第六話 風見原鷹弥(3)
バスケットボールのゲームということでポジションは5つ用意されている。ゲームなので能力値が設定されており各ポジションで得意分野がある。
センター(C)⇒相手のシュートをブロック、ゴールリングから外れたボールを空中でキャッチするリバウンド、オフェンスはゴール下での攻めが主体
パワーフォワード(PF)⇒センターと同じくブロックとリバウンドに参加し、オフェンスはボールを直接リングに叩きこむダンクシュート主体に攻める、ミドルシュートもまあまあ入る
スモールフォワード(SF)⇒いわゆるオールラウンダー、ディフェンスよりもオフェンスの起点となりダンク、ミドル、3Pシュートなど多彩に攻める
シューティングガード(SG)⇒SFと同じくオフェンスの起点となることが多く特に3Pシュート主体で攻めるがミドルも入る、ガードとしても役割も求めらボール運び等の役割もある
ポイントガード(PG)⇒攻めるなら3Pシュートとミドルだが自ら攻めるよりもオフェンス面ではアシスト主体、ディンフェンス面では相手からボールを奪うスティールからの得点に繋げたりとチャンスメイクがメインの役割
先ほど全体チャットにいたランキング1位の流奈ルミナスはセンターがメイン、5位にいた闇夜の暗闇はシューティングガードメインだったはずだ。自分はセンターとポイントガード半々くらいでやることが多い。
今の自分のランクはダイヤなのでまずはランク戦で勝ちまくってゴッドまで行かないことには上位から名前は覚えてもらえないだろう。話はそこからだ。
普段はソロでやっても仲間と協力できないことが多いため負けることも多くゲーム内のフレンドを誘ってチームを組んでやることが多いが、今知り合いとやったら突然上手になり過ぎて色々と面倒そうなのでしばらくはソロでやることにする。
スキルの複数回連続使用がどれぐらい体に負担があるかの検証も兼ねてゲームをプレイし始めた。
丁度20試合完了し、18勝2敗だった。ソロで勝率9割は普段なら信じられないくらい凄いことだ。おかげでランクはマスターまで上がれた。
しかし、多分現状はこれくらいの試合回数で一度休憩しないと体がもたなそうだ。前と同じく急激な眠気が襲ってきた。スキルや魔法の使用はRPGのゲームならMPという概念があり0になると魔法は使えなくなるわけだが、俺のこのスキルにも同じく目に見えない数値が設定されているようで俺のMPが0付近までくると眠くなってくる仕組みだと思われる。
寝てゲームして、寝てゲームしてを繰り返せばゴッドランクまで行くことはさほど苦労しなさそうだという手ごたえを感じながら今日のところは布団に入る。
次の日も1日ゲーム三昧、その次の日も1日ゲームで過ごし、とうとうゴッドランクまで到達することができた。
初のゴッドランク……過去俺が一度も成し遂げれなかった最高ランク。とても感慨深い物があるが、今の俺はここがスタートだ。
ランキング上位はそもそも上手い人同士で知り合いになることが多く、チームメンバー全員が強い場合がほとんどある。なのでスキルを使用して俺一人が大活躍したとしても勝てるかは微妙だ。しかしまず目的は名前を覚えてもらうことなので勝利よりもいかに目立つことができるかというところが重要である。
そしてその後は自分も強くて気の合う仲間を作りランキングトップ10くらいのやつらを引きずり下ろして、のし上がっていくというシナリオだ。
今日はあと数試合くらいなら体が持つはず。ゴッドランクでの初試合もこのままやってみることにした。
マッチングが終わり相手チームメンバーが表示されたが、予期せずいきなりこの時がきた。流奈ルミナスとランキング4位のサイコカナメがいた。さすがゴッドランクだ、相手も早速ゴッドランクがくるとは。
流奈ルミナスはC、サイコカナメはSFのポジションだった。この2人はフレンドなのか、それとももう一人名前を聞いたことがないやつがいるがそいつも含めた3人チームなのか、はたまたソロプレイでたまたまマッチングしたのかはわからない。
