元祖日本ホラー、耳無し芳一は怖くない!
こんにちは~。どうも~。
思いついたことを書く。これぞ随筆。これがエッセイ。これでいいのだ。
今日の語りはこれ。
ジャン!
「ホラー」
ホラーと言えば夏。
だけど夏と言えばホラーではないのが哀しいところ。
カキ氷、ひまわり、海、プール、花火、風鈴、金魚、そうめんとか、ホラーよりも上に来るのはたくさんあるのが現状。
ホラー作家(自称47歳)としては、ホラーが上に来て欲しいとは思うものの、当人自体が怖いものが好きではないというのがミソ。
ホラーの歴史は古く、アルタミラ洞窟の壁画に、好きな彼女を部屋に呼び込んで友人に5ドル支払ってホッケーマスクを被って窓から覗いてもらい驚いた彼女が抱き付いて来るという画が残されてます。か? その嘘ホントですか?
ここが、本日のお笑いハイライト。笑っておかないと徐々に話は下降気味になるので注意が必要。
日本にもたくさんの怪談がございます。
番町皿屋敷とか牡丹灯籠とか、あれは当時の落語家さんが考えたのよ? 三遊亭圓朝師匠ね。もう噺のプロが考えた作品だから今でも名作となってるよね。
四谷怪談とか、怖くてしょうがない。
奥さんに毒を飲ませて殺すってんだから穏やかじゃ無い。
奥さんの方でも散々脅かした挙げ句にとり殺すってんだから悪いことはできないよ、ホント。
でもね、ここなろうのホラーは怖くないという言葉がちまたに溢れかえっております。
ちゃんとホラーの概念を知ってくれとかね。
せめて、注意書きの「ホラーとは、人を怖がらせることを目的とした作品」を書くべきとか!
マジどんだけ。カテゴリーエラーがほとんど!
ひどい! そんなに言わなくても!
でもそんな中途半端なホラー書きに朗報よ。
名作、名作と言われるホラーだって、よく読めばそんなに怖いこたぁない。
だから安心。
ワシだって安心よ。
ああ、アレに比べりゃ怖いよねという基準ができるもんね。
めでたし、めでたし。
だいたいそんなのに、「耳無し芳一」があるよね。
昔はこれが怖くて怖くてしょうがなかった。
だけど、それって、怪談だからって、ネームバリューに負けて怖かっただけよ。今考えてみりゃ、なーんてこたぁない。
芳一は盲人の琵琶法師。
平氏の怨霊に魅入られて、安徳天皇や二位尼の墓の前で琵琶をかき鳴らして壇ノ浦を語るというね。
やば。結構怖いじゃん。
目が見えないって主人公を想像するとなお怖ぇ。
そんで、和尚さんに全身に般若心経を書いてもらい怪異を避けようとするものの、耳に書き忘れたために、耳だけ引きちぎられてしまう。
あぎゃー!
怖いじゃん。誰だ、怖くないなんて言ったの?
ワシだ! 文句あるの?
そんであそこが泣けるのよ。
芳一が語る壇ノ浦の戦い!
