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クズ、パズルのピースを見つける。

「最近、うちの家に、妙な人間たちが出入りしているんだ。表立っては武器商人なんだが……軍にその武器が入っているところを、見たことがない」


つまり、だ。ローレンツは、はやる心臓を押さえ、心の中で整理し、適切な言葉に言い換える。


「つまり、将軍が、ユリアン側に、武器の横流しをしている、と?」  

『適切じゃないですよそれぇ』


ローレンツの頭に両腕を預け、ことの成り行きを見守る女神がそう言うが、ローレンツとしては、最大限に控えた表現を使ったつもりだ。


はたして、アルブレヒトは頷いた。


「そうだ。帳簿には書かれていないが、確かに、武器は買い付けられている。俺はこの目で、耳で、父と商人のやり取りを目撃したんだ。だが、買い付けた武器の行方を聞いても、父はそんなものは知らないと言っている……」


下手を踏んだな、とローレンツは、アルブレヒトの苦悩の告白を聞いてそう思った。どうして父に直接聞いてしまったんだか。

ローレンツのいる村を焼いた残虐さや、それを悟らせなかった……逃げる隙を与えなかった狡猾さは、後々で身についたとでも言うのだろうか。


『ていうか、ローレンツさんとお友達だったから、身についたのでは? えひっ』

「ローレンツ?」

「すまない、虫がいたんだ」


我慢ならなくなったローレンツは、頭上の女神を追い払うべく、自分の頭の上を叩いた。が、感触はなく、勢いあまって自分の頭頂部を叩いてしまう。女神の笑う声がする。


「続けてくれ、アル」

「ふっ、貴公は、俺の話を重く受け止めないために、わざとそんなことを……」

『な、なんか勝手に好意的に解釈してくれてますよ。頭に目がついてなきゃ、虫なんて見えっこないのに……!』


笑っていた女神が、慄くような声を出す。こういうところで、父の裏切りの発見が遅れたのだなと、ローレンツは思った。

ところで本当に手のひらで虫は死んでいた。この独居房は、虫たちとの同居で成り立っている。ローレンツは、虫を慎重に、手のひらから摘んで床に捨てた。


「しかし、武器の横流しといっても、ユリアン以外に横流しをしている可能性もあるだろう」


今のアルブレヒトの話を聞く限り、将軍が、何かの窓口になっていることは事実だろう。だが、決定的な証拠は無い。


「この前、ユリアンと接敵しただろう」


だが、せっかく、ローレンツが励ましの言葉を送ってやったというのに、アルブレヒトの表情には、雲が掛かったままだった。


「その時に使っていた武器は、あのとき、家で、父が注文していた武器そのものだったのだ」

「な、なるほど……」


将軍が、家で密かに会っている武器商人。その商人が扱っていた武器が、ユリアンのところにあり、疑惑は証明されてしまった、というわけだ。


ローレンツは、あまり武器に詳しくない。だが、ユリアン率いる北方民族が、帝国軍と遜色ない武器を使用していたことは、事実である。


ーーその武器の出所が、将軍だったとは。


来たる未来の反逆は、この頃から、始まっていたというのだろうか。


「なにか帳簿をつけていれば、皇帝陛下に直々に訴えることができるのだが……俺としては、力が及ばないのだ」


握った拳で、アルブレヒトは独居房の床を叩く。人の住まいを壊さない努力は気に入った。


「父は……恐れ多くも、帝国に反旗を翻そうとしている……と、俺は思う。だからこそ、手始めに、人望も厚く、戦の才能もある、アインホルン中尉殿を罠に嵌めたと、俺は思うのだ」


ーーふぅむ?


ローレンツは、そこで少し疑問を抱いた。


アルブレヒトの言っていることは、有象無象の歴史学者たちの説とはまったくの反対だったからだ。


あのノイス・フランメ・アインホルンが生きていれば……その仮定は、民草のため、帝国のために、ベルンハルト将軍に協力しただろうという予想に基づいたものだからである。


ーー将軍は、アインホルン中尉殿が味方にならないと予想していたのか?


いやいやもしかしたら、そうだとしたら。


「ローレンツ?」

「いや、すまない」


ローレンツは、俯いて殊勝な表情をつくり、そのくせ、口元を手で隠して笑ってしまう。


ーーそうだとしたら、俺に嫉妬したあのカス……カステマという男は、ベルンハルト将軍の手先だったのではないか?


ローレンツの思考は、加速していく。


一人の男の嫉妬劇のはずだったものに、大いなる陰謀がついてくる。


大義のため、自分の息子をも切り捨てようとしていたベルンハルトは、カステマの嫉妬を利用し、アインホルンを殺させ、ローレンツにその罪を被せた。


ーーこの時期に、アルブレヒトが武器の取引に気付いていたとして。


そして話してくれたように、馬鹿正直に問い詰めていたとして。


一応の親友であるローレンツを冤罪に巻き込むことで、目を逸らさせようとしたのだとしたら? 全ての辻褄が合うではないか!


歴史学者として、こういう瞬間が一番楽しいのだと、ローレンツは熱い思いが込み上げた。

人間の行動は、すべて、辻褄が合うわけではない。時として、その場での情動に突き動かされることもある。だが、確かにパズルのような部分は存在していて、ローレンツは、前世でついぞ、手にできなかったピースをみつけたわけだ。


ーーとすると、カステマを殺したのは。


この方が時間稼ぎになる、という判断だろうか。逃げも隠れもしないで簡単に捕まったローレンツよりも、体力もあり信念もある、アインホルン中尉が逃げ回った方が、王命もあるし、時間も稼ぐことができる、と。


「……アインホルン中尉殿に、会った方が良さそうだな」


奇しくも、ローレンツと、ベルンハルト将軍の思惑は一致しているわけだ。どちらも、自分から目を逸らしたい。


「ただしアル、君が、だ。ベルンハルト将軍の実子である君が、自分が味方であると、彼に教えてやってほしい。その間ーー」

「その、間?」


アルブレヒトが不安そうな顔をしている。その不安を払拭するように、ローレンツは自身ありげな表情を浮かべた。


「その間、俺が、将軍と話をするよ」


そうして、この戦場から逃がしてもらう。


ーー『啓示書』を手土産に、ユリアン側に寝返らせてもらおうか。

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