22.交渉と備え
カジノの朝は早い…が、今日は特例の昼開店だ。
今都市シデスのメイン通りには大量の垂れ幕が掛かっている。狼車達に取り付けられた旗も同様だ。
昼前には花火となった覚醒魔法が民衆をカジノへと誘うように放たれる。効果はそれなりだが広範囲の覚醒花火だ。本来の姿をしている為間近で食らってしまえば廃人間違い無しの一品だが、範囲をカバーするために効果を散らせばこの通り。街に活気と、”何かがあるぞ”という期待感を作り出す演出になるのだ。
しかし、困ったことに勇者達にアポイントを取っていない。このままでは民衆が稼いで俺が稼いでカジノが大赤字、勇者を呼べなかった運営長。なんの収穫もなしどころか大損害という様になってしまう。
だが…策はある。ルスキー君を利用するのだ。この数日で彼が負けた金貨の数は実に300枚。日本円にして約3000万円という所だ。ほとんどは彼の私財だ。だとしてもイサオ君から借りている金貨も20枚を超えていて少なくない。友達にする借金としては十分に嫌な値段だろう。ここを突くのだ。
”君がこの案を受け入れてくれたら、カジノに使った金を全て君に返してやろう。俺の目的はカジノを発展させてこの街の経営を安定させることだ。君達はそれに協力してくれるだけでいい”
こう伝えるのだ。警戒はするだろうが大金を既に飲まれている彼はこの案を受け入れるだろう。国を挙げて補助されている勇者のパーティであっても、何に使ったのか分からない3000万などどう伝えても角が立つのだから。ここは交渉なのだから色々付加価値をつけていけばいいさ。
という訳で目の前に居るのはルスキー君である。話し合いを始めよう。
「ルスキー君、この街に入って来た時君は…俺の事、そしてこの街の事を警戒していたはずだよね?どうしてカジノで大金を使ってしまったんだい。それじゃあ魔王様云々の話も始まらないじゃないか。
言っただろ?俺は君達を邪魔するつもりなんてないんだって。でもそんな金の使い方をしているんじゃあ補助もなにも出来たもんじゃないよ。もし俺の財産から君達に何か渡したとして…ギャンブルに使われるって思えるレベルの散財だよ。どう思う?そこら辺。」
「…」
「無言じゃ始まらないだろう。君は今日本円で3000万、3000万も使っちゃってるんだよ?分かる?君は人間の代表、そして君の持っているお金は人間達が汗水垂らして働いて、どうにかこうにか絞り出した国のお金、血税なんだよ?」
「…分かっている。」
「そうだよね?君程の者が分からないはずないんだから。以前この都市の違法カジノに携わっていた君ならさ。」
「やはり知っていたのか。それで、俺の事をどうするつもりだ?今更迷惑を掛けてすまなかったなんて言わないぞ。
この都市に一番の迷惑を掛けたのは間違いなくウンネイだ。責任なら奴にある。」
どういう事だ、なぜウンネイが出てくる。奴は既に処刑済みで晒し首も終わっている。死んでいることも確認した。
ここで俺に無い情報が出てくるとは。情報を引き出さねば。
「確かに奴はこの都市で悪逆の限りを尽くしていた。しかしそれは…仕方なかったんだろ?俺達も調査はついている。今更君をどうのこうのするつもりはないから自分の口から話してくれないか。君に罪を問わないと約束する。情報の価値によってはさらに条件を加えよう。」
俺の発言に頷いたルスキーは静かに語り始めた。
「元々…あのカジノは俺が都市シデスを破壊するために作ったんだ。しかしウンネイは有能だった。真っ先にあのカジノを摘発しようと動き始めたんだ。でも俺には人質がいた。」
「それが…」
誰なんだろう。
「そうロットだ。」
ロットちゃん!?なんでロットちゃん!?人間だったよあの子!
