#記念日にショートショートをNo.30『恋ひらく、綴る想い』(Love is open,Feelings to spell.)
2020/4/23(木)サン・ジョルディの日 公開
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【関連作品】
なし
人生は、物語だ。
本に様々なジャンルがあるように、人生の本にも彩り豊かな景色がある。
もしもいま一頁が刻まれるとしたら、あなたの一頁はどんな色をしていますか?
私の一頁は、薄桃色➖➖。
図書室、風に揺れるカーテン、あたたかな日差し。
「僕の顔に、何かついてる?」
思わず本を読む姿を眺めていたら、杉本くんが私を見た。
「あ、いや、そうじゃないよ!」
しどろもどろになって、目をあちらこちらに泳がす。恥ずかしくなって、本で顔を隠す。本から目だけ覗かせて、チラリと杉本くんを見る。
「なに、常路。」
「わひゃあ!」
変な声が出てしまい、思わず口元を手で隠す。そんな私に、前の席に座る杉本くんが、クスッと笑った。
そんなささやかな日々が、楽しかった。
私の名前は、常路 紅花(つねみち こうか)、高校2年生、16歳。
見た目も成績もごく普通、どこにでもいるような、ありふれた女子高生だ。
そんな私には、4年前の中学1年生の時から、片想いしている人がいる。
名前は、杉本 蒼助、同じく高校2年生で16歳。
杉本くんは、穏やかで、やさしくて、努力家で、みんなからの信頼も厚い、私とは違う世界に住んでいるような人。
中学の時は一度も同じクラスになれず、接点を作ることが出来なかったが、高校では1年も2年も同じクラスになることができた。
杉本くんとの距離が縮まるにつれ、日に日に想いが加速していく。
4月のある日。
人気のない図書室の本棚の前で何を読もうか本を眺めていると、横から声を掛けられた。
「常路、ちょっといい?」
声のした方を振り向くと、真面目な顔をした杉本くんが立っていた。
「いいけど……なに?」
「今日、何の日か知ってる?」
無人の貸し出しカウンターに置かれているカレンダーを見る。日付は、4月23日。
「知らないけど……?」
「そう。じゃあ、これ、あげるよ。」
杉本くんが一冊の文庫本を差し出す。
「言っとくけど、これ図書室の本じゃないからな。ちゃんと書店で買った本だから。」
淡い桃色のカバーが掛けられた文庫本を受け取る。
「あ、ありがとう……。でも、何で?私、杉本くんに何もあげていないし、私の誕生日でもないよ?」
少し耳を紅くした杉本くんが、そっぽを向き、
「何でもいいから!じゃあな!」
と、それだけ言って図書室を走り去った。
窓の外の夕焼けを感じながら、文庫本を眺める。
その時、脳裏に言葉の記憶が甦った。
今日、サン・ジョルディの日だ………。
少し耳を紅くした杉本くんの顔が目に映る。
甘酸っぱい感情が心に芽生える。
文庫本を抱え、その場にしゃがみ込む。
「そういう、ことだよね……?」
本に掛かるカバーと同じ色をした頬に、期待が弾んだ。
【登場人物】
○常路 紅花(つねみち こうか/Kouka Tsunemichi)
●杉本 蒼助(すぎもと そうすけ/Sousuke Sugimoto)
【バックグラウンドイメージ】
【補足】
①登場人物の名前について
常路 紅花,杉本 蒼助の両名とも「サン・ジョルディの日」から取りました。「サン・ジョルディの日」の習慣である本や赤いバラを贈る行為や、カタルーニャ地方の一輪の赤いバラに青い麦の穂を添えて花束にする行為も、由来に組み込みました。
○常路 紅花
・「常路」:「サン・ジョルディ」の「ジョルディ(Jordi)」を「ジョージ」と英語読みし、そこから→「じょうじ」→「常路」。
・「紅花」:赤いバラを贈る習慣→赤い花→紅花
○杉本 蒼助
・「杉本」:「サン・ジョルディ」の「サン」→「杉」(「杉」は音読みで「さん」だから)/本を贈る習慣
・「蒼助」:青い麦の穂を添える→青い→蒼助
②「サン・ジョルディの日」について
「サン・ジョルディの日」は、スペイン・カタルーニャ地方の守護聖人サン・ジョルディを讃える日です。この日は、本や赤いバラを贈る習慣があり、カタルーニャ地方では一輪の赤いバラに青い麦の穂を添えて花束にします。
【原案誕生時期】
公開時