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3.肉体創造

 召喚初日。牢屋に閉じ込められた俺はそのまま夜を明かすことになった。魔力など色々確かめられるだろうとタカをくくっていたが、なんとこの牢屋魔力が使えないらしい。

 流石に魔王城なだけはあって警備も厳しく、なにかしようと思えば全て咎められそうな雰囲気に圧倒されていたが、牢屋の窓から見える景色に救われた。

 連なる山々に見事にフィットした建築がなされている為か、自然との一体感が素晴らしい。普通に世界遺産レベルだった。

 そして月と海まで見えると来たもんだからこれは贅沢である。王の名は伊達では無いのだろう。

 眠そうにしていた看守の話によると、どうやら月の光は魔力に直結するらしくこういった建築は合理性の面から見てもとても良いらしい。看守さん色々教えてくれてありがとう。


 魔王の件だが、真名がどうたら言っていたので恐らく命を握られてるようなものなのだと解釈しよう。

 権力はありそうなのでしばらく従うのもありかなと考える。とりあえず何も仕事が出来ないと思われるのはまずい。何かしらで貢献出来ることを示すのが目下の目標だろう。



 バクチの名を貰った俺だが、どうやら体は日本に置いてきたらしく肉体がない。魂がなんとか動けるスライムのような形になっていた。

 そこで ()()()の善意により急遽肉体を創ってくれるのだという。

 ああ素晴らしきかな魔王様、ここまで温情を掛けられるとさすがの俺でもコロッと落ちてしまいそうだ。


「それでは肉体創造の儀を執り行います。バクチ、このソバツカが近くにおりますので安心して受け取りなさい。」


「ソバツカさん…」


 ソバツカさんだが、とてつもなく美人だ。魔王の魔侍女なだけはある。なんとか嫁に出来ないだろうかと思ったが、人妻らしい。

 結婚相手はケルベロスだとか。これも看守さんから聞いた。


「それでは魔王様、バクチの肉体をよろしくお願いします。

 …なるべく、あまり変な形にしないで頂けると有難いです。」


「!?」


 まずい、そういえばなにか聞いていた気がする。魔王様は変な魔物を生み出したり召喚するのが好きだという話だ。まさか俺の体まで変にするつもりなのだろうか。もしそうなればここで終わってもいい、ありったけを込めて謀反してやるからな。

 頼むからイケメンに作ってくれ。


「魔王様、このバクチ、魔王様にお体をお創り頂けると聞きました。小生のような虫けらに、ありがたい限りでございまする。

 このようなこと差し出がましいとは思いますが、何卒イカしたメンズに仕立てあげて頂けませんでしょうか。

 かっこよくなりたいのです。男なら誰しも夢見る事だと分かって頂けますでしょう。何卒、何卒ぉぉぉ!」


「めんどっちぃなぁ。んー仕方ない、そこまで言うのならやってやろうじゃないかぁ。ソバツカちゃん、人間を描く専門の絵描きを呼んできてちょ!」


「かしこまりました。

 バクチ、あなたには失望しました。これで使えないようなら私が直々に魔王様に提訴、後に消して頂きます。覚悟しておきなさい。」


 あーあ、ソバツカさんからの評価下がっちゃった。ケモナーだからいいか。


「ま、魔王様がお呼びだと聞いて即参りました!わわわ私は絵描きのりり、りー、り、りー、りりーと申しますぅ!よろしくお願いしますぅ!」


 人間の女の子だ。角も翼も尻尾もなければ魔力も感じない。わかる俺凄いな。


「じゃあ頼むよぉ。飛びっきりかっこいいの書いてあげてねぇ!リリリーリ・リーリリちゃぁん。」


 草

 魔王様渾身のボケが入った。


「り、リリーにございますぅ!」


「リ・リリーちゃぁん。」


「リリーでございます!」


「…もう良い!!死ねぇぇい!」


「ま、魔王様ぁぁぁぁ!」


 なんてこった、リリーさんが死にかけた。噛み噛みで可愛いなぁとか思ってたら魔王様の何たることか。ソバツカさんが守らなければ間違いなく死んでいた。

 ボケじゃなくガチだったらしい。そして短気極まりない。もう少し朗らかな方かと思っていたが気をつけなければ次は俺だな。


「ひぃぃぃぃ!」


「魔王様!落ち着いて下さい!この人間は代々魔王様に仕える絵描きの娘にございます!矛をお納めください!」


「次噛んだら殺すからねぇ。早く描いてくれよお。」


「ひぃぃぃぃぃ!」


 とんでもねぇ、やはり魔物だ。こいつらは魔なんだ。チョロいと思って甘く見ていたが人の感性では測れない。肝に銘じておこう。


「それでは描かせていただきます…バクチさん、どんな風になりたいのでしょうか…」


 凹んじゃってるよ、可哀想に。


「リリーさん、俺は元々人間なんだ。人間の面影を残しつつ、それでも魔物にならなければいけない。

 なるべくかっこよく、具体的には数多の女の子からモテるような顔で、それでいて人から舐められないような顔つきにして貰えると嬉しいな。

 身長は180、筋肉もしっかり見えるような体で誰といても華があるようなデザインで頼むよ。」


「バクチ…」


 ソバツカさん許してくれ。外見は何にも勝る武器になることもあるんだ。かっこよくて困ることなどない。モテすぎてごめんくらいが人間丁度いいのだ。


「そして羽は天使のような見た目を黒と赤に染めて、角は常に少しだけ出ている状態で、覚醒したらめちゃくちゃデカくなってくれると嬉しいな。そして尻尾は武器になるようなデザインで。けれどしなやかで美しく書いてもらえるとありがたい。」


