5.魔界五街
街の運営補佐官として派遣されることになった俺だが、悲しいことに文章を書くことが出来ない。そして読むことすらも特定のインク以外では不可能である。
何たる無能だろうか。事実を受け入れるのも嫌気がさすが仕方ない。出来る限り勉強するものとして、とりあえずソバツカさんの説明を聞くことにする。
「魔界には五つ街と呼ばれる都市があります。まず魔王城の麓に一つ。これが城下街ハデスです。ここは今まで一度も魔族以外の手にかかったことはありません。
そこから三つの大通りを通して南にオーマイゴッデス。
西にクウネルデス。東にゴリンジュウデス。
これら四つを束ねて方位魔王都市と呼ばれます。
最初の都市名より、初代様、二代様、三代様、四代様と続きます。
…そして最前線。これらの方位から外れ人類との境界線の位置にあるのが五代魔王。つまり、現魔王シデス様の名を冠するシデスなのです。
魔王は世襲制ですので、始祖様方に対するシデス様の思い入れも強いようです。」
ふざけた名前の魔王が多いようだが世襲制らしい。気になるところは方位魔王都市と、都市シデスに謎の隔たりがある所だな。
やはり看守さんの言っていたことは正しかったのだろう。
「ソバツカさん、やはり我ら魔族は窮地にあるのですね?
この城においても何かおかしかった。魔王様に対しての敬意がまるで感じられません。
僕がこの世界に呼ばれる前に何かがあったんですよね?」
「いいでしょう。あなたもいずれ聞かされるでしょうが、このソバツカから直接教えて差し上げます。
まず現魔王様、つまりは魔族の間で…不敬極まりないですが、失敗作と呼ばれています。」
あぁ、失敗作。なんて許せない名前だ。我らが魔王様に対する仕打ちがそれか。敬われるべき王が何をしたらそれまでの言われようになるのだろうか。
「これの主な原因はシデス様の怠惰によるものだと考えられます。
主の悪口にもなり得ます。このようなこと言いたくもありません。
この怠惰の理由は恐らく、シデス様が力を持ち過ぎて生まれたためでしょう。何をするにもすぐに興味を失ってしまいます。
唯一楽しそうにするのが酷い魔物達の召喚です。魔王様がきちんとしたものを召喚すること自体貴方が初めてだと言えば分かるでしょうか。」
俺が初めてのまともな召喚者な訳だ。ソバツカさんが俺に対して多少融通を効かせてくれるのもそこら辺だろうか。
良くも悪くも期待されている可能性があるな。プレッシャーだ。
「ここまで言えば分かるでしょう。貴方の派遣先はひとつしかありません。」
そうだろうな。前魔王ゴリンジュウデスはとてつもない有能だったと聞いている。故にそれまであった都市は全て安泰なのだろう。
つまり俺の派遣先は…
「シデスですね?」
「えぇ。その通りです。貴方には前線から人類を支配する補佐をして頂きます。再び魔族の栄華を手に入れるため、最初の召喚者である貴方が実績を手に入れなければなりません。
魔族、人族両方を支配して初めて魔王様が魔王になったと言える日が来ます。それには貴方の力が必要なのです。
気張りなさい。魔王様にとっても我々魔族にとっても貴方が最後の希望かもしれません。」
重い話になってしまった。あぁ、前線だ。勇者も押し寄せるだろう。魔界に入るための前線領地なんて侵略されるに決まっている。
恐らく今の領地運営者が火の車で動かしているのだろう。重労働になることも想像に難くない。
「それでは任命式を執り行います。今日は幸い満月です。魔族にとって再興の日になることを皆祈っているでしょう。
魔王様に仕事を任命されたら「混沌の始まりに誓って。」と唱えるのです。自らの魂に誓うのですよ。分かりましたか?」
「はい、分かりました。」
「それでは行きましょう。」
そう言うとソバツカさんは俺を着替え室まで案内した。
闇装束と呼ばれる儀式服を着て、これから任命の儀に望む。
魔王の間の前、待機する俺に対し、扉がこの前よりも禍々しく歓迎しているのが分かった。
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