愛しの旦那様はスティングに似ている
はじめまして、こんにちは。
二度目まして、こんにちは。
三度目まして、こんにちは。
幾度目まして、こんにちは
空原海と申します。ちなみに本名ではないです。
さて以前から書いてみたいなぁ、と思いつつ、どうにも手が出せなかったものがあります。
それはエッセイ。
しょっぱなから卑下するのも感じが悪いと思うんですが、基本的に私、バカなんです。
低脳。考えなし。無神経。
高尚な思想とか、一切ない。
脳みそにある知識は、底上げされまくったコンビニ弁当みたいにすっかすか。
そんでもって薄情。
優しさなんて、ポケットに突っ込んで存在を忘れてた、溶けかけの飴玉くらいしか持ち合わせていない。
刹那的かと思えば、保身のための保険は設けておく。
しかしバカだから、盤石な要塞だとほくそ笑んでいた保険は、実際は砂の城でした、みたいな。
まあ、そんな感じの人間なので、ためになることとか、深いことだとか、誰かの癒しになるだとか。
そういうエッセイを書くのは不可能。
ただただ、自分の醜さを巻き散らかすだけで、しかもその醜さがなんの糧にもならん。毒にもならん。
ありきたりな、くっだらない、どこかで聞いたな? みたいなのを捏ねくり回すしかないなぁーって思ってたんです。
それ、エッセイ書く必要ないね? と。
しかし!
そんなバカ女も、なんと、すっごくすっごくいいもの、人様に「素敵でしょう?」って自慢して、幸せのおすそわけできるものを持っていたのです。
それはですね。
家族です。
マイファミリー。
夫と、こども達。
家族自慢し始めたら、超絶文字数になってしまうので、今回は夫自慢をしようかな、と。
ええ、惚気です。
完全に惚気です。
惚気ウゼーって方は、どうぞあちらの出口へ。
お帰りの際には、お口直しに短編とか長編とか、クリックしていただけたら、なんて思います。
どうぞよしなに。
――さて。
残ってくださった奇特なお方。
バカ女の夫自慢にお付き合い下さるということでよろしいでしょうか――……どうもご了承いただけたようです。
それでは始めますね。
「我が愛しの旦那様はスティングに似ています」
タイトルまんま。
って言うか、スティングって誰? という方もいらっしゃるかもしれません。
若い方から見れば、もう、結構なおじいちゃんですしね。
おじいちゃん……おじいちゃん? ホントに?
不安になってググってみたら、なんと御年七十歳。
まじかよ。
イケジジすぎるだろ。
ググれば済むことですが、スティングさん。
イギリスの伝説的ロックバンド、『ポリス』のボーカル兼ベーシストで、『見つめていたい(Every Breath You Take)』や『ロクサーヌ』なんかはよく映画でも使われてたりするんで、一度は聞いたことがあるのではないかな、と思います。
あとはスティングがソロになってからも、ほんっとーに沢山の楽曲が映画に使われていて、「これだ!」って挙げることがもはや困難なのですが、アラフォーくらいの方だと映画『レオン』に用いられていた『シェイプ・オブ・マイ・ハート』でしょうか。
でもきっと、この映画や曲をご存知でしたら、スティングはご存知かなぁと思うので、なんの説明にもなりませんね。
まぁ、ググってYouTube見るのが一番早いです。
かっこよさもわかりますし。
Youtubeにぶん投げるなら、いったいなんのために説明を始めたのか。
スティングかっこいいよねって言いたかっただけです。
スミマセン。
それでですね。
スティングは若い頃も今も、めちゃくちゃかっこいいんですが。
好みもありますが、これはきっと皆さん頷いていただけるのではないかなぁ、と思うんです。
で、そんなカッコいいスティングに。
夫が。
我が最愛の夫が。
めっちゃ似てるんですよぉおおおおおおおおおお!
いぇえええええい!
ひゅうひゅう♪
…………ホントですよ?
まず身長。
Wikipediaを信じるならば、夫のがスティングよりわずかに高いです。
手足。
おまえは本当に日本人なのか? っていうくらい長いです。
すらっと細身ではあるけど、骨格がしっかりとしていて、ヒョロヒョロタイプでもなく、スタイルも似てるんです。
いや、マジでうちの旦那、カッコいい。
そして顔。
大事ですよね。
男も女も顔じゃないですが、顔も大事です。
毎日見るなら、好きな顔がいい。
好きになったら顔も好きになる、というのもありますが、単純にイケメンは目の保養になります。麗しい。ありがとう。
すっと通ってしっかりとした鼻梁。
薄くて形のいい唇。口角がキュッとあがってるところとか、口を開けるとぐわっと大きいとか、マジでスティングに似てる。
そして目。
目ですよ!