そこの一席を語りたいと存じます。
エヘン。
「これ芳一──。お上が平家物語をご所望である。そなたは声も琵琶も上手いと聞いておる。ぜひお上に聞かせてもらいたい」
お上と言われて驚いてしまった。これはこれはただ事ではない。なんとも高貴な方である。
無礼があっては無礼打ちになるかもしれない。芳一は平伏しながら震えていた。
「これ芳一よ。無礼など先刻承知である。目を瞑る故、そうそうに弾いてお上にお聞かせ奉れ」
「お、おそれながら──」
「なんじゃ」
「平家物語と雖も全部語っては長うございます。明後日の夜の白々明けまで終わりませぬ。どこかお好きな場面があれば、そこを語りたく思います」
「さようか。では壇ノ浦を語られ」
「結構でございます」
芳一の背筋がピンと伸びる。先ほどの緊張はどこへやら。芳一の指が琵琶を弾く。ビィンと高い音にザワついていた広間がしぃんと静まりかえります。
哀しい弾き語り──。
栄えるものは必ず滅ぶ。
最後の決戦と壇ノ浦で平家は源氏を迎えるものの負けは必至。
新中納言知盛、舟漕ぎお上の舟に近づき声を張り上げる。
「二位尼どの。既に戦は決しました。お覚悟召されい!」
それを見た二位尼。
「中納言どの。共に極楽浄土に参りましょうぞ」
二位尼平時子が小舟に乗る息子である中納言平知盛に僅かに笑いかけると、知盛もそれに笑い返し、碇を体に巻き付ける。
それを見届けた二位尼は僅か八歳の安徳天皇を抱き抱えた。
「お祖母様、なぜ私を抱き抱えるのです」
二位尼はきゅっと一文字に口を結んだかと思うとにこやかに孫である幼帝に語る。
「波の下にも都がございます。なにも寂しいことはございませぬ。愚僧がお供をつかまつります」
幼帝、若年ながらもその真意を掴み、胸の前で小さな手を合わせると、尼は幼帝を抱きながら、ざんぶと波の下に入水し海の中に消えてゆく。ざんぶざんぶと音を立ててその後に続くもの多数の哀しき殉死。
この頃になると広間は哀しみの嗚咽に包まれている。これほどの語り手は都にもおりはせん。なんとも見事な語り手だという反応に芳一も安堵のため息をもらした。
すると上座の方から涙をこらえた声がする。
「ほんによきお語り物であった。お上も大層喜んでおる。これより七日七晩語って聞かせてたも」
「はは。喜んで」
ひゃー! 壮絶かな壇ノ浦!
哀しいねー。泣ける。
八歳ってなってるけど、実際は数えで正月に一カウントだから、安徳天皇は実は僅か六歳。今で言えば小学一年生。
それが敵に囲まれて入水しなければ辱めを受けるてんで、二位尼の心中もいかばかりか!
もうね、最高。
耳無し芳一は最高に練られたホラー作品でございます。
いや、でも感動してるのは平家物語のほうか? そうなのか? うーん分からん。
このね、怨霊の館はおどろおどろしさはありつつも、怖いかと言われれば哀しさの方が勝るのよね。幼帝安徳天皇の気の毒さというかね。
一番怖いのは使者だわね。「芳一。芳一ィ」いうて、迎えに来る人。これが怖い。
「ふむ。琵琶と耳はあれど芳一の姿はない。されば耳を持って帰ればお上に申し訳がたつ」
って、どういう了見よ?
こーわい。芳一の耳をちぎるシーンは想像すると怖いね。あーこわ。やっぱこわ。
でもさ、今思えば、「むじな」という話も怖くないよね。
昔は怖かったけど、ネームバリューに負けた!
こんなのただのコメディじゃん?
少し語らせて貰おうか。
ある男が道を行くと女がうずくまって泣いている。あやしがりてよりてみるに、女はさめざめと泣いたままだ。
「もうし、お嬢さん泣かれているばかりでは分かりません。どうか訳を聞かせてくだせぇ」
というと女は男に振り返ると、目も鼻も口もないつるんとした顔。
男は驚いて、怪異から逃げるとようやく蕎麦屋を見つけたので駆け込む。
「はぁはぁはぁ」
「どうしたんで? お客さん」
「今、今、今、今」
「へぇ?」
「おんな、おんな、おんな、おんな」
「はぁ、女がどうしたんで?」
ようやく落ち着いて、店主に今起こった怪異を聞かせると、店主はツルンとその顔を撫でる。
「そりゃぁこんな顔でやしたかい?」
そこには目も鼻も口もないつるんとした顔。男は気を失った。
──怖ぇじゃねぇか。




