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20.非襲撃者

(フェンリル様、我らの片割れが馬車の襲撃に成功。間もなく勇者達が南入口に到着致します。)

(ご苦労。そのまま保護しつつ何かあったら勇者側を庇え。下手なことはさせるなよ。)

(かしこまりました。)


 という訳でフェンリル様ことバクチ様の説得劇が始まるわけだ。イサオ、ヒジリ、ジュラ、ルスキーか。…ルスキーだと?

 どこかで聞いたことがある気がするな。はて、何だったか。まぁ、いいだろう。とりあえずは南門に向かうとしよう。


 少し綺麗になった館を出て、フェンリル形態となり向かう。


「あ、バクチさん。どこへ向かうんですか?」


 シュセキだ。最近ギャンブルにハマりだしたらしく、カジノの近くの飯屋から声を掛けられた。


「おー、シュセキか。”こっち”の調子はどうだ?」


 そう言いながら手でボタンを押す仕草をして見せる。


「…プラマイゼロくらいですね。」


 ああ、これは負けているな。ギャンブラーのプラマイゼロは必ず負けている。間違いない。


「ま、程々にしとけよ?俺の金ならいいが、お前の金だからな。自己責任だぞ。」


「ッ!そんなことはいいんですっ!それで!どこへ向かうんですか!?」


 図星をつかれ少し気が立つシュセキ。あぁ、気分が良くなる。


「南門の方に勇者様が来たんだよ。ちょっとばかり早いがね。」


「もう来ましたか。狼達からメッセージが届いていましたが、こんなに早いとは。都市民は避難させておきますか?カジノに連れ込むと聞いてますが。」


「いや、今は構わないよ。あーそれと、ホトリと連携を密にしておいてくれ。いざと言う時は避難で頼む。」


「分かりました。あとホトリンはここに居ますよ。」


「バクチ様…酷いです…」


 あっ、隣にホトリが居た。男の娘と分かってからあまり会ってなかったが、髪を伸ばし始めたようだ。それもミディアムからロングへと。うーん俺好みだが、男なんだなぁ。


「すまんすまん、そのうち飯でも行こーや。もちろんシュセキも来てくれよ。」


「二人っきりというのはダメなん…」


「よし!それじゃあ俺は南門に向かう!さらばだ!」


「バクチ様ぁぁぁぁ!」


「また後でなー!」


 危ない危ない。アプローチも段々激しくなってきてるし、手紙なんか何通も貰っちゃってるからなぁ。女の子ならどれほど幸せだったか。シュセキにもそろそろ手を出したい所だし、どーすっかなぁ。ま、いいや。今は勇者勇者。


 という訳で移動を再開した訳だが、何やら揉め事が発生している。


「この街は人間の立ち入りが基本的に禁止だ。事前にバクチ運営官殿から通知があれば別だが、お前達の話は無かったぞ。

 さぁ、帰った帰った。」


「僕達は勇者です。通さないなら…分かりますね?」


「俺達を止めることが出来るやつは、そうそういないぜ?いいのか?魔族のあんちゃんよぉ。」


「ええい!者共掛かれ!」


 おいおい、勇者って言われてんのにどんな対応だよ。せっかく穏便に来てくれたのにそれじゃあ不味いだろ。

 門番として優秀なのは分かるが、それでは幾つ命があっても足りない。止めるしかないか。


「待て待て。そのバクチがここに居るぞ。」


「バ、バクチ運営官殿!この者たちは勇者を名乗りました!このままでは魔王様の首も危ういでは無いですか!」


「本当に勇者ならお前達では何も出来ないぞ?いいから下がれ。そいつらと少し話がしたい。」


「…そう仰るのなら。下がるぞ!」


 ゾロゾロと帰っていく門番部隊。うーん、人間を少し邪険に扱いすぎたか。人に対する当たりが強いのは仕方ないだろうな。俺にも責任はある。要改善。


「ようこそ都市シデスへ!勇者御一行。俺はバクチ、この都市の運営長だ。」


 若いな、完全に中高生の見た目だ。150年は生きていると聞いていたが、見た目は変わらないのか。


「イサオです。ビッゲス王国から来た勇者です。

 …貴方は人間を見ても態度が変わらないんですね。運営官は確かウンネイという名前だったはずです。彼はどこへ?」


「君達がどんな話を聞いたかは分からないがね、魔族だって社会の新陳代謝はあるんだよ。それに俺達は敵ではあるが…殺し合いをしたいとまでは思っていないよ。俺は日本人なんだ。」


「日本人!?それは本当ですか!」


「あぁ、俺の本名はケイトだ。魔王様に召喚されてここを任されたんだ。今は魔族の体である以上こういう立場だけど、人を進んで殺したいなんて思ってないよ。」


「なるほど…それで、あのオオカミ達は一体なんですか?」


「ああ、狼ね。アイツらはこの付近で発生した魔物達だよ。訳あって俺と仲がいいから、シデス付近の困ってる者達を助けるよう指示しているんだ。

 見たところ…馬が襲われてしまったのかな?申し訳ないことをしたね。すまないが、彼らも動物だってことを理解してやってくれ。飯が転がり込んで来たとでも思ってたんだろう。人や魔族は食わないしね。」


