1階のコンビニ
ランキングは昨日の昼で20位まで下がってました。
こんなもんですよね。
ちょっと安心する気持ちと、残念な気持ちと^^
人の心とは難解なものです。
「あ、そのキャラ!」
「ん? これ?」
いつもの様に会社の屋上、定時後のサボりの時間だ。定時後なのでサボりなのかどうなのか微妙なところだけど、俺にはこの時間が必要だった。
新入社員ちゃんが指さしている「これ」は缶コーヒーについていたノベリティ。いわゆる、おまけだ。
コーヒーを買うと、猫のキャラクターのキーホルダーが付いていたものだ。紐が付いていて、樹脂の部品は充電用の穴に差し込むことができるようになっていてスマホなのにキーホルダーが付けられるのだ。
「好きだった? 要る?」
俺はコーヒー目的で買ったから、おまけの方は別に要らない。でも、捨てるのはちょっと違う。そう考えると逆に困るケースもある。
「いいんですか!? このキャラクター好きなんです!」
水でも掬い上げる仕草で両手を出す新入社員ちゃん。目がキラキラしていてかわいい。俺は彼女の小さな掌におまけのキャラクターをちょんと載せる。
「ありがとうございます!」
その笑顔……こちらこそありがとうございます! 癒しだ! 俺の癒し!
「この缶コーヒーってどこで買ったんですか? 自動販売機だと付いてないですよね?」
「ああ、これは1階のコンビニで買ってきたんだ。 時々、気分転換に1階まで買いに行くから」
そう、うちの会社は割と大きなビルに入っている。自社ビルだって話だから割とお金持ちの会社だろう。そのビルの1階にはコンビニが入っている。
自販機なら各階にあるので缶コーヒーを買う目的だけならそれで事足りる。でも、コンビニだと種類が多いし気分転換にもなる。だから、ちょいちょい利用しているのだ。
あのコンビニのことを考えると、毎回 思い出すことがある。まあ、昔、すごーく昔なのだけど。
年末のある日、この日は本当に運が悪い日だった。家に持ち帰った書類はUSBごと家に忘れてくるし、部長はたしか虫歯で気がたっていたんだったと思うけど理不尽なことで怒られたし、お気に入りのコーヒーカップは落として割れたし……あと何だっけ。
極めつけが、コンビニ強盗だった。定時内にコンビニに行った時にたまたま強盗に遭遇したのだ。
昼のアイドルタイムだったのか、店内に店員は一人しかおらずレジ内の店員さんはコンビニ強盗の持っている刃物に怯え切っていた。
まあ、バックヤードにいた店員が警察に連絡してくれて事なきを得たんだけど。ガチで怖かった。しかも、俺は所定内にサボってコンビニ行ってたからこっそり会社に逃げ帰ったのも後味が悪い思い出だった。相当 運が悪い日だった。
でも、あんなことが起こるのならと、コンビニに行く回数は増えたかもしれないな。その後、防犯対策が強化されたからそんな強盗が入ったのは後にも先にもあの1回だけだったらしいけど。
「コンビニと言えば、私 コンビニには思い入れがあるんです」
「そうなの?」
俺は缶コーヒーを一口飲んでから答えた。
いつも屋上での休憩の時は立ち上がりの壁に肘をついて遠くを見て過ごすのが常だった。新入社員ちゃんもそれに倣っていることが多いのだけど、今はこちらを向いて話している。前のめりだ。よほど伝えたいことがあるのだろう。
「高校の時、コンビニでアルバイトしてたんです」
「へー」
高校生の時からバイトしていたとか苦学生なのかな? いや、意外と今ではそれが普通とか?
「そのコンビニってオフィス街にあるからランチタイムが終わったら夕方までお客さんがすごく少ないんです」
「え? 高校生だったんでしょ? 昼間のバイトってできるの?」
「冬休みでした」
「あー、なるほど」
学生の冬休みは社会人の休みより長いんだったな。その間にもバイトとか偉いなぁ。
彼女はスマホに付けられた猫のキャラクターをぶら下げて指で軽くつつきながら続けた。
「ホントは二人で店番しないといけないのに、一人が裏で休憩してたんです。私はレジにいました。その時でした……」
少し寂しい顔をしながら、それでいて当時を思い出す様に彼女は話していた。
「コンビニ強盗でした。手にはカッターナイフを持ってて……。レジにはお金なんてお釣り用に1万円くらいしか入ってないのに……。」
そう言えば、年末になるとコンビニとかスーパーとかに強盗が入るニュースが目に留まるな……。銀行強盗よりハードルが低いように思うのかな?
「レジのカウンター越しだったけど、相手も興奮しててすごく怖かったんです。もう、死んだと思いました」
「それは大変だったね!」
そんな話そうそうないと思ったけど、やっぱり年末年始とか多いのかな?
「私はもう、パニックになっちゃって固まってたんです。目の前ではコンビニ強盗が大きな声を出していて、私が動かないから益々興奮しちゃって……」
「え? それどうなったの⁉」
俺は新入社員ちゃんの方を向いて続きを聞いた。
「ちょうどお店に入ってきたお客さんが、『何してるんだ!』って大きな声で言ってくれて、強盗もその声で我に返ったみたいで逃げて行ったんです」
「ケガは?」
「大丈夫でした。脅かされただけで」
「へー、それで犯人は捕まったの?」
「その人が裏から出て来たもう一人のアルバイトの人に言って警察に連絡するように言ってくれて。ニュースにもなったのでそのあと自首して来たみたいでした」
「そんな経験したのなら怖かったね!」
「はい。その助けてくれた人は気づいたら名前も言わずにいなくなってて……」
「はえー。カッコいいなぁ。でも、ケガが無くてよかったねぇ」
そんな人もいるんだな。でもまあ、何事もなかったみたいでよかった。そんな事件でケガでもさせられていたら一生のトラウマもんだ。
「はい。本当に……」
新入社員ちゃんは静かに目を閉じて、少し顔を赤らめていた。
「そのコンビニってこのビルの1階のあのコンビニなんです」
「え⁉ そうなの!?」
「だから、私はあの時 助けてくれた人を今も探していて……」
「お礼を言う的な?」
「それもありますけど……」
新入社員ちゃんは袖壁に手を置いて遠くを見ながら言った。
「犯人は筋肉隆々で金髪の若い男性だったんですけど……」
「70歳過ぎのおじいさんだったでしょ!」
「あ、そうです。そうでした。おじいさんでした」
「「ん?」」
お互い何か重要な事に気がついた気がするけど……。今日も屋上は天気が良く快適なのだった。
昨日はランキング11位でした。
6位→11位(朝)→20位(昼)とランクを下げてますから、もう大丈夫ですよね?(何が?)