「ソバツカ様、この方すごく注文が多いですぅ…」


「…リリー、なるべく描いてあげなさい。魔王様は細かいところを気にしませんので、詳しく書いてない場所は毛虫のような見た目だったりダンゴムシになったりします。」


「わかりましたぁ…ですが、私は人間専門ですので、私の妹を連れてきてもよろしいでしょうか…?妹は魔族専門なのでもっとよく描けると思いますぅ…」


「仕方ありません、呼んできなさい。」


「ありがとうございますぅ!」


 リリーちゃんには妹がいるのか。俺も欲しかったなぁ妹。リリーちゃん可愛いし攫って妹にするのもありだろうか。


「リリーお姉ちゃん、こいつが注文の多いっていう新人?全く困ったもんよね。絵描きのことなんだと思ってるのかしら。」


「こら!ローザ!そんなこと言っちゃダメでしょう!すみませんバクチさん…妹は私より気が強いんですぅ…

 ほら!謝りなさい!」


「うぅ、ごめんなさい…」


 ローザちゃんはリリーちゃんよりちょっと小さいくらいだ。顔つき的に年齢差が多少ありそうなので、そのうち身長が抜かれちゃうんだろうな。

 そんな妹に対しては気の強いリリーお姉ちゃん可愛いね。内弁慶だ。


「気にしてないよ!注文多くてごめんね、いい感じに描いてくれると嬉しいな!ローザちゃんもよろしくね。」


「ふん!かっこよく描いてあげるから期待してなさい!」


「こら!」


 可愛い姉妹喧嘩を眺めつつ気持ちよく罵られ続けて30分くらいだろうか、中々いい感じに仕上がってきた。

 これがいわゆる神絵師ってやつだろう。これぞ男の考える最強の魔族って見た目になってしまったが…大丈夫だろう。俺の魔力は魔王レベルだ。そのうち中身も着いてくる。


「ありがとう、リリーちゃん、ローザちゃん。これで魔王様に体を創って貰えるよ!

 こんなにかっこよく描いてくれて感激だよ!」


「お気に召して貰えましたかぁ?嬉しいですぅ」


 可愛く笑うリリーちゃん。お兄ちゃんと家族になろう。僕達なら楽しく暮らせるよ。


「こんなの朝飯前よ!また描いて欲しかったら呼びなさい!仕方ないから描いてあげるわ!」


 ドヤ顔のローザちゃんは中々素直かもしれない。ツンデレかと思ったが思ったより嬉しそうだ。口が悪いだけなのかな。二人とも家族にしたい。


「それでは魔王様に肉体を創造して頂きます。魔王様、この絵がバクチの希望です。」


「こぉれまたかっこよく描いてもらったねぇ!こんな細かいところまで描かなくたって、我輩の芸術を堪能して貰う機会になっただろうに。まったくぅ、ケチんぼだな君はぁ!」


「魔王様、よろしくお願いします。この絵の体で果てるまで仕えます。よろしくお願いします。よろしくお願いします。」


「よぉし任せろ!うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 う、凄まじいオーラだ。魔王の魔力は桁違いだな。

 肉体創造に関してはなんだろう、見たことがあるな。

 既視感がすごい。これは…3Dプリンターだ!これを人力でやるってんだからとんでもないな 。しかもそれなりに早い。


「完成ぃ!どうかなぁバクチくぅん!」


「素晴らしい出来です!魔王様!」


「…」


 犬じゃん。あんなにかっこよく書いたのに犬じゃん。ソバツカさん大喜びだよ、ケモナーだから。

 リリーちゃんとローザちゃんの苦労を返せよバカタレ。

 あーでもよく見ると凄いかっこいい。白いんだけどどこか野性味を感じる薄水色の毛並み。全身同色なのにメリハリが感じられる体躯。

 普通にかっこいいわ。

 でも動かすのは難しいと思うんだ。だって元々人間なんだもの。

 練習すれば…とかじゃないと思う。今は普通の体が欲しかった。


「魔王様、申し訳ございません。この体では上手く動かせそうにありません。何卒再構築の程よろしくお願い致します。」


「冗談だよバクチくん!こっちがホンモノ!」


 おお、素晴らしい。再現出来ている。なんてかっこいいんだ。

 でもなんでフェイントしたんだ。ほら、ソバツカさん悲しんでるじゃんか。要らぬ被害は出さないでくれよ魔王様。


 何はともあれ体を手に入れた。フェンリルボディの方も魔王様がくれると言うので体に埋め込んでもらった。これでいつでも犬になれる。ソバツカさんはたまに犬になるならこれからも手を貸すとの事だ。

 とりあえず明日から仕事らしい。何を言われるか分かったもんじゃないが頑張ろう。日本の感覚では生き残れないだろう。気張る。

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