり見ちゃう?

逃げて欲しいんだけど...


きっと田中くんには、エスカレーターを上がってくる血のついた大鎌を持った、超地雷系女子が見えたことでしょう。


「死神!?」

田中くんはそうつぶやきながら、拳銃を構えた。


「バカっ、やめろ田中!!」

僕は叫ぶが、もう遅い。


田中くんは拳銃を発砲する。

が、その次の瞬間には、霊華がエスカレーターを登り切り、田中くんの首を刺した。


「あぁぁぁぁ!」

その光景を見たほかの後輩たちも武器を構える。

田中くんを刺した霊華は、鎌についた血を舐めた。

「....」

霊華は何もしゃべらず後輩たち、そして僕を見ている。

とてつもない緊張感だろう。。

後輩たちも、霊華のただならぬ雰囲気に圧倒されている。


僕が考え得る最悪のシナリオが実現してしまった。

どうする..

すると、田中くんが叫ぶ。


「うぉぉおおお!!みんなでかかr...ゲホッ、オエ。」

死にそうな息を隠しながら田中くんは俯く。

でも言いたいことは伝わった。


「お、おう!」

「はいぃい」

とまあ、みんな威勢よく返事をしたものの……


先に動いたのは霊華だった。

霊華は木月さんに狙いを定めて走り出す。


やばい、このままだと後輩たちが皆殺されちゃう。

でも霊華と戦いたくはない..

僕は田中とは間反対のことを言う。


「皆逃げろー!」

そう言って僕は霊華に突撃する。


ガキーン


! 僕の刀と霊華の鎌がぶつかり合い、火花を散らす。

霊華は、僕を見てとても不満そうな顔をしている。

...うう。怖い。。


「た、田中くん!」

木月さんは倒れた田中くんを背負って逃げようとしている。

だが、霊華はそんなことお構いなしに僕に追撃する。

僕はその攻撃を必死に受けながら叫ぶ。

「木月さん!今のうちに逃げて!」

「でも、先輩は!?」

「早く逃げろ!!」

僕は全力で叫んだ。


「うお~先輩!援護します!」

渚沙くんがスタンガンを持って霊華に襲いかかる。


霊華はかわそうとするが、僕に前方を取られているせいで全力で対抗できない。

霊華にも死んでほしくない僕は、一歩引いて霊華から離れる。

次の瞬間、霊華は振り返ってスタンガンを持った渚沙くんを刺した。

グサッ。後輩Aの頭に鎌の刃が刺さる

バチバチバチ!! スタンガンの電撃が霊華を襲う。


「あっ」バタン。

渚沙くんは即死した。

「うぐっ」

霊華も、電撃を浴びて体をゆらゆらさせている。


しかし、霊華は鎌を床に突き刺してなんとか持ちこたえた。


「木月さん!早く逃げろ!!」

僕は叫ぶが、木月さんは足を止める。

「私は逃げません!」

木月さんの目には強い意志が宿っているような気がした。

彼女は両手で一本のナイフを構えた。


「うおおぉぉお~!!」

田中くんは叫びながら拳銃を構えた。

あ、ヤバいやつだコレ。


田中くんは霊華さんに向かって発砲しようとしている。

くそっ。僕は..どうすればいい?


ban!

銃弾は霊華の体を直撃し、空いた穴から血が噴き出した。


バタン...

