新人研修
お陰様でジャンル日間7位になってました。
本当は2話とか、3話までしか書いてなかったのですが、もうちょっと書きます!
あ、お昼の更新で6位に(;´Д`A ```
新人社員2人の歓迎会について俺は少々遠慮しすぎていたようだ。若者は会社の飲み会に行きたくないという風潮があると知っていたので、彼らも行きたくないだろうと思っていた。
若者に負担を強いるのも嫌なのだけど、会社から言われて飲み会をするようにと部長から命令が出た。部長は会社からの指示には一切逆らわないので飲み会をしろ、と俺に指示を出す。
ただ若者に言うのは嫌がられると思っていたので、「厄介な仕事」として俺に回ってきた。
だから、少しでも本音で……は無理だろうから、本音に近い意見が言えるように二人を会議室に呼んで話してみた。そしたら、意外にも飲み会には行きたいのだと言っていた。
彼らなりに俺たちのおっさん世代に譲歩してくれた形だろう。良い子達だ。そこで俺は提案することにした。
「歓迎会の会場だけどさ、二人で考えてみないか?」
「「え⁉」」
「いや、二人の歓迎会なのに、会場を二人に決めさせるのは心苦しいけど、自分たちが好きなところを選んでみるつもりでさ」
「……どこでも……いいんですか?」
井尻さんが遠慮がちに訊いた。
「ああ、どこでもいい。中華屋でも焼肉屋でもクラブでもファミレスでもいい。その点は部長に言って文句を言わせないようにする」
「へー、面白い!」
「私たちの好きなところ!」
なんか二人が喜んだ顔をしている。頼んでよかったのかもしれないな。
「好きな店を選べ。忖度無しで本当に自分たちが好きなところを」
「はい! やります!」
「私も!」
こうして、新人二人の歓迎会の会場選びは、主役の二人がアポを取ることになった。
◇
「へー、それで会場はどこになったんですか?」
いつものように定時後の小休憩のために俺が会社の屋上で缶コーヒーのカフェオレを飲んでいると、新入社員ちゃんが興味深そうに前のめりで聞いてきた。
「そんなに気になる?」
「はいっ! 1年先輩のお二人がどんな選択をするのか!」
無意識なのか、握りこぶしができてるし。少し鼻息が荒い。
「結果から言うと、普通の居酒屋だった。ちょっといいお店だったけど」
「え? どこでもいいって言ったんですよね?」
「そう。間違いなく、ね」
「忖度しちゃった……ってことでしょうか?」
「彼らも割と悩んでたみたいだけどね。俺も途中で呼ばれて色々聞かれたし」
「そんな時に声がかかるのって高宮さんの人柄ですよね」
彼女が最高の笑顔で言ってくれた。癒しだ……。彼女のこの笑顔には麻薬的な何かがある。疲れもスーッと忘れられる。
「最初は、『これまでにない革新的な歓迎会』を考えていたらしい」
「……革新的な歓迎会……?」
「そう、自分達だからこそできる歓迎会を」
「例えばどんなのですか?」
「マラソンとか、野球とか、スポーツも考えていたみたいだね。ほら、平尾くんは体育会系出身だから」
「えー、マラソンとか私2メートルくらいで挫折します……」
2メートルってすぐそこだろうに……。どこまで本気なのか、新入社員ちゃん面白い。
「スポーツの後の懇親会って感じでお酒も考えていたみたい」
「なるほど……みんなで一山超えてからの交流会。たしかに連帯感や一体感が生まれそうです」
「そうなんだよ。ただ、それって昔は会社で運動会をしていたところもあるから、考え方は同じなんだよ」
「え? ちょ、ちょっと待ってください。会社で運動会ってあったんですか? 学校でやるみたいな……?」
「そう。昭和では会社でも運動会をしていたところがあったんだ。もっとも、俺も社会に出たのは平成だったから経験ないけどな」
「昭和……すごい時代だったんですね」
