第六話 風見原鷹弥(2)
なんとか家に帰ると倒れこむようにベッドの上に転がった。スキルによるダメージと自身のスキル連続使用による疲れなのか、急激な眠気が襲いそのまま意識は遠のいていった。
『あーあー、テステス……私は全知全能の神』
『あれ? またこの謎空間か!』
『どうだ? 元気でやってるか?』
『いやいや! 転生者いっぱいだし! こんなんじゃ全然人生思いのままとかになる気がしないんだけど』
『まあ気にするな。なぜかこうなってしまった。ところでお前に一つ良いことを教えてやろう』
『いきなりなんだ?』
『最後の記憶が25歳の5月というところまでは判明したみたいだな』
『それがどうかしたか?』
『お前が死んだのはその半年後だ』
『ということは半年間の記憶がなくなってるということか?』
『そういうことだ』
『だからなんなんだ?』
『いや、それだけだ』
『左様ですか』
はっと目が覚めた。疲労感はだいぶ回復した感じだが体中の打撲と筋肉痛のような痛みが襲う。
先ほどのは夢ではないと思うが、あの神様というやつは何が言いたかったのか。わざわざ登場してきたならもっと有益な情報を教えてほしいものだ。
机の上の時計を見ると7時15分の表示が見えた。違和感を感じる。帰ってきてすぐに寝たから夜の7時15分というのが通常考えられる時間だが外は明るい。
どうやら自分は半日以上一度も起きずに寝ていたらしい。信じられん。
親には体調不良で学校に休む連絡をしておいてほしいとと頼む。そのあたりは厳しくない親なので特に追及されることはなかった。
さて、時間はあるしまずは取得済スキルを増やさないといけない。いつどこで役に立つかわからないので、効果よりも取得しやすさ重視でどんどん覚えていこうとスキル書を開こうとしたとき、ふと机の横にあるパソコンが目に留まる。
そう言えば高校時代ネットゲームのオンライン対戦とかにハマっていたなと思い出した。電源ボタンを押しデスクトップが表示されると当時の懐かしの画面が出てきたことに感動を覚えた。
友達もおらず暇な毎日の中で、オンライン対戦でランキング上位を目指して複数のゲームを相当やり込んだが、どれも才能がなくそのうち飽きてやめてしまっていた。
――――――才能
頭の中で響き渡った。そうだ、たしかに当時は才能はなかった。しかし今は違う。今はスキルがある!
スキル書を開いて目次を確認する。何かゲームに使えるスキルはないのか……。
スキル名:至高の反射 Lv.4
効果:意識するよりも先に手足が動く
習得条件:タッチタイピング5分間で2000字達成(ミス0)
スキル名:集中の昇華 Lv.2
効果:肉体疲労による集中力の低下が減少する
習得条件:トランプ20枚を使い一人で神経衰弱(ミスは2回まで)
スキル名:精密なる分析 Lv.3
効果:短時間、状況把握と判断力が増加し最適解を導きやすい
習得条件:じゃんけんで10連勝する
スキル名:未来への系譜 Lv.1
効果:5秒先の未来が見える
習得条件:ストップウォッチを5秒ぴったりで止める
ピックアップした結果、このあたりを取得できれば本当にゲームで最強になれるかもしれない。マックスレベルの5まで取得できるのが一番良いが効果と習得条件を考えるとこのレベルがコスパ的に良いのではないだろうかというのが理由である。ちなみにじゃんけんはネット上で無料公開してるものを使うつもりだ。
一見どれも苦労しそうな取得条件ではあるが、そこも一応考えている。5秒先の未来が見えればじゃんけんとトランプは難なくクリアできるのではないかという期待があった。5秒ぴったりで止めるのは回数やればそのうちできるだろう。
しかし、一番の難題はタッチタイピング。普通にやればまず無理だ。レベル4のスキルともなるとまともにクリアさせてくれる気がないようだ。そこでまずはレベル1を取得する。
スキル名:至高の反射 Lv.1
効果:反射神経が少し良くなる
習得条件:自分で投げた紙飛行機をキャッチする
この条件なら取得は容易い。あとは元々タッチタイピングは得意なので、至高の反射レベル1、集中の昇華、精密なる分析の重ね掛けで自分をブーストし取得を試みる。達成までにどれぐらい時間がかかるだろうか……。