試合が始まり今回はPGでのプレイだ。自ら得点するのは厳しいだろうがディフェンスとスティールにすべてをかける。
流奈ルミナスはほぼすべてのリバウンドを制し、サイコカナメは巧みな攻めで完璧な形で点を決めてくる。スキルを使ってない状態でこの動きは、スキルなしの俺だったら一生敵わないだろう。よし、スキル発動。
自動に動く指はもう一人の無名のやつをメインに仕掛けるような動きをしだした。やはりこの2人に比べると大したことはないみたいだ。
流奈ルミナスがカバーできる範囲でのシュートはすべてブロックされ、サイコカナメもディフェンスは一流なので、自然と攻めの起点は俺になってしまう。
ディフェンス時もサイコカナメから1スティール決まり、もう一人の無名のやつから2スティールを決めてる。こぼれ球を拾うルーズボールもすでに4つ目なのでPGとしては大活躍の部類になるだろう。
終盤にも2ブロックを決め、試合終了し結果画面の最終成績は得点9、アシスト1、ブロック2、スティール4、ルーズ5の存在感を占めすことができた。しかし試合自体はやはり負けてしまった。まあ、そこまでうまくはいかないよな。
メニュー画面に戻り試合の余韻に浸っていると突如メッセージが来た。
差出人を確認してみるとつい今試合をした流奈ルミナスだ。
『初めまして。もしよければこのあとご一緒しませんか?』
まさかの誘いのメッセージだ。こんなに早く、しかも倒そうと思ってたランキング1位のやつからの誘い。考えてもいなかった事態に少し困惑するがまだ5,6戦くらいならスキル使用できるはずなので『チームに参加する』ボタンを押した。
チームの3人だけの画面に変わると、流奈ルミナスとサイコカナメの二人がいた。どうやらもう一人の無名のやつはソロで入ってきただけでこの2人がフレンドだったようだ。
流奈ルミナス:先ほどの活躍を見て是非ご一緒したいなと思いました
サイコカナメ:来てくれてどうも!
カザハラ:よろしくお願いします
サイコカナメ:うちらボイチャしない派なんだけどいい?
ちなみに自分は本名から取り、カザハラという名前がゲーム名である。
ボイチャというのはボイスチャットの略で、リアルタイムの対人ゲームでは電話のように会話しながらゲームをする人が多い。当然コミュニケーションを取れた方が連携を取りやすいからだ。
カザハラ:どちらでも大丈夫です
サイコカナメ:どうもー!じゃあ早速やりましょうか!
スキルがあるとは言え、ランキングベスト5に名を連ねる人たちとやるのは緊張する。気合を入れなおして画面へ向かった。
7試合を行い当然全勝だった。スキル使用回数的にここが限界だ。2人から明日もやりましょうということで解散になったが、これはとても楽しい。余裕で勝てる。まだランキングに載ってはいないが気分はもうランキングに入ってる状態だ。
体中の打撲もかなり良くなり普通に歩けるくらいまでに回復した。3日間休んだのでさすがに学校にもそろそろ行かないといけない。
次の日、あの事件から初めて登校したが、椿谷さん、板垣、麻生は普通通りに授業を受けている。当然あの時の記憶も転生前の記憶もないので、俺が知っている当時の3人そのままだ。他にも隠れた転生者がいるかもしれないのでしばらくは下手なことはしないつもりだ。
毎日学校に通い、家に帰ってはオンラインゲームをするという結局転生前とやることは同じになってしまっている。過去と違うのは一緒にしている相手がランキング上位の流奈ルミナスとサイコカナメの固定であるということか。もちろん合間でスキル書によるスキル取得も忘れずに行ってはいるが。
特に大きな出来事のないまま夏休みに突入した。
サイコカナメ:この前新しく出来た『好き嫌い分かれますカフェ』って面白い名
前の店に行ったんだけどさ、俺はめちゃくちゃ美味しかったさ
3人でやり始めてから3か月くらいも経つと合間で結構雑談することも多くなってきていた。と言ってもサイコカナメが話題を出して俺が膨らませるという流れがほとんどだ。流奈ルミナスはあまりプライベートを語らないのでいまだによくわからない。
しかし、そのカフェの名前たしかどこかで……そうだ!
