天神ももかが正体を隠す理由
「ねー、もう面倒くさいから、ももちゅわんはあのおっさんに告白しちゃいなよぉ」
「暢晃くん、もうそのソファでだらだらする係になってるでしょ! あと、私のことは社内では『専務』! あと、「ももちゅわん」は呼び方が酷過ぎます!」
専務室の応接セットのソファに寝転がり、だらけ切っている大橋暢晃。
「ついでに、告白とかできる訳ないじゃないですか!」
「えー? だって、若くてかわいくて、女の子でお金持ってて社会的地位が高いんだよ? そんなのがキラキラした目で付き合ってって言ったら、あんなおっさん一発でしょ!」
「そしたら、絶対出会いのきっかけとかの話になっちゃうじゃないですか!」
「いいじゃん、コンビニ。強盗から助けてもらって恋に落ちました、で。吊り橋効果なのか、バッチリとハマってるんだから おっさんも幸せもんじゃない」
「出会いがコンビニなのは認めますが、そのことは絶っ対っ言えないんです!」
「なんで? 言っちゃえばいいじゃない」
「私と高宮さんが会ったのって、私が高校生の時ですよ?」
「いいじゃない。JK……あ、ももちゅわんって確か高校の時……」
「きーーーーーっ! 言わないでーーー!」
天神ももかが立ち上がって抗議していた。
「あー、もう。その癇癪持ち何とかした方がいいんじゃないの?」
「きーーーーーっ! 癇癪持ちじゃないわよーーー!」
天神ももかはその場で地団駄を踏んだ。これが癇癪でなくて何なのか。
「でも、ホントに痩せたよねぇ。僕もちょっと高校時代のももちゅわんの姿を忘れてたよ」
「いやーーーーーっ! 言わないで! 言わないで! 言わないで!」
天神ももかが両耳を手で塞いで上半身ごといやいやをする。
「あと、服のセンスとか壊滅的にダサかったし、表情が死んでたよね」
「いやーーーーー! 私の黒歴史なんだから忘れてーーー!」
今度は両掌で顔を隠してしまった。
「いや、僕は純粋に褒めてるんだよ? きれいになったなぁって。それって整形?」
「ぶっ飛ばしますよ! 整形なんてしてません! 天然です!」
「だとしたら、元が良かったんだねぇ。痩せて、お化粧して……いや、それをあのおっさんに言っちゃったらいいんじゃないの? 感激するかもよぉ?」
「いやーーーっ! 高宮さんの前では、かわいいかわいい新入社員ちゃんでいたいの!」
「それは無理でしょう! 社長令嬢どころか、会長令嬢でしょ? しかも一人で年間何百億も稼いじゃって……どこかの国の投資集団もびっくりだよ」
「いやーっっ! それはたまたまそっち方面が得意だっただけなの!」
「昨日言ってたレストランだって、ももちゅわんがちょちょーいと会社のお金を回せば一気に解決しちゃうんじゃないのー?」
「それはダメ! 内部監査で不自然なお金の動きが見つかっちゃう!」
「変なところ真面目なんだよねぇ。じゃあ、ももちゅわんが個人的に援助するのは?」
「はっ、その手が……。いや、ダメ。会社が持っているレストランに私個人が投資って……動きが不自然すぎる。うーん、うーん、どうしよどうしよ」
「いっそのこと、そのレストランは諦めて、おっさんと他のお店でデートしたら?」
「それは……多分ダメじゃないかなぁ……。会社が持ってるレストランだから一緒に行ってくれたけど、他のお店だったら無理な気がする……」
「なんで、そこで弱気になるの? 行くときは一気に100億とか注ぎこむ強気と思い切りの良さはどこに行ったの!?」
「だって、だって、お金は取り返せるけど、高宮さんは失敗したら取り返せない……」
「もう、僕にはももちゅわんが病気にしか見えないよ……」
「毎月月初にレストランの入り口に100万円が落ちているというのは……」
「ももちゅわん。そろそろ定時終わるけどいいのぉ? 屋上に行かなくて」
「はっ! もうこんな時間! 行かないと!」
「おっさんは来ない日もあるんでしょ? 連絡先交換して示し合わせて行けばいいのに……」
「私如きが高宮さんと連絡先交換なんて……」
「だから、なんで急に弱気になるの!?」
「まあ、いいや。いってらー」
「はい! 行ってきます! またいつもみたいに全世界の情報を集めておいてください!」
天神ももかは壮大な依頼をして定時後の屋上を目指して走っていったのだった。




