4.魔界のお仕事
ソバツカさんからの指令で、俺はテストを受けるとこになった。
異世界系のテストと言えばやはり的をぶち壊す系だろう。
俺の滾る魔力を全て解き放ってやろうかと考えている。
教室のような部屋に通され、明らかに頭の良さそうなメガネの男魔族が俺を席に案内する。
「それでは始めます。まずは言語。制限時間は60分です。」
紙を渡されて戸惑って居ると制限時間が告げられた。
なんてこった。筆記試験だった。
まぁなんてこったとは言ったが俺は大学まで行っている。こんな中世みたいな世界、俺の学力をもってすれば余裕で無双できるだろう。
「…」
問題文がまるで読めなかった。運がいい方だと思っていたが、神様は文字までは読ませてくれないようだ。どうしようかと悩んでいたところ、この紙に魔力を通せば脳に直接分かるように文章が流れ込んでくるという。便利なものだね。
「一問目、えーエルフ族が使うとされる言語を答えなさい。なるほど。」
エルフ居るのか。でもエルフって何語喋るんだろう。地球ならば適当に古代なんとか語〜のような感じなのだろうが、ここは異世界である。仕方ない。かけるだけ書いておこう。
「エルフィッシュ、と。」
「二問目、ドワーフが使うとされる言語を答えなさい。ふむ。」
わかるか。ふざけやがってもう知らない。全部語尾に何とかッシュと付けとけば言語だろう。全部そう書こう。
ドワーフィッシュ、ヒューマニッシュ、ダークエルフィッシュに、魔族はなんだろな。魔族ッシュでいいや。
ちなみにこれらは全て日本語で書いてやった。伝わるわけもないが言語能力が壊滅的なのは伝わるだろう。出来ないことを任されるよりはマシだ。
それもあってか、ここからは喋って回答する方式へと変更された。
「十問目、相手を蝕んでいくとされる禁じられた言語を答えなさい。」
何故だろう、これだけは分かる。呪言だ。
考えられる要因としては魔王様に真名を握られているため、呪いを本能で理解してしいるといった所だろうか。
これを最後に言語のテストを終えた。
結果的に言うと呪言のみ正解。他はゼロ点だった。
試験管には呪いにだけ精通している変態だと思われたようだが致し方ない。言語の壁は思ったより厚いな。
その次は人間史、魔王史と続いたがこちらは両方ほぼゼロ点。魔王史のQ.現魔王は誰でしょうA.シデスのみ正解した。
続く数学だが…無双した。
といってもこれは簡単すぎたのだ。例えば円。360°という常識があるだろう。これ自体が問題になっていたり、簡単な算数程度の問題しかなかったのだ。
最後の方はもはや何を言っているか分からなかったが、ここまで点数を取れる者自体珍しいとのことで経営に携わらせた方がいいのではという話が出ていたのを小耳に挟んだ。
そして最後は実技だ。
ここは色々と分岐点になったのでしっかりと紹介する。
実技の試験は担当が違った。ぶっとい角とデカすぎる尻尾と強靭な翼を持つ魔族のオスが担当だ。筋肉を見せびらかしておりとても気持ちの悪い服を着ているが、実際スゴい。
「えー、使っていい魔法は火、水、風、土の四種類。最後に得意魔法を使って貰う。
最も魔族になりたての人間如きには使えないだろうがな。
魔力量は魔王様に匹敵すると聞いているから程々に加減するようにな。
まぁその話も本当かどうか怪しいところだが。」
悪くないやつなのだろうが言葉の隅々に嫌味が入っていて非常にウザイ。この世界の筋肉バカの典型だろうか。
とりあえずこの二日間魔力に関しては何も出来なかった。ここで初めて魔法というものに触れる。自分なりにやってみよう。
「まずは火魔法からだ。人間のやる的当てなんてものはなんの参考にもならん。必要なのは火力だ。お前の持つ火の因子をありったけ稼働させ、そこにある魔力吸収装置にぶちかませ。
安心しろ、暴発なんてすることはない。あの装置はそんな簡単には壊れない。」
「俺がぶち壊してやるよ。せいぜい見ていろ。」
そういうと俺は以前感じた魔力の流れを体に再現する。
かなりの速さで回っているが、遅くしようとするとどこかで綻びが出そうになる感覚があり、これは魔力量によるものだと予想された。