いや、さすがに青い目なんてしてないです。
東北では稀にいらっしゃるみたいですね、青い目。
それはともかく。
夫はかなり色素薄いので、光があたるとオリーブがかったブラウンではあります。
その目。
笑うとクシャッと目尻にシワが寄って、愛情深さがあって、穏やかで、優しくて、知的で、ユーモアがあって。
そんな最高の眼差しをくれるんです。
そして真剣な目のとき。
猛禽類みたいなね、ちょっとばかし酷薄そうな、あのカッコいいやつです。
いや、本当に改めて思い返せば返すほど、夫、かっこいいな。
そしてシャープな顎のラインと、顎の先はしっかりと男らしく。
顔の輪郭も、もちろん似ている。
要するに。
めっちゃイケメンなんですよ!!!
なんですよ!
――なんですが。
夫。若い頃からあまりファッションに興味がなく。
着飾れば最高にカッコいいんですけど、着飾らない。
まぁ、なんというか。
ダサい。
なので、お付き合いする前は、女性からはモテなかったようです。
あんなにカッコいいのに。
世の女性達の目は節穴か、と心底思いましたが、そのおかげでご縁があったのだな、とそこは感謝しております。
モテモテだったら、絶対に私みたいなバカ女に引っ掛かるはずがないので。
皆さん、見る目がなくてありがとう! と心からお礼を述べつつ、夫を着飾ろうとショッピングに行っては、ファッションショーさせたりしました。
その甲斐あって、夫はオシャレイケメンに大変身! …………はしませんでした。
着ろ、と言われれば着るし、いいものはいいものとわかるけど、ファッションに比重は置かない。
時間もお金も、費やしたい別のものがある。
そういうことなら、と私もファッションショーはやめました。
オシャレじゃなきゃヤダ、カッコいいイケメン連れ歩いて自慢したい、なんて考えるような年齢でもなかったので。
オシャレしなくてもイケメンはイケメン。
やや芋っぽいイケメン、スタイルの良さが日本人離れしている。それが夫。
女性にはモテなかったようですが、ゲイには相当モテました。
頭がいいはずなんですけど、天然なところがあるので、ホイホイついてっちゃって、ギリギリな目にあったこともあるみたいですし、私のゲイ友からは「なんでアンタみたいなおブスが、いい男捕まえてんのよ!」と散々羨ましがられました。
当時彼氏だった夫を馴染みのミックスバーに連れて行くなり、大人気で。
夫が「全然モテません」って自己申告するたび、「女ってなんで、見る目ないのかしらね?」と溜め息をつかれていました。
完全同意で、あー見る目ある女でよかったなぁ、と思うと同時に、「この人は女を見る目がなくて可哀想だな……」とも思いました。
ゲイ友も内心そう思っていたみたいなんですが、ようやくできた彼氏――しかもとびきりのいい男――と別れさせては、と気を遣って言葉を飲み込んでくれたようです。
結婚式三次会前に聞きました。ありがとよ。
感謝の気持ちから、三次会会場で暴露話始めようとしたときには、会場から引きずり出すだけでやめておいたよ。
そんなイケメンで優しくて頭が良くて、最高の夫。
前置き長かったな。
既に3,400文字を超えている。
先日書いた、ナンチャッテ純文の短編より長い。
(機会があれば、そちらもどうぞよろしくお願いします。短編『あるいは』3,000文字弱です)
エッセイってこんなに長くていいのだろうか。
まぁいいか。
スティングに似ている。
これは夫本人にも散々言ってきました。
しかし。
夫、スティングを知らない。
いえ、今はさすがに知っています。
しかし、私が夫に「スティングに似てる! スティングよりカッコいいけど、あなたスティングに似てるよ! ヤバい! めっちゃカッコいい!」みたいなことをうるさくわめき散らかし始めた当初。
夫の反応は「スティングって誰?」でした。
冒頭で、そういう方いらっしゃるのでは? と予想し書いたままの反応が夫です。
スティング。
大御所ミュージシャンで、五十年間休むことなく常に現役で、音楽界のトップを走り続ける偉人。生ける伝説。
……ではありますが。
さて若者の音楽シーンのメインストリームにいるか、と言われれば。
それは違う。
夫と私が若者であったとき。
若者の音楽シーンのメインストリームは、スティングではありませんでした。
常に新たな挑戦へ趣き、留まらないスティングは、当時クラシック界に傾倒していたように思います。
調べてみたら、年代ズレてる可能性は大いにありますが。
だってスティング、色々手を出すんだもん。
そしてその全ての完成度が高くて、次から次へと『スティングワールド』にしていくんだもん。覚えきれんわ。
エッセイ書くなら調べろって声が、内から聞こえてきますが、まぁいいじゃないの。
ググってみたらイッパツよ。
あと詳細に書くと年齢バレちゃうし。
脱線しました。
