おっさん専務からの呼び出される
「高宮くん! 高宮課長ーーーっ!」
ああ、また部長が俺を呼んでいる。その声はオフィス内に轟いている。朝っぱらからテンションが下がる。
あの呼び方はめんどくさいことになる時の呼び方だ。いや、つい先日 俺は新入社員ちゃんの清らかさをインストールしたばかりじゃないか。めんどくさがらずにちゃんと対応しよう! それこそ笑顔で!
「なんですか? 部長、どうかしましたか?」
俺は部長の席に小走りでかけて行き、元気に答えた。
「おお! 高宮課長! きみは何をしたんだね!? 今日の午後に専務から呼びだされたぞ!」
「え? 自分、何もしてないですよ? そもそも専務とはお会いしたこともありませんし……」
「し、しかし、直々に呼び出しだぞ!?」
「勘弁してくださいよ~」
この時、俺の頭の中ではフル稼働で俺と専務のつながりを検索していた。
唯一思いついたのが、専務のところの秘書である新入社員ちゃん。俺が定時に屋上で彼女と憩いのひと時を過ごしているのを知ってお冠……とか?
いや、別に俺は彼女をおちょくったりしていないし、手を出したりもしていない。やましいことなどないのだ。新入社員ちゃんが積極的に俺に害をなすようなことをするとは思えない。
なぜなら、彼女は俺の癒しだからだ! 天使であり、女神なのだから!
「とりあえず……高宮課長、午後イチ専務のところに伺うから、粗相のないようにね。きみが何かやったのなら、くれぐれも私を巻き込まないでくれよ?」
「はあ……」
またこの部長は自分の保身から入ったよ……。
「私には今度大学に入学する娘がいるんだから……」
部長のどうでもいいお小言が始まった。既に俺の耳には部長の声は入って来ていない。俺の意識は未だ見ぬ専務に向いていた。
俺の勝手なイメージでは55歳くらいの白髪交じりのナイスミドルだ。細い銀縁のメガネをかけていてズボンの裾はダブルだ。スタイルはすらっとしていて、目はいつも笑っている様な顔。でも、ある時 細い目を開くと鋭い眼差しが向けられる……。そんな感じ。
まあ、一度も会った事が無い俺の勝手な妄想だけど。
しかも、社内の噂では「若い」という話は漏れ聞こえて来ているので、40代……いや、意外にも30代ということもあり得る。30代とかになると俺よりも若いじゃないか。入社してすぐに専務とか俺とは全く違う人種なのだろう。
はー、そんな人から呼び出されるってなんだろう?
嫌な予感しかないんだけど……。
部長のよく分からない愚痴はまだまだ続いていた。仕事に戻らせてくれ……。
◇
「え⁉ 高宮さんを呼んだんですか⁉ ここに⁉」
専務である天神ももかは驚いていた。専務室の専務用の机はラグジュアリーでブラウンと黒を基調とした重厚な机だった。そこに黒い革張りの椅子があり、彼女はその椅子に座っていた。
スーツこそ約20万円の高級スーツだが、彼女はまだ23歳。高級スーツを着せられている印象はぬぐい切れない。
それでも肩くらいまでの黒髪ストレートは清潔感があり、彼女を清楚な印象に見せていた。高宮と屋上にいる時は絶やさない零れる様な笑顔はここでは鳴りを潜め、片頬を膨らませて目の前の大橋部長に不満をぶつけていた。
その大橋は、20畳ほどの専務室の来客用ソファにうつ伏せに寝そべっていた。
「あぁ、なんか オキニなんでしょ? あのおっさんのことが。呼び出してボスの前で褒めときましょうよぉ。ウマニンジンだよウマニンジン。その方が、よく働いてくれるんじゃないの?」
天神ももかの部下である大橋暢晃。彼の役職は部長だった。歳こそ天神ももかよりも1歳か2歳上なのだが、いずれにしても「部長」という役職を冠するには若すぎる印象だった。
「ちょっとぉ! 暢晃くん! そのソファ高いんですから! 靴で上がらないでください!」
高級な椅子から立ち上がり、両手を上下に振りながら抗議する天神ももか。ここにも若干子供っぽさが出てしまっていた。
「まあまあ、堅いこと言いっこなしでしょ? ももちゃぁん」
大橋暢晃はごろんと仰向けに寝転がり両手を伸ばしてリラックスしたポーズを見せた。外部の目がないのをいいことにだらけ切っていた。ちなみに、上品な艶のある来客用ソファは約200万円だった。
「いくら従兄でも社内では『専務』って呼んでって言ってるでしょぉ!」
両手に握りこぶしを作って従兄である大橋に文句を言う天神ももか。
「暢晃くんとか先にプライベート呼びしたのはももちゃんでしょうがぁ。あー、いいのぉ? そんなに切れやすい姿をオキニのおっさんに見られちゃってもぉ」
大橋暢晃は仰向けに寝転んだままニヤニヤとした表情で天神ももかを揶揄う。
「き、切れやすくとかないからっ!」
慌てて佇まいを直す天神ももか。
「もう! やめてください! 高宮さんの前だけでは私はいい子でいたいんですから!」
「大体キモいよね。自分がかわいく見える角度とか研究して、おっさんから最もかわいく見えるように角度調節してるよね?」
「いいい、言わないでぇ!」
「あざといっていうかさぁ……」
「あざとくてもいいんです! 私はなんとしても高宮さんに好かれたいんですっっ!」
「まぁた、そんないい子ちゃん発言してぇ。ホントは変態的に大好きなんでしょ? あんなおっさんがぁ」
「そっ、そんなことはありません! ちょっと気になったから、気付かれないように後を付いて行って……通勤経路を確認しただけだから!」
「それは普通にストーカーだから! ストーカーの発想だから」
「会社業務です! 申請のあった通勤経路をちゃんと通っているか、抜き打ち調査です!」
「いやぁ、それは完全にプライバシーの侵害だと思うなぁ。しかも、他の人の通勤経路とか絶対調べないでしょぉ? あと、それだけじゃ収まらなかったんでしょうぉ?」
「あとは、そのままお家に入って行くのを見守って、高宮さんのお家の場所を確認してみただけです!」
「それは完全にアウトでしょう!」
「……ちょっとだけ、外からお宅の窓を見てただけですから!」
「それはねぇ、もう、犯罪者の視線だから。ゴミとか漁ってそうで怖いよ。ももちゃん」
「ゴミはっ! ……ゴミは我慢しました」
「そのぺらっぺらの防波堤は今にも崩れるやつだよ……」
「とっ、とにかく! 社内では専務として高宮さんとは会いません! 私の大事な高宮さんとの時間を奪わないでください!」
「えーーーー。そんなに気になるなら部下にして手の届くところに置いておいたらいいでしょう」
「え!? 専務として会ってしまったら関係が壊れちゃうじゃないですか!」
「そんなこと言っても、もう呼んじゃったよぉ? 昼にはここに来るよ?」
「きーーーーっ! そうだったーーーー! どうしたらいいのぉーーーっっ!」
頭を抱えて専務室を右に左に走り回る天神ももかだった。
ランキングも22位まで下がってきたので、
もういいかなぁってちょっと思ったのですが、
応援のコメントをいただいてしまったので、
続けてしまいました(;´Д`A ```
今週はちょっと時間の制約が多いので、
更新できない可能性が高いです。
でも、極力がんばります!
専務室に呼ばれたらどうなるのか、ちょっと楽しみだし^^