「あぁ、そういうことなら構いませんよ。やられた僕達にも責任があります。」


「お詫びと言っちゃあなんだけど、宿泊施設へと案内するよ。手塩に掛けた自信作だ。」


「騙されるなよ、イサオ。こいつ中々に曲者だぜ。さっきから胡散臭い。それなのにポーカーフェイスを貫いてやがる。」


 こいつがルスキーか。後ろでイライラしてるのがジュラで、清楚担当がヒジリだろうな。いやーどうすっぺ、こいつら街に入れたらガチでやばいじゃんね。

 ルスキーが特にやばいわ。こいつ鋭そうだし覚醒ネオンにも気付きそうだな。あぁ、あれを使うか。


「君の名前は?」


「ルスキーだ。魔族。」


「魔族、ね。俺は今バクチという名前を持ってるし、以前は人間だった訳だけど。全く、困っちゃうね。」


 手にドドんとデカいのを。火属性覚醒魔法、虚勢巨大炎球(ハリボテファイア)。当たらなければ威力が分からないが、あまりにもデカすぎるファイアボールだ。火属性の要素を覚醒させることで実現した魔法で、威力はその時によってピンキリ。ギャンブルだなぁ。


「ちょ、その大きさはダメっしょ!ルスキー、こいつやばいよ。有力魔族を遥かにに超えるの魔力かも!ウチはジュラ、少なくともウチには戦う気は無いよ。」


「実はね、俺は君達が魔王様を倒した所でなにも思わないんだ。この街に被害が出ないという条件ならね。」


「こんな魔族の方は初めてです。日本人ですし、少しは信用してもいいんじゃないかな?

 それに…こんな所で戦ったら色んな人が傷付いちゃう。それは私も嫌。よろしくお願いしますバクチさん。私はヒジリ、聖女です。」


「わからず屋はルスキー君だけのようだね。さて、どうする?」


「ちっ!わーったよ!…よろしくな、バクチさんよ。」


「うん、よろしくね。それじゃあ、僕に着いてきて貰うよ。」


 そう言って覚醒魔法のみを残して火属性魔法を消す。残滓をこっそりとルスキーの近くに忍ばせ…る。よし、これでそのうち判断力が鈍っていくだろう。これがハリボテマジカル最大にして真の能力、隠れ覚醒だ。

 彼らの馬車を狼に引かせつつ、カジノの近くにある三階建ての高級宿に案内する。もちろん公営店だ。カジノの景品で一泊出来る部屋もあるが、少し高すぎる値段設定をしている。

 俺の権限でタダで泊まらせてやろう。今日の夜か、明日か。いずれにせよカジノにハマり、借金地獄。俺に利息を返済し続ける金蔓にする予定だからな。ならなければ全面戦争だ。勝てるか分からない戦など避けるに限るが。


「すごい…」


 ルスキーは驚愕、他は感動って感じの反応だ。あー、そのシャンデリアは覚醒魔法を内蔵してるからもっと直視してくれよ?

 彼らは知らず知らずのうちに、覚醒魔法に身を蝕まれていることに気付いていないようだ。本当に勇者なのか?鈍すぎる。

 いや、俺とミルが凄いのだろう。魔族にすら気付かれない魔法を作り上げるのは困難だったんだから。


「君達に泊まってもらうのは…この部屋だよ。」


 部屋の中に階段があり、上の階にベッドルーム四部屋とトイレ、下の階にはリビングと暖炉とキッチン、露天風呂に室内風呂、その他もろもろ。気合いで作った冷蔵庫まであるスイートルームだ。特別室だから金では泊まれない。

 三階建て、その二階と三階の全てがこの部屋なのだ。広さも分かるだろう。高級宿の高級部屋、言うことなしだな。

 ボロ館もそのうちこれくらい改造したいもんだ。万が一の来賓に備えて作っておいたがこんな使い方も出来るとはね。素晴らしいよ先見の明が。


「バクチさん、本当にいいんですか?」


「ああ、良いとも。風呂も二箇所あるから自由に使ってくれ。片方は露天風呂だよ。

 …この世界は少々不便すぎる。娯楽も少ないだろう?君達が何年居るかは分からないがこんなに手の込んだ客室だ、どこの宿にも負けない自信がある。」


「えぐい、良すぎる。ウチここで暮らすわ。勇者とかやってらんない。」


「何言ってんのジュラ!わかるけどね…」


「バクチさんの好意に感謝しよう。ここで英気を養って魔王討伐だ!」


「…バクチさん、近くにあったネオンライトの建物はなんだ?

 以前この街にカジノがあったのは記憶しているが、あんなにデカいカジノなんてあったか?」


「あぁ、以前のカジノは裏組織の関わりがあって摘発されたよ。今のカジノは僕がこだわり抜いた、新たな娯楽施設さ。君も興味あるのかい?」


「無いと言えば嘘になるな。だが、そうか。以前のカジノは摘発されたか。」


 思い出したぞ。そうだ、こいつが裏でカジノを回していた張本人じゃないか。名を変え身分を変えていたが、最終調査でルスキーという男が関与していることが判明した。

 ああ、この男はダメだ。プロ側になれる人間だ。こいつをギャンブルで嵌められることは無いのかもしれない。狙うなら他三人になってしまうか…。


 ――――――


「ギャハハハハハ!バクチさん、これ最高だぜぇ!こんな面白いスロット打ったことねぇ!」


 チョロかった、あまりにも。

 どうすればカジノに行ってくれるのか、考えに考え抜いていたというのに、まさか自分からハマりに行くとは。ほんとにカジノ経営に携わってたのか?こいつ。考えられないほどの豪遊っぷりだ。


「組長面白れぇ〜!」


 仲間達をほったらかして、夜な夜なカジノへと足を運んでしまったルスキー君は、完全にギャンブル中毒へと成り下がりつつあった。

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