田中くんは再び血を吐き出して床に倒れた。。


「……許さない」

霊華は小さいながらもよく通る声で言い放った。


「先輩、今です!」

木月さんが僕に促す。


でも、僕は動かなかった。

自分でもどうしたらよかったのか分からない。。


ただ、僕は霊華にも、後輩たちにも、これ以上傷ついてほしくなかった。

でも、霊華は木月さんに向かって歩き出す。


木月さんはナイフを取り出して前に向けるが、恐怖の表情で霊華を見ている。

今度は木月さんも。。

僕はとっさに木月さんに抱き着いた。

そして体を振り返らせて霊華の方を見て、言う。


「霊華..!」

霊華は鎌を振りかぶっているところだった。

...僕は目をつむることなく、残されたわずかな刹那で霊華を見つめた。

鎌が押し出してきた風が首元に当たる。

しかし、実際の鎌は僕の首元で止められていた。

……ギリギリセーフ。

霊華は僕の声を聞いて、鎌を止めたのだ。

「……」


霊華は無言で僕を見た後、ようやく言葉を発した。

「どっちにつくのかはっきりしたら?」


ああ、僕は今、霊華と後輩たちの戦いにおいて、どちらも傷つかないように誘導しようとしていた。

霊華につくなら、僕は後輩たちを見捨てるべきだった。

もし後輩たちに本当に味方するなら、全力で霊華と戦うべきだった。

でも僕は、中途半端にどちらにも肩入れした。


だから、後輩たちは死に、霊華に鎌を向けられることになった。

「……」

僕は何も言えなかった。

「タクト先輩..?どういうこと...ですか?」

木月さんは困惑しながら僕に問う。

「僕は……」

「僕の味方は、君だよ」

僕がそういうと、木月さんは嬉しそうに言った。

「先輩……!」


僕は霊華を見る。

彼女も僕を見ている。

霊華は少し、悲しそうに言うのだ。

「そう。私より、こんな子を選ぶの?」


「違うよ」

僕は即答した。

「僕は、君の味方でもありたいんだ」

今の僕の正直な気持ちを言った。


……でも、霊華の目には不満そうで、悲しそうな目が宿り続けるばかりだ。

「私言ったよね。ここから出るためには、全員殺さないといけないんだって」

「うん...」

「だから、、その子は助からないよ」

「……」

霊華は、木月さんを救えないと言っている。

でも僕は……


「ごめん。霊華。」

「?」

「木月さんだけで良いから。」

「お願いだから、この子だけは殺さないで。。」


僕は頭を下げた。

「……タクト」

霊華は悲しそうな目で僕を見る。

「そんな甘いこと、言ってると死んじゃうよ?」

「うん。わかってる。」

「お願いだよ。」

「……」

僕がそう言うと、彼女は鎌を下ろした。


「はあ~~~」

霊華は大きなため息をついた。

「じゃあ、私もタクトにつくよ。」

そういうと、彼女は鎌を後ろに向けた。


「言っとくけど、貸し一つじゃ済まないから。」

「今回の依頼料、1億円だからね?」

「え、ああ。わかったよ」

霊華はようやく微笑んでくれた。

そして、木月さん向けて言う。

「あんたも、それで良いんだね?」


木月さんは一瞬迷ったようだが、僕の目を見て言った。

「はい」

「……うん」

霊華は何か言いたげな感じだったが、結局何も言わなかった。そして、背中の鎌を下ろしながら言う。

「じゃあ、さっさと出ようよ?こんなところ」

そんな霊華に木月さんが聞く。

「あの、あなたも一緒に来るんですか?」

すると彼女は笑う。

「だから言ってんじゃん。私はタクトに味方するって」

「そ、そうなんですか。」

2人はそんな会話を交わした後、僕をじーっと見た後に言う。


「タクト先輩って何者ですか?」

と木月さん。

「...ただの人間だよ。」

と僕は答えた。

「私は知ってるけどね、このタクトは……」

と霊華が言いかける。

「さあ行こう!2人とも!」

僕はわざと大きな声で言って、話題を逸らす。

2人も納得したようで、とりあえず僕たちは先へ進むことになった。


「...とは言ったものの、どこに行けばよいんだ?」

僕は大事なことを思い出したように呟いた。

1Fの入り口は開いていない。

一般人を全滅させて脱出も...木月さんがいるのでできない。


「屋上から逃げれば良いでしょう?」

霊華が軽そうにつぶやく。

「確かに、屋上なら外に出られるかもしれませんが、でも..そこから飛び降りても落下死ですよ?」

木月さんが言う。


霊華は答える。

「私は死神だからね♬」

霊華には考えがあるみたいだった。

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