あっさりと一発で成功。レベル1の反射神経アップでも普段と比べて全然違ったし、頭も冴えわたり作業中はミスする気がしなかった。改めてスキルの凄さに感動した。これでオンライン対戦を極める。気が付けばもう夕方だったが半日でこれだけスキルを取得できればたいしたもんだろう。
やり込んでいたゲームはいくつかあるが、まずはこれだ。
バスケットボールのハーフコートによる3人対3人のオンライン対戦ゲーム『3on3 フリーダムバスケ』だ。味方も敵も全員オンラインで繋がったプレイヤーで自動マッチングした相手と対戦するゲームである。
ゲーム内フレンドで固定チームを作ることもできるし、敵も味方も見知らぬ人同士のソロとしても遊ぶことができる。いずれにせよ個々のスキルも重要だが、協力したチームプレイがそれ以上に重要になってくる。
ゲームランキングの上位にはいかないが根強いファンが多く人気もまあまああり、リリースして3,4年経つがいまだにきちんと新規ユーザーが安定しているくらいの人気がある。
俺のこのスキルがあれば前はまったく敵わなかったランキング上位勢にも戦える。ただ、チームプレイが重要なゲームなので自分一人が奮闘しても勝利に結びつくかはなんとも言えないところではあるがそこは実際にやってみないとわからない。
ゲームにログインすると久しぶりに見る懐かしのメニュー画面が表示された。自分は一度も載ったことがない全体ランキングを見てみる。
1位 流奈ルミナス
2位 HaiFai
3位 超野菜人
4位 サイコカナメ
5位 闇夜の暗闇
何度か対戦することがあったが、この5人はとりあえずレベルが違い過ぎた。
このゲームはバスケットボールということでそれぞれ好きなポジションのキャラクターを操作しプレイする。もちろんポジションによってゲーム中の役割がある。
1試合5分の中で最終的に得点の多い方が勝ちで本物のバスケットボールとの違いはファール系のルールがほとんどないこと、ユニフォームはなく各キャラクターは多彩なスキンで装飾でき個性が出せること、スキルなどがあり本物の人間ができないような動きや必殺技が出せるというあたりだろう。シュートをブロックするときは相手を地面に叩きつけたり、接触プレイで吹っ飛ばしたりと到底リアルではできない描写がある。
高校卒業と同時に完全に引退したので、精神的には7,8年ぶりである。取得したスキルがどれだけ通用するのかを試したいので敵も味方も自動マッチングするソロプレイ用のランク戦を一度やることにした。
マッチングが始まり味方と相手が決まる。キーボードで操作しているわけだが試合開始し、いざやってみると指の感覚は覚えているもので割と普通にできる。が、相手の方が強く点差が離されてしまう。
よし、頃合いだろう。先ほどと同じくスキルの重ね掛けを試す。
その瞬間相手の動きや意図、味方の行動パターンなど到底わかるはずのない情報が自然と頭の中に入ってきた。それと同時にキーボードを操作している手が意思とは関係なく動き出す。
これはすごい。上手い人のプレイを観戦しているような感覚である。相手のシュートを的確に防ぎチャンスを作っては得点を重ねる。離れていた得点はみるみる縮まり余裕の勝利だった。
ランク戦に勝利するとポイントが貰え規定に達するとランクが上がっていくシステムである。負けると当然そのポイントは下がりランクも下がってしまう。
ゴッド、レジェンド、スター、マスター、ダイヤ、ゴールド、シルバーという順でランクがあり、どんなに頑張っても過去ではぎりぎりレジェンドに一度行っただけであった。
流奈ルミナス:俺に敵うやついないの?みんな弱すぎ
闇夜の暗闇:ルミナスは異常
流奈ルミナス:別に。才能もあるけど見合う努力はしてるよ
ゲーム内の全体チャット機能でランキング1位と5位が会話している。今に見てろよ。これから俺がランキングトップに君臨し今までの悔しさを味合わせてやるぜ。
仕事休みのため明日も更新できると思います。
もし評価・感想等頂ければやる気はさらに上がり、更新頻度も上がるかも……!?
よろしくお願いします!