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レストランが流行らない理由

「はぐぅ~」


 俺は定時後にいつもの屋上で遠くを見ながらため息をついていた。


 まあ、良い事もあった。手には缶コーヒー。砂糖が入っていないカフェオレを見つけたのだ。もっと砂糖なしのカフェオレを出してほしい。


「高宮さん、新しい缶コーヒーですね♪」


 俺が休憩しているといつの間にか現れるこの子は俺の天使! 背の高さは俺の胸の高さくらいまでしかないし、黒髪がさらりと風に揺れその輝きが眩しい。さわやかな笑顔はまさにエンジェルスマイル!


 いっそ抱きしめることができたなら……。


『どういうつもりですか? 通報します!』


 はっ! 今一瞬 俺の空想の中で新入社員ちゃんを抱きしめた時、急に彼女の目が冷たいものになりその口から冷たい言葉が紡がれたような錯覚を起こしてしまった。


「どうしたんですか? 高宮さん」


「いや、何でもないから通報しないで……」


「通報? おかしな高宮さん」


 新入社員ちゃんがくすくすと笑う。


 何にもしないから、いつまでも俺の心の癒しでいて!


「新しい缶コーヒーがあったら、あのレストランのカフェオレはもう必要ないですか? 私は高宮さんとのデートみたいで楽しみにしてたんですけど。なんちゃって」


 ウインクして舌を出して照れくさそうにそんなことを言う新入社員ちゃん。


 俺の気持ちも知らないで、罪な子だぜ。まったく……。


「も、もちろん。俺も楽しみにしてるさ。でも、あのお店が潰れてしまったら、もう一緒にいけなくなってしまうね……」


「そうなんです。どうしてあのお店は儲からないんでしょう? プリンもおいしかったし、店長さんも良い方でした」


 たしかに、店の内装は特別良い訳ではないけど、悪くもない。言ってみれば普通だった。料理は食べてないから分からないけど、少なくとも新入社員ちゃんはスイーツをおいしそうに食べていた。飲み物は中々よかった。


 店もメニューも接客も一定のレベルには達しているのに、儲かってない。実に残念なお店と言える。


「たしかに……」


「どうしてなんでしょうね?」


「うーん、ホテルに併設してあるのだから、朝食はあのお店で食べることになっているんだろう。その点では安定収入が確保されていたはず。最近はホテルに泊まるお客さんが減ってその影響がモロにレストランに直撃したって感じかな?」


「ホテルの方はいよいよどうしようもないですよねぇ……」


 あまり出かけない現在の社会事情を考えるとこちらの解決は色々と難しい。


「そうだね。あとは、価格帯を見たけど高くもなく、安くもなく……ホテルの中に入っている分、利益が出にくい価格帯なのかも……」


「なるほど。数が少ないなら単価で……ってことですね」


「そうなると、宿泊客以外からの収益を増やしたいところだけど、ホテルの2階になるんだとなぁ……」


「分かりにくいですかね? じゃあ、看板を作るとか?」


「いや、それだとよっぽどうまく作らないとホテルとしての入り口が分かりにくくなってしまうし……」


「……しまうし?」


「この間みたいに俺が新入社員ちゃんをホテルに連れ込んでいる様に見えてしまうってのもあるから……」


 やっと状況を理解したみたいで赤くなって俯いてしまう新入社員ちゃん。


「ご、ごめん。会社で変な噂がたったら申し訳ないし!」


「……私は構いませんけど」


 それは、噂の方? それともホテルに連れ込む方? いずれにしても……。


「あ、いや、ま、まあ。ホテルとレストランが入れ替わったらよかったのにね。1階がレストランだったら全然問題ないし、ホテルの案内さえちゃんとしていれば2階にホテルのフロントがあるところなんてたくさんあるしね」


「!」


 新入社員ちゃんが一瞬 驚いたような表情を浮かべた。どうしたというのか。


 そして、「ちょっと用事を思い立ちました!」と言って、急いで会社に戻って行った。何か用事を思い出したのかもしれない。


 結局、あのレストランにはその後2回ほど新入社員ちゃんと行って、カフェオレを楽しんだけど予告通りお店は閉店してしまった。


 念のため、定時後にのぞきに行ったら入り口は閉鎖され張り紙がしてあった。


『改装中』


 改装中!? 閉店ではなく!?


 そして約1か月後、俺は再びこの店を訪れることになる。



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