これらを火の因子とやらにつければいい訳だろうが、体の中にありそうな因子とやらが多すぎて見つからない。話によると魔力が少ない者の方が制御が上手いらしいのでそういう事なのだろう。
とりあえず火っぽいなこれ、と思ったところに魔力を集中して解き放ってみることにした。
「う、うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
魔法を放とうとした途端試験管にどつかれる。
「何すんだ!」
「お前は本当に何も知らないのか?それは風だアホンダラ。火の因子ってのはもっとこう、ババババーって感じなんだよ!お前のそれはヒュイヒュイ。」
なんだコイツは舐め腐りやがって。ヒュイヒュイだのバババーだの分かるかってんだ。
とはいえこのアドバイス以外に頼るものもなく、擬音的な感覚をひたすら探ってみた。しかし酷いアドバイスに才能を腐らせたのか、この後何度探しても火の因子を見つける事が出来なかった為火の試験は中止に。
土、水も同様だった。
「次は風の試験だ。さっきまでと違ってお前さんが使えそうな風属性だぞ。ほんと頼むぜオイ。その魔力量でそんなうんぬんかんぬん…」
煽り散らかされているが気にしない。俺は俺の限界に挑むだけなのだ。
「う、うぉぉぉぉぉ!」
ピュンピュンピュンピュン!
なんか出た。
「ガハハハハ!どんなもんかと思ったらこれはまたちっぽけな風!魔力が泣いてるぜ!ガハハ!」
悲しいかな、唯一使えそうな風属性だというのに、俺の渾身の力で出せたのは手で頑張って仰いだ程度の風だった。魔力の感覚としては大きなパン生地から出たカスのようなものだ。
びっくりするほど弱々しい風に驚きを隠せないが致し方なし。これからは鍛錬しなければならないだろう。
「お前さん、尽くダメダメだなぁ。期待できんが最後は得意魔法だ。なんとかまともなの出してくれや。」
ぐぬぬ。こいつに一泡吹かせる魔法を一発出さなければ。
このままだと魔王様にすらポイである。そんな悲しい結末は嫌だ。
「頼む!なんか出ろ!うぉぉぉぉぉぉぉ!」
おお、お?なんだこれは。なにか出そうとだけしたら全て出てきそうだ。例えるなら屁をこく瞬間に危うく出てきそうになるアレ…
いや、そんなもんじゃない。自らの力なのに恐れを成してしまうような勢いだ。もう止められない、出してしまうしかないだろう。
「うぉぉぉぉぉ!」
ボーヒュルピチャズドン
「…」
火、水、風、土全部の弱々しいのが出てきてしまった。
こんなに悲しいことがあろうか。才能は俺になかったのだろう。
「お、おおお!」
試験管が騒いでいる。もうこれ以上馬鹿にするのは勘弁してくれよ…そう思った刹那。
けたたましい音が鳴り響き全属性弱々呪文が爆発した。
「何事ですか!」
ソバツカさんがドアを勢いよく開けて出てきた。今までも見ていてくれたんだろうか?見ていたならアドバイスくらいくれても良さそうなのにな。
「ソバツカさん!」
「ソバツカ様、この者の魔法にございます。四属性時限爆発魔法を唱えやがりました。しかし威力は低いようです。試験管ごときの俺では何が起きたか…」
「これは…」
ソバツカさんは爆発痕に何やら鎖を飛ばして解析か何かをし始めた。
「いいですか、バクチ。これは食らった相手の動きを活発化させる魔法です。そうですね…文献であった覚醒魔法というやつでしょう。
覚醒といっても何かの能力が強くなる訳ではありません。単純に興奮作用のある覚醒です。これは人間にとっては禁呪として伝わる魔法ですよ。
我々には関係ありませんがね。」
まずいことになった。これは薬物的なアレだったらしい。
俺が本気を出してぶちかました魔法はアッパーなテンションにさせる大変なモノになってしまった。
「ですが、これで貴方の仕事は決まりました。」
「その仕事とは…?」
「街の経営補佐です。貴方の能力は人間を魔族に依存させることが出来るでしょう!この能力を使って人類をどんどん絞めて行きましょう。」
「…」
そういう訳で俺は街一つを発展させるべく派遣されることとなった。
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