まぁ、そんなわけで、夫はスティングに馴染みがなかったのです。
前述した、ジャン・レノ演じる寡黙な殺し屋と、ナタリー・ポートマン演じるパンキッシュロリな孤児のヒューマンドラマ、リュック・ベッソン監督による傑作『レオン』という映画も。
実は世代じゃない。
知らない。
金曜ロードショーとか日曜洋画劇場とか。
そのあたりで放送されていたら、見た人もいるかもしれないね、くらいです。
しかし、私は『レオン』のマチルダが大好きでした。
心底惚れていました。痺れた。
というのも、当時お世話になっていた年上のお姉さんが、ナタリー・ポートマン演じるマチルダみたいな格好をしていたのです。
お姉さんが映画『レオン』にイカれていて、そしてまた、お姉さんが華奢でアンニュイな、退廃的雰囲気のある美人だったものだから、完全にハマってたんですよね。
カッコよかったな……。
そのお姉さんを始め、ご縁のある方々が皆さん私より八歳は年上、といった環境で幼少時から過ごし、同年代の友人が限りなく少なかったので、同年代の方々との「あーあったね、懐かしい!」が、若干ズレる。
そのため、もちろん同い年の夫とも、ズレる。ズレまくる。
ポケモンで育ってねーし。
モンハンってポケモンと同じじゃないの?
DS? いやいや、携帯型ゲーム機っていったらゲームボーイだろ!
懐かしの話題が噛み合わない。
幸い同級生なので、小学校の話題でしのぎます。共通の友人がいたことが救いです。
そんな夫。
スティングを始め、好きな音楽、映画、漫画、小説、舞台、バレエにオペラ、アート鑑賞。
様々なものを押し付け――紹介しました。ファッションショーさせたときのように。
ファッションショーのときと違うのは、芸術的趣味が似通っていたことです。
もともと夫との縁は、互いの趣味がきっかけでしたので。
鑑賞予定だった舞台チケット、その同行者の予定が急遽都合がつかなくなり、余ってしまったのを夫に「どうよ?」と持ちかけ、「行くわ」と応えてもらったのが始まり。
趣味については、合わないところも勿論ありますが、共有し合うことが、夫婦の楽しみでもあります。
こどもが生まれてからは、二人きりの趣味の時間を作ることはなかなか難しいですが、それでも個々で楽しむものを紹介し合い、感想を伝えることは続けています。
そのため、私が暑苦しいパッションで見開ききった目をギラギラにして、ツバ飛ばしながら早口で捲し立てるように押し付けても、夫は邪険にするでもなく、素直に耳を傾けてくれる。
マジで夫、素晴らしい。
こんないい男は他にいない。
それで、スティングに関してもいつものごとく布教しました。
夫の感想は、好きでも嫌いでもない、でした。
布教ついでに、いかに夫とスティングのルックスが似てるか、みたいなことも織り込んでいたので、おそらくそのあたりが夫の羞恥心を誘ったのだと思います。
だってスティングの楽曲、夫の好きな系統だもん。
ちゃんと知ってるぜ。へへっ。
さて。
場面は変わって、夫が在宅勤務のある日。
こども達を送り出し、出勤前の家事もひと通り終え、リビングのダイニングテーブルにて、コーヒー片手にひと息ついておりました。
テレビをつけ、YouTubeを選び。
そして画面の左にある『音楽』のメニューをリモコン選択。
すると表れ並ぶのは、『あなたにおすすめのアーティストステーション』。
『もう一度聴く』。『あなたにおすすめのジャンルとムードのステーション』。『おすすめのライブパフォーマンス』。『おすすめの音楽』。
そして、はい。いらっしゃいました。
スティング様。
ルー・ドワイヨンにエミリー・シモン、フランソワーズ・アルディといったフレンチ・ポップから、ノラ・ジョーンズ、ベル・アンド・セバスチャン、レディオヘッド、ムーム、ブリトニー・スピアーズにマドンナ、クランベリーズ、カーディガンズ、アラニス・モリセットにグー・グー・ドールズ、みたいな破茶滅茶なラインナップ。
日々変わるそれらのうち、スティングの『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』は『もう一度聴く』で常に左、一番に表示されます。
モノクロのMV。
ニューヨークを練り歩く英国紳士スティング。
毎日聞いてる。毎日見てる。
全然飽きない。
楽曲がいい。
ジャジーな演奏も、スティングのセクシーで哀愁ある歌声も、皮肉たっぷりの矜持と諧謔心溢れる歌詞も。
映像がいい。
デヴィッド・フィンチャーという、ブラピと街並みやら背景をカッコよく撮ることにかけて天才的な映画監督(ググってみたら、MV監督出自だったそうですね。そりゃうまいわ)が、スティングとニューヨークを撮る。
しかもクエンティン・クリスプという、最高の英国紳士までも出演する。
これで、カッコよくないわけ、なかんべ?