「そうだな。でも、参加者が段々減って行って今では……まあ、ほとんど聞かないよな」
「……はい」
「まあ、二人はその事実を知って「コレジャナイ」と」
「難しいですね……」
「そう、それで一周回ってちょっといい居酒屋になったって訳」
「そうですか……なんだか少し残念な気もします」
「その代わり、2次会でちょっと新しいテイストが入った」
「新しい……テイストですか?」
「そそ。二次会はダーツバーだった」
「ダーツバー! 私、行った事ないです」
「うちの部署も誰も行ったことがなかったよ」
ちょっと苦笑いがこぼれた。
「比較的ルールは簡単だったし、井尻さんが行くからって薄い下心からか、新人を気遣ってか全員参加の2次会になったんだ」
「たしか部署って10人ですよね。ちょっとした団体さんですね」
「お店は比較的こじんまりとしたとこだったから、ちょっとした貸し切りみたいになってて初心者ばかりでも気を遣わずにプレイできてかえって良かったくらいだよ」
「へー」
「そこにいた店員さんも女性が多くて、部署のおじさん連中が顔をデレデレさせながらダーツを投げてたよ。ダーツってあの矢みたいなやつね」
「へー」
新入社員ちゃんが半眼ジト見してきた。何か不味かっただろうか。
「高宮さんもデレデレしていたんじゃないですかぁ?」
「俺は別に……」
なぜか責められている。スタッフのお姉さんたちのコスチュームがレースクイーンみたいだったことは黙っておこう。
日によってメイドだったり、カフェ店員だったり、女子高生だったりすると説明をうけたのだけど、それは秘密だ。
「なんか部署の人達はダーツがハマったみたいで、その後も何度か新人を連れてダーツにってるみたいだ」
「新人のお二人はそれで良かったんですか?」
「平尾くんは元々体育会系出身だったから、そっちの方が嬉しかったみたいで課内に『ダーツ部』を作るって仕事以外の場所に情熱を傾けてるよ」
「井尻さんの方は……?」
「彼女も課の人と共通の話題ができて話しやすくなったみたいで、たまに参加するらしい『マイダーツ』を買ってたし、割と乗り気みたいだったよ」
「そうなんですか……よかったです」
新入社員ちゃんは胸をなでおろしているようだった。違う部署の中の話なのに、自分の事の様に……ホントにいい子だ。
「二人が課内で色んな人から仕事を教わるようになって、俺は少し寂しい気もするけど……まあ、成長だと思って我慢するよ」
「ふふふ。高宮さんらしいですね」
「俺らしい」がどんなのかは分からないけど、定時後にここで新入社員ちゃんと缶コーヒーが飲めれば俺はそれだけで満足だった。
まあ、二人も営業だし、いつか接待をする機会も出てくる。そんな時に相手のことを考えて店選びをしないといけない時も来る。ちょっといい店も知っていないと恥をかくこともあるし。今回は「新人研修」の一環でもあった訳だ。
彼らが課内の人間のことを考えて「普通の居酒屋」を選んだもの正解だっただろうし、二次会で彼らなりの新しいテイストを盛り込んだのも正解だったと思う。仮に失敗しても、同じ課の人間同士だ。笑って済ませればいいだけ。
まあ、今回は大成功と言っていいだろう。彼らはかなり優秀だ。でも、それだけいっぱい考えただろうし、今度 缶コーヒーを奢ってやろう。いや、彼らの世代の場合コンビニコーヒーの方がいいのか? いやいや、スタバとか方がいいのか⁉
「それで、今度うちの部署で私の歓迎会があるんですけど、会場はどこにするか相談にのっていただけますか?」
「もう、歓迎会は勘弁してよーーー!」
会社のビルの屋上に俺の声が響き渡ったのだった。
こちらの本、2月17日(今度の金曜日)に新刊発売です。
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