異世界転生コント
舞台袖から出てきて定位置に着き、むせるくらいの大きな声で。
ボケ「こんにちは!」
ツッコミ「声でけえな!」
ボケ「挨拶は人の基本なのでがんばらせていただきました!」
ツッコミ「そんなでけえ挨拶してる奴見たことないよ。もっと小さな声で、こんにちはー、くらいでいいんだよ」
ボケ「おい」
ツッコミ「なんだよ」
ボケ「元気足りないんじゃないか、そんなんじゃ挨拶される人に失礼だろ」
ツッコミ「普通だよ! これでいいんだよ、お前のは鼓膜割れるからな。挨拶で鼓膜割りに来る奴のほうがよっぽど失礼だよ!」
ボケが少し溜めてから大物っぽく笑い出す。
ボケ「はっはっはっは」
ツッコミ「僕のほうがおかしな事言ってる空気作るのはやめろよ。それはそうと最近異世界転生が流行ってますね」
ボケ「話を急に変えたね?」
ツッコミ「うるさいよ時間おしてるんだよ。挨拶の話は舞台降りてからだよ」
ボケ「挨拶みたいな大事な話を後回しにするのかい?」
ツッコミ「大事な話だから時間ある時にやるの! 覚悟してろお前、あとでみっちり話し合うからな! えー、それはそうと異世界転生が流行ってるじゃないですか。書店さんなんかで新刊見てると異世界物がけっこう多いですよね。じつは僕も異世界転生してみたいんですよ」
ボケ「私との漫才はどうするんだい?」
ツッコミ「うっせえな、そういう設定でコントやろうって話だろ。それでですね、なんでもトラックにはねられたら異世界に行けるらしいんですよ」
ボケ「本当かい?」
ツッコミ「それをたしかめてみたいと思ってるんですよ。(相方の名前を呼ぶ)、トラック役やって」
ボケ「わかった」
ボケ、クラウチングスタートの体勢になる。
ボケ「レディー」
ツッコミ「トラック競技やれとは言ってない。トラックっつったら軽トラとか四トンとかのトラックだよ」
ボケ、ツッコミから少し離れてハンドル操作みたいな手の動きをしながら。
ボケ「ぶおんぶおんぶおん!」
ツッコミ「それバイクだろ」
ボケ「実家のトラックはこんなだぞ」
ツッコミ「だいぶガタがきてんな。買い替えてやれよ」
ボケ「半分出してくれるかい?」
ツッコミ「やだよ。そのオンボロでいいから早くはねてくれよ」
ボケ、ツッコミをはねずにツッコミの周りを一周回る。
ツッコミ「いらねえ挙動だな、早くはねてくれ」
ボケ「どーん!」
ボケ、ツッコミを突き飛ばす。
ボケ、えらそうな立ち方をする。ツッコミ、ボケの足元で四つん這いになる。
ボケ「私が神だ。異世界に行きたいというのはお前か」
ツッコミ「そうそうトラックにはねられたら神様が出てきて異世界に連れてってくれるんですよ。って、お前もけっこう詳しいな」
ボケ「深夜アニメ見てるからね」
ツッコミ「だったらこんな長いフリ要らなかったろ。よし続けるぞ。神様、僕を異世界に転生させてください」
ボケ「英語もしゃべれない奴が異世界で生きていけるのかい?」
ツッコミ「リアルな話をするなよ。神様便利なスキルをたくさんください。異世界でも最初からしゃべられるような定番の奴あるでしょ」
ボケ「チートスキルだね」
ツッコミ「そうそうそれ」
ボケ「英和辞典でいいかい?」
ツッコミ「だからリアルな奴はいいんだよ。不思議な力でどうにかしろよ」
ボケ「異世界言語理解でいいかい?」
ツッコミ「まともな奴出てきたな。神様それください」
ボケ「他には?」
ツッコミ「うーん、迷うなあ。スタートダッシュは大事だし、魔法使いになれるスキルとかがいいなあ」
ボケ「魔法?」
ツッコミ「おい、定番でつまずくなよ」
ボケ「魔法は難しいな」
ツッコミ「じゃあどんなチートスキルくれるんだよ」
ボケ「広島市永住スキル」
ツッコミ「神様に貰うようなスキルじゃねえだろ。そんなもん住民票うつせば誰でもできるんだよ。他には?」
ボケ「市役所コネ就職スキル」
ツッコミ「けっこうすげえコネ持ってるな。でもそういうリアルな奴はいいからチートスキルくれよ」
ボケ「広島の私の実家に住んでいいスキル」
ツッコミ「お前にできる範囲の頼み事してるんじゃないんだよ! 趣旨理解してなかったのか!?」
ボケ「母ちゃんが寂しがってるから私の代わりに親孝行してきてくれ」
ツッコミ「お前がしろ」
ボケ「代わりに車をあげるから」
ツッコミ「オンボロトラックなんか要らねえよ。廃車寸前の音が出てる奴だろ」
ボケ「じゃあヒロインもやるから。梅子っていう66才の」
ツッコミ「ぜったいお前の母ちゃんだろ!」
ボケ「そんなに広島転生はいやかい?」
ツッコミ「いやだよ、僕はもう少しお前とコンビ組みてえんだよ」
ボケ「(相方の名前を君付けして呼ぶ)」
ツッコミ「これからもよろしくな」
最後に。
ツッコミ「おい、市役所コネ就職は本当にできるのか?」