「ウンネイはロットの育ての親だった。この際だ、全部話してやろう。俺の計画は既に頓挫しているから構わん。
どこから話そうか…」
そう言ってルスキーが話し始めたことは驚愕の内容だった。
一つ、ロットは代々魔王に仕えている絵描きだった。
二つ、ロットは魔王城で幼少期を過ごした。
三つ、逃げ出したロットは人間の街で孤児として暮らしていたが、魔族に攫われウンネイに育てられた。
四つ、裏切り者、”ユダ”の指示でロットを攫った。しかしウンネイの元に帰りたがった為、ルスキーが魔法を掛けたことにして人質としてウンネイに返した。
「魔王城にいる絵描きは人族ではゴルフィック家以外にいない。長女のリリー、三女のローザ。そして…次女のロットだ。」
グルチーミ、ロット、ウンネイ、ゴルフィック。頭文字を取ってグロウゴ組か。全て知っているユダだからこそ出来たネーミングだったという訳だ。まぁ、グルチーミは小物だったから名前だけだったんだろうけど。
いやしかし、ロットちゃんは魔王城から逃げ切ったわけだ。
ユダの協力にしてもどこか引っ掛かる。あそこから逃げるなんて本当にできるのか?なるほど。
「ユダは魔王城内部にいる?」
「ああそうだ。そしてそのユダこそがこの俺にカジノ経営を提案したんだ。
もちろん俺にもメリットがあったから受けたことだ。最前線のシデスを落とせたら上々、落とせないにしてもウンネイをこちら側に付けることで機能停止まで狙えるわけだからな。そのまま拠点として使える可能性まであった訳だから、破格の条件だろう。
しかし、その条件を飲む時、名前を言うと一生遊び人として職業を固定されてしまう呪いを喰らったんだ。」
「じゃあその職業ははそのユダの名前を言ったから…」
「いや、それは嘘だ。遊び人は好きでなった職業だし関係ない。」
要らんボケをするな。シリアスが台無しじゃないか。
「じゃあ呪いも嘘か?」
「それは本当だ。呪いの内容は言えない、そしてそのユダの名前も言えない。俺は利用された側だ。これだけが事実だ。」
疑わしいところだが、実際有り得るのだろう。
順序立てていく、
ユダは魔王城にいる唯一の人間、ゴルフィック家であるロットを逃がした。何故ロットだったのかは不明。恐らくは年齢であると考えられる。
ウンネイにロットを育てさせる為誘導。情が移るように仕組んだ。恐らくウンネイを多少知っている人物だろう。でなければロットを育てるという予想は出来ないはずだ。
そしてルスキーに魔王討伐の手助けとなる案を提示。カジノを作らせた。ウンネイが邪魔になるのを予見していた為、ロットを救うという名目で攫わせる。そしてカジノ経営を邪魔できないようにしながら、人に物資を横流しさせた。ロットがカジノで働いていた理由は全く不明。ウンネイに心配して欲しく無かったからだろうか?健気なものだな。
いやしかしなんという手際だ。恐らく魔王を討つための起点作りか、全てを利用したのだろう。恐ろしいほどの切れ者である。
「ふむ、情報感謝する。それと提案があるんだが聞いてくれるか?」
「まだ何か足りないのか?」
「いや、情報はもういい。ここからはただ俺が提案するだけだ。実は俺もユダと同じく、魔王を狙っている。この世界は娯楽が足りていない。俺の目標は権力を手に入れ日本のような文化に溢れる世界を作ること。これを話したのは君が初めてだ。君を信じて仲間に引き込むことにするよ。」
半分は本当だ。娯楽が欲しい。
人と勇者を仲間にして引き入れ、魔王討伐の後に人を滅ぼす。魔王として君臨し俺の楽園を作る。魔王になる理由は単純に人の方が弱いのと、俺が魔族だからだ。
これからはこれを目標とする。そのために体裁だけでも勇者達に仲間意識を持たせて信用させる方がいいと判断した。
事情が大きく変わった。ユダと勇者を利用して魔王城をめちゃくちゃにするのだ。四天王と魔王を出し抜けるような者がいるならそいつを利用するのが手っ取り早い。
つまり俺がやるべきことは勇者から全財産を奪うことでは無い。
「ユダの協力を取り付け、君達勇者に魔王を討ってもらう。俺も協力しようじゃないか。そのためにはまずシデスを発展させて他の魔都市から人材や金を奪うことから始めたい。
この街の軸は今やカジノだ。ここで更にカジノの地位を磐石にし、俺の地位を磐石にする。それによってシデスの噂を聞きつけた者を虜にしていき、少しずつ周りの都市を侵略していくんだ。
どうだ、悪くない案だろう?」
「バクチさんは本当に魔王を倒せるのか?あんたが魔王に呼ばれてこの世界にいるってことは、つまり魔王に真名を握られているってことだ。そんなことをしたら殺されてしまうんじゃないか?」
「だからこそ勇者とユダが必要なのさ。直接じゃなく、遠回りをしてでも魔王を殺す。そしてその座に俺が着く。知っての通り俺は弱くない。実は魔力が魔王クラス、いやそれ以上なんだ。
四天王くらいならどうにでもなる。つまり君達がすべきことはユダ、そして俺と協力して魔王本体を刺すことだ。」
「提案はそれだけか?」
「ああ、忘れていた。今日、カジノでイベントを開く。ここに勇者パーティである君達も参加してくれ。これを飲んでくれるならば金貨300枚全てを返そうじゃないか。
いや…それだと生ぬるいな。今日はスロットもテーブルも必ず勝てる程楽な日になる。これを全て持っていかれるのは面白くない。
よし、最終的にその日の勝ち分、そして失った金貨全てを掛けて君達と俺のサシ勝負だ。どうだ、悪くないだろう。」
「…俺は遊び人だ。ここは潔く乗ってやろうじゃないか。きっぱり返してもらう、覚悟しておけ!」
「もし負けたら、さっき言った俺の願いを必ず受けてもらう。さぁ、契約しよう。」
契約も魔法で出来るいい世界。俺たちは互いにギャンブラーシップに則り勝負することを誓った。
今日、シデスは激熱に燃やされるだろう。
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