9.補佐官のお仕事
「貴殿がバクチであるか。当官は都市シデス運営長のウンネイである。
まさか都市外から飛んでくるとは思わなんだが…まぁいい。これより当官の補佐に着いてもらう。先程までの出来事は忘れて励みたまえよ。」
この偉そうな片眼鏡で白髪を生やしたおじさまが俺の補佐する運営長様である。俺が牢獄に捕まっている間も裁判している間も仕事が忙しかったらしい。俺が居るというのに今この瞬間すらも書類に判子を押している。
あまりにも余裕が感じられず焦ってしまう。俺の魔王乗っ取りの足掛かりとしてはかなりの激務になるかもしれない。
「それは何をしているんですか?書類の数も尋常じゃありませんが。」
「これは全て罪人達の刑罰執行の確認書類である。見てわかる通り毎日毎日山のように書類が届くのだ。そのうち貴殿にもやってもらう。」
言われてみると牢獄もやたらと大きかった気がする。看守のあの対応も致し方無かったのか。いや、許すまい。奴は絶対に降格処分だ。俺は根が深い。
ところで俺の業務は一体なんなんだ。このままだと税金を貪るカスとして扱われることになってしまうが。
「ウンネイさんそれで私は何をすれば良いのですか?具体的な業務を教えて頂きたい。」
「当官や貴殿に求められる仕事はもちろん運営である。しかし運営と言っても幅が広い。この街には魔族のみならず人間も来るうえ、奴ら全てが友好に接してくれるわけでは無い。
ふむ…忙しいが仕方ない。着いて来たまえ。」
――――――
ウンネイに着いていくとおもむろに街へ向かい始めた。
「バクチよ、貴殿はまだ街をよく見た事がないだろう。これから運営に携わる身としてまずは街を観察するのだ。我らのように権力を持っているものはいずれ権力それ自体に飲み込まれる。だからこそ自分が何をすべきかは常に見定めなければならないのだ。」
ほーん、良い事言うじゃない。
周りを見ると浮浪者、子供、浮浪者、子供。人と魔族の喧嘩と盗人騒ぎ。
バカタレが。なんにも出来てないじゃないか。よく偉そうに言えたもんだな。救われるべき人々が誰一人として救われていない。この先不安しかないぞ。
「この街は浮浪者が多いですね。公共事業はやってるんですか?ここまで酷いとは思いませんでしたよ。」
「出来ぬのだ。運営予算も何も無く税収も極めて少ないこの街では一にも二にも金策に走らねばならん。よって貴殿の仕事は金稼ぎだ。何をしても良いがある程度弁えてやりたまえよ。」
ほう、何をしても良い?それならば…。
「分かりました。それではこれから金を稼いできます。
少しだけお金を頂いても?元手が無ければ商売も出来たものではありませんからね。」
「ほう、商売と出たか。確か計算が得意と言伝があったな…よろしい。それではこの街の予算から一部渡そう。盗まれるようなことはあってはならぬぞ。」
ギャンブルも商売みたいなもんだ。元手が無ければ始まらない。
こんな腐った街ではギャンブルも盛んだろう。
嗚呼、久しぶりのギャンブルだ。俺は日本ではギャンブルで稼いでいる、いわゆるプロというやつだ。この世界でも弱者を食い物にして生きていこう。幸い権力は手に入れた。
こんな娯楽などあるはずもない世界、そんな世界で共通して行われるのは賭け事なのだ。さぁ、張った張った。
こうして俺はのらりくらりと金の匂いを探し始めることにした。
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