高宮課長召喚
ついさっき書き上げました。
朝の4時55分。
更新は6時。
締め切りに追われる人みたいでちょっと面白かったです。
「絶対だよ⁉ 絶対だからね⁉ きみが何か問題を起こしていたとしても、絶対 私を巻き込まないでくれよ⁉」
専務に呼び出された専務室のあるフロアの廊下を歩く部長と高宮。部長は高宮になんとか「部長は無関係です」と言わせるための言質を取りたい様で何度も何度も同じことを言っていた。
一方、高宮の方は何度も同じことを言われて少しげんなりしていた。
「あー! 営業部の雑餉隈部長じゃないですかー!(棒読み)」
突然現れた若者が棒読みで営業部の部長こと、雑餉隈部長に話しかけた。
その若者は、20代のイケメンで髪は短く切りそろえられ、さわやかな印象。ノーネクタイでわずかに柄の入ったカッターシャツのボタンは第2ボタンまで外されていた。
「大橋部長! これはこれは!」
雑餉隈部長は揉み手でペコペコしていた。
部長と言えば、若者と言えば見下して無理を押し付ける対象としか見ていないのだが、この大橋は部長は部長でも営業本部の部長であった。つまり、本部長。雑餉隈部長よりも部長度が高いのだ。
若者は見下すけれど、長い物にはぐるぐると巻かれるのが雑餉隈部長という人物だった。目の前の少し軽そうな若者は自分よりも格上なのでペコペコしていた。
「実はさぁ、専務が部長に直々にお願いがあるんだって」
大橋暢晃は、雑餉隈部長の肩に腕を回して馴れ馴れしく言った。
「なっ、なんでございましょう?」
雑餉隈はこの時点で大抵のことは受け入れる態勢が整っているようだ。
「いやさ、きみは係数励振におけるカオス理論とフラクタル図形についてどう思う!?」
「……と、申しますと?」
雑餉隈には何を言っているのか伝わらなかったようだ。
「つまり、無精卵を1000個割って、何個くらいヒナが生まれそうか調べて欲しいんだよ!」
「はいい?」
「よーし! 行こうか! そこの応接室に鶏卵を1000個準備してるから!」
「あの……! ど、どういうことでしょうか?」
「よーし! ドア・イン・ザ・フェイス成功だね! あ、高宮課長は秘書室に行ってね」
大橋は訳の分からないことを言いながら、雑餉隈を連れて応接室に入って行ってしまった。
廊下でぽつんと一人残される高宮。
「な、なんだったんだ……」
でも、秘書室に行けと上から言われればその通り行くあたり、根っからのサラリーマンなのだろう。
◇
数メートル歩いて「秘書室」と書かれたプレートがドアに張り付けてあるドアの前に高宮は着いた。
「秘書室……ここには社長や専務のための秘書がたくさんいる部屋……」
高宮は女性嫌いという訳ではなかったが、若くてきれいな女性に囲まれるのは苦手に思っていた。少し居心地が悪いと感じてしまっていたのだ。
若くてきれいな女性ばかりが秘書とは限らないが、それは高宮の勝手な想像。秘書たちは、ニコニコと作り物の笑顔を顔に張り付かせ、表面上はにこやかだが、優秀な分裏で自分の事を見下しているのではないかと想像していたのだ。
笑顔の裏で何を考えているのか分からない存在……それが高宮にとっての「秘書」だった。
「でも、中には新入社員ちゃんもいる! この機会に彼女の職場をちょっとのぞくこともできる!」
高宮がドアをノックしようとグーにした右手を肩の高さまで持ち上げた時だった。
「あ、高宮さん!」
見知った声に呼ばれた。
「ん?」
高宮が振り返ると、そこには彼曰くの「新入社員ちゃん」がいつもの様に高そうなスーツを身にまとって立っていた。
「し、新入社員ちゃん!」
「やっぱり高宮さん……いえ、高宮課長! お疲れ様でーす」
輝く様な笑顔。こぼれる光。この瞬間、高宮は思った。「この子、マジ天使やで」と。高宮は九州出身で、関西には一切済んだことはないのになぜか関西弁だった。しかも、関西の方ならツッコまずにはいられないくらい下手くそな嘘関西弁だった。
「実は、お宅のボスに呼ばれちゃってさぁ……俺、何かしたっけなぁ?」
愛想笑いの様な、自虐笑いの様な、いびつな笑いを浮かべる高宮。
「そ、それなんですけど、褒めるためではないでしょうか?」
「えー? 俺に褒めるところなんてあったっけ?」
「営業二課の深刻な人材不足を迅速に提案したり……」
「したっけ?」
「その新人を迅速にOJTで戦力に底上げしたり……」
「したっけ?」
「課内をいい雰囲気にするために社内交流活動を企画したり……」
「したっけ?」
北海道の方言で「したっけ」と言えば「じゃあね」と別れる時にいう言葉なのだが、ここでは全く関係が無い。
「あと、えーっと……」
新入社員ちゃんが顎に人差し指を当てつつ考えている仕草をしていると、高宮は益々不安になっていた。
「まあ、いいじゃないですか! 一緒に入りましょう!」
「え? ここにぃ?」
明らかに気が乗らない高宮。でも、専務から呼ばれたからにはこの部屋に入らざるを得ないのだ。「専務」と聞いて、まだ見たことのないロマンスグレーの男性を思い浮かべている高宮だったが、実のところ「専務」とは目の前の彼が「新入社員ちゃん」と呼んでいる天神ももかこそがこの会社の専務だった。
ガチャ「お疲れ様でーす」
天神ももかは高宮に考える余裕すら与えない程、秘書室をノックもなくすんなりとドアを開け部屋に入ってしまった。それだけではなく、高宮のシャツの左の袖を天神ももかは右手の人差し指と中指だけでちょんとつまんで秘書室に引き入れたのだ。
袖を引かれてなんだか嬉しい気持ちになって、ついつい無防備に秘書室に入った高宮。
そこでは意外な光景が繰り広げられていた。
次回、いよいよ高宮が秘書室に入ります。