8.逆転の裁判
すっかり大犯罪者のような扱いになってしまった俺は、監査官とやらに連れられて裁判所送りになるようだ。
手錠の上から拘束具を付けられている。弁護人などはこの腐った街にいる訳もないらしく、弁明の余地なしと言った具合だ。
「ここだ。入れ。裁判所では質問されるまで回答することは出来ない。無駄な発言は刑を重くするものと思え。…客観的に見たら死罪だろうから言うが、嘘は直ぐにバレるからな。あまり酷い殺され方はされないでくれよ。シデスの刑罰は重い。俺たちはうんざりしているんだ。」
監査官は悲しそうに話した。こいつは中々話が分かりそうだな。少し話してみるか。
「なぁ、あんた。俺はバクチ。この名前は先日魔王様より頂いたものだ。これから俺はどうすればいいんだ?補佐官としてこの街に来その瞬間から罪人として扱われている。誰一人として取り合ってはくれないんだ。日抜きの眼鏡?とやらも貰い物で四皇のウチワさんから貰ったんだ。このまま俺は死罪になってしまうのか。」
大袈裟に悲しんで見せる。頼むから心を動かしてくれ。
「…いいか?裁判では嘘がバレる仕組みになっている。稀にその効果を貫通するやつもいるが、大多数は正直に話してそうなる。
絶対に嘘をつくな。そうすれば大丈夫だ。」
ほう、いいことを聞いた。これで俺は無罪放免間違いなし。全て語り尽くしてやろう。ウチワのジジイに対する恨み節も言ってやろうじゃないか。
――――――
「これより裁判を始める。
被告人バクチ。罪状は身分詐称。余罪として窃盗一級、魔王様への侮辱。よって死罪とする。
間違いないな?よし、これより審問に入る。」
「被告人、あなたは魔王様に名付けられたと言っていました。そしてこれを看守に言い、刑罰を避けようとした。間違いありませんね?」
お、おいいいいい!その質問だと真偽が分からないだろうが!刑罰を避けようとしたのはある意味正しい。ここでイエスと言ったら身分詐称が正解みたいになってしまうだろうが。
クソっ!補足しなければ!
「はい。それは正しいです。ですが…」
「やはり嘘をついていたのですね。では太陽の眼鏡は貰い物と聞きました。これは本当ですか?」
なんてことだ。これでは全く話が進まない。このままでは死罪は免れないだろう。どうする…。そうだ、先に補足すればいいでは無いか。なにもはいかいいえを先に言う必要はない。
「四皇のウチワさんから頂きました。間違いありません。」
「嘘はついているか?」
「ついていないようです。もっと掘り下げるべきでしょう。」
いいぞ、いい流れだ。このままさっきの話に繋げていくしかない。
「では仮に本当だとして、ウチワ様が自分からあなたにこれを預けたのですか?」
「それは私がこの街の補佐官として選ばれた際、ウチワさんがくれたものです。」
「っ…嘘はついているか?」
「ついていないようです…」
ここでもう一押し。こいつら何やら雰囲気が変わり始めてやがる。俺の逆転サクセスストーリーはここからだ。
「私はシデス様が直々に召喚した真なる魔王と名乗ったものです。今は体と名前を貰ってバクチと名乗っていますが、この街はふざけたところですね。
ここまで話が通じないとなると補佐官としての仕事も骨が折れそうだ。全く。頼みますよ。」
「嘘はついていないようです。」
「魔法検査官!今すぐこいつに洗脳魔法がかかっているかどうか調べろ!自ら洗脳をかけた可能性がある!」
洗脳魔法だと?フハハハ、馬鹿め。俺が持っている魔法は覚醒魔法。そんな魔法一度も聞いたことは無い。
「検査?お好きにどうぞ。私は洗脳魔法など使えません。いくらでも検査してもらって構いませ…」
「洗脳魔法が確認されました!」
なにぃ!?どういう事だ!そんなはずは無い!!俺は一度たりとも洗脳魔法に触れたこともないぞ!
「どういう事だ!俺は洗脳魔法なんて知らないぞ!」
「嘘はついていません。裁判長。例のアレかも知れません。もっと詳しく調べる必要があるでしょう。」
「検査官、洗脳魔法を解いてやれ。哀れな…」
どうして哀れまれている。どうしてだ。
「洗脳魔法、解除しました。」
…なるほど。シデスの仕業か。何故疑問に思わなかった?俺は長い物には巻かれる主義だが、心まで服従することは無い。魔王は魔王である。魔王様などと心の中で呼ぶ日は永遠に来ないはずなのに。
だとしたらいつだ?魔法を使った素振りは一度も無かったはずだ。これは大きな問題だぞ。このままだと再び洗脳魔法に掛けられるだろう。
「バクチとやら。お前さんは魔王様に洗脳されていた。前魔王まではこのようなことは一度も無かったのだ。
世代交代でシデス様に王位が渡ってからお前さんのような者が増えた。こんな姑息な手は魔王として相応しくない。今は魔族の誰しもがそう思っているのだ。」
そうか、シデスは嫌われているのだろうな。治世も出来なければ侵略もしない。そんな魔王に着いてくる魔族は中々いない。前魔王はこれを極めていたらしいが、下位互換だったって訳か。
「魔族の義務として、一年間魔王城へと奉公に行かなければならない。その時必ず洗脳魔法を掛けられて帰ってくるのだ。
そして彼らは全てシデス様を讃える発言をする。つまり、そういうことなのだ。」
せ、せこい…そんなやり方では民衆が着いてこないのは当たり前じゃないか。忘れかけていたが、これからの目標はやはり魔王の肩書きを乗っ取ることとしよう。
「バクチ…いや、補佐官殿。せめてこの街をよろしくお願いします。」
「任せておけ。俺がこの街を足掛かりに魔王様を改心させてみせる。そうだ、余っている魔法検査官を一人でもいい、俺に付けてくれ。これから必要になるだろう。」
「分かりました。なんなりと…」
こうしてようやく俺の補佐官生活が始まった。しかし、そこで待ち受ける日々は波乱の連続だった…。
お読みいただきありがとうございました。よろしければ感想、評価、お願い致します。