カザハラ:そのカフェ知ってる! うちからチャリで20分くらいのところだ
サイコカナメ:マジ!? 実は割と家近かったんだ!
流奈ルミナス:うちからもそこそこ近いですね
サイコカナメ:すげぇ! せっかくだから今度オフ会するか!
カザハラ:マジかw オフ会してみるかw
流奈ルミナス:少し悩みますね
カザハラ:男3人でカフェオフ会か、うけるなw
サイコカナメ:よし、突然だけど明日の18時! 夕飯がてら行こうぜ
流奈ルミナス:わかりました
サイコカナメ:サイコで予約しとくから現地集合で!
いきなり面白い話になった。オフ会などやったことないから楽しみだ。サイコカナメは大学生っぽいが、流奈ルミナスは年齢もわからない。自分も高校生とは言ってないから若すぎて驚かれてしまうかもしれないが。
次の日、宣言通りチャリで向かう。
カフェに到着したが店名とは裏腹に普通に最新のお洒落なカフェだったことに驚いた。こんなところに普通に来てしまうサイコカナメはきっと今風のイケイケな大学生なのだろう。
店へ入り店員が近付いてきたので「サイコで予約してると思います」と言うと席まで案内された。もし予約されておらず、サイコカナメの冗談だったらどうしようと思ったがさすがにそんな怪しいやつではなかったようだ。
誰もまだ来ていなかったので席に座って大人しく待つ。
混み合う時間ということで店にはどんどんお客さんがやってくる。入口を見続けそれっぽいやつを探すがなかなか来ない。と、金髪にヘッドフォンで今風の大学生といった感じの男が店に入ってきょろきょろしてる。間違いない、こいつがサイコカナメだ。
そのまま様子を見ていると店員と少し話しした後こちらの方へ来た。やはり、と思って手を振ろうとするとそのまま素通りしていった。どうやら違ったらしい。
「早いねー! お待たせ!」
素通りする金髪の兄ちゃんの背中を眺めていると自分に向けて話しかけてくる声が聞こえた。
振り返ると大学生くらいの綺麗な女性がそこにいた。
「初めまして! サイコカナメです! えぇと……カザハラ君……かな?」
「えー! あ、そうです! は、初めまして……」
マジか。女性だったのかよ。事前に言ってくれよ。
「私のこと男だと思ってたよね? 騙し成功!」
とても楽しそうに笑うのが印象的だ。性別が違う以外はゲーム内と同じテンションなんだと感じた。
「なんで何も言ってくれなかったんですか」
「聞かれなかったし! せっかくだからいつかこうやって驚いた顔を見てやろうかなと思いまして!」
大人っぽい印象とは別で中身は全然同世代って感じでかわいらしい。
「あ、あの……初めまして……」
話に夢中になっていてもう一人すぐ近くまで来ているのに気付かなかった。
「えー! もしかして流奈ルミナスさん!? 女の子!?」
サイコカナメは先ほどの自分と同じような驚きを見せた。なぜならそこには高校生の女の子がいたからだ。
しかし俺にとっては女性だったという驚きだけではなく、別な驚きもあった。なぜ高校生の女の子だとわかったのかというとそれが同じクラスの宮崎琴音だったからだ。
キリが良いところまでと思いながら書いてたら、いつもに比べると字数が少し多くなりましたが
逆にこれくらい方が良いのでしょうかね。
仕事が休みだったので無事に2日連続で更新できました!