スティングが夫に似てるとか。
関係なく、マジでカッコいい。
そしてそんなスティングに似てる夫、マジでカッコいい。
思わず声に出ます。
「はぁー……。マジ、カッコいい……」
そこへガチャリと扉に手をかけ、入ってくる夫。
壁時計に目をやれば、時刻は八時半。
在宅勤務なので、体調報告だとか、諸々連絡事項のチェックだとかを書斎で済ませ、何かコーヒーやらお茶請けやらを取りに来たのでしょう。
え?
コーヒーとお茶請け?
運びませんよ?
だって私、もうすぐ出勤ですし。
出勤前のひとときくらい、欲しいです。
最愛の夫ではありますが、それはセルフサービスでお願いしております。
さて。
リビングに足を踏み入れた夫。
目が合います。
その間、数秒。
そして、うっとりと目を細める私。
「はぁ……。かっこいいなぁ……」
吐息交じりに、恍惚と。
すると気恥ずかしそうに目をそらす夫。
グッときました。
きましたが、我慢です。
「また海ちゃんは、そんなこと言って……」
モジモジしてます。
マジか。
マジかよ、夫。
なんだこの可愛い生き物は。
内心、たいそう悶えているのですが、まだ我慢です。
なぜならば。
「え? カッコいいのはスティングだよ?」
夫の目が。
オリーブがかったブラウンの、色素の薄い、その目が。
まん丸く見開かれていく。
そしてジワジワと、頬が目尻が、耳が、首までも。
真っ赤になっていく。
…………夫よ。
ああ、夫よ。
言葉になりません。
夫の可愛さに悶絶し、のたうち回る胸中。
しかし、次の一手のために、私の表情は、まるで『なろう(異世界恋愛ジャンル)』に出てくる矜持の高い貴族のご令嬢のように淡白であります。
隠しきれずに鼻がピクピク動いてたりなんかしません。
フンフン鼻息荒く、瞳孔が見開ききってたりなんかしません。
「……そだよね。いや、ごめん……。うわ、恥ずかし……」
鼻血出そう。
お茶請けのお菓子を選びに、夫はダイニングテーブルをそそくさと通り抜け、パントリーへ。
スッキリとヘアカットして丸見えの耳裏も首裏も。
真っ赤っ赤です。
鼻血出そう。
ガサゴソと何やら漁っている夫。
静かに席を立つ私。
気がつかれないように、そうっと近づき――ましたが、影が伸びてしまった。
びっくりさせたかったけど、パントリー入口で気づかれてしまいました。
まぁ、これは仕方ないですね。
背後からそっとハグしたかったんですが、気を取り直します。
そして、まだちょっと赤い顔した夫が振り返る。
「どしたの?」
「うん。カッコいいなぁって思って」
「……スティングが、でしょ」
もう騙されないぞ、と眉をひそめてへの字口な夫。
夫よ。
ああ、君はなんて可愛いんだ。
「夫くんに似てるスティングって、なんてカッコいいんだって思ったけど、スティングに似てる夫くんは、最高にカッコいいなって改めて思ったよ」
マジマジと夫の顔を眺めて、
「はぁ……。かっこいいなぁ……」
そしてそのまま出勤しました。
その日の仕事は、めっちゃはかどりました。
こども達は習い事。
夫は試験勉強。
そんな土曜日の隙間時間。
一気に書き上げました。