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予期せぬ住人 1ページ目

強烈な日差しと木々の青葉、幹にしがみ付く蝉の鳴き声が嫌でも夏を感じさせる。更にはアスファルトのむせ返る様な熱気、この坂道を徒歩で登るなんて冗談にも程がある。


本来ならクーラの聞いた室内でゆっくりとゲームや読書、動画鑑賞で時間を潰してる筈なんだが、両親からの突発的帰省命令、それによって今ここに居る。


「そう言えば、子供の頃はよくこの坂道を通って爺ちゃんの所に言ってたな」


思い出に浸り来た道を振り返れば、昔とは違いコンクリートで出来た建物が並ぶ。


「昔は緑でいっぱいだったんだけどな」


少し寂しさを胸に抱きつつ、踵を返し再び坂道を登り出した。


この山は、と言ってもそんなに大きなものでは無いが、爺ちゃんが所有していた。去年の夏に大往生して親父に権利が移譲されたらしく、中腹あたりに爺ちゃんが管理していた一件の古い無人のアパートがあるらしい。そして、今は管理人不在となっている訳なんだが、その事が突発的帰省命令につながる。


「もしもし、親父か? どうしたんだよ、帰省するのはもう少し先なんだが」


「おう、そうなんだがな……まあ、何だ、お前今仕事は順調か?」


その言葉は正直辛い、大学を卒業したのは良いものの、就活に躓いた俺はバイトや派遣などで生活している。しかも、タイミング悪く今は何もしていない。


「いや、そのね……今あれじゃん……ね」


思わず言い澱んでしまう、社会的な事もあると思うんだよ、俺も頑張ってたんだって言いたいけど。


「マジで! 今何もしてないのお前!」


ん? これって怒られる流れじゃないの? むしろ、喜ばれてる様な気がすんだけど……


「ゴホンっ! そうか、じゃあ直ぐこっちに帰って来い、お前に頼みたい事があるからよ」


「頼み事? 今じゃ駄目なのか親父?」そう問い掛けると「異論反論は受け付けておりません」と、鼻を摘んで声を変えながら言われた。茶目っ気満載で突っ込む気力も失せるが、何となくいつもと違って余裕がなさそうだとも思い、渋々だが従う事にした。


実家に帰ってようやく聞かされた頼み事の内容は、アパートの様子を見て来てくれと言うものだった。


何で俺なのか? って言うのが脳裏を過ぎったが至極簡単であり、仕送りなどの報酬を提示され快く了承してしまう。さすがに徒歩で行く事には抗議したんだが、「お前と違って忙しいんだよ」の一言により会えなく撃沈。


で、その結果が今なんだけど。炎天下の中暫く歩き、灰色のシャツは汗で色が変わり、ジーパンも同様でむしろ動きを制限し始める始末。さっきよりマシになったと言えば、木々が増え始め日差しを遮り、道が舗装されてなく照り返しも少ないって所か。


ミネラルウォーターを飲みながら歩き、暫くすると遠目に石造りの門、木造の家屋が目に入ってきた。うろ覚えだが、子供の頃に何度か遊びに行った気がする。その懐かしさに疲れた筈の身体に不思議と力が戻り、大人気なくはしゃぎつつ駆け寄った。


門から玄関に掛けて等間隔で敷かれた石畳、これを跳び渡って遊んだ記憶が次第に蘇る。思わず同じ様に渡ってみたが、あの頃と違いあっという間に玄関まで辿り着いてしまう。


「さてと、様子を見る前に一休みさせて貰うか」と、借りてきた鍵で玄関を開けようとするが、逆に閉めてしまった様だ。ん? 確か無人と聞いていたんだけどな。


もう一度鍵を開け玄関に入り、「あの〜誰かいますか〜」と、一応聞いてみる。すると、どこからともなくトタトタと足音が近づいて来たかと思うと……


「おお! 入居希望者なのか! 私はやもりと言う、よろしくな!」


着物に襷を掛け、両手に箒と塵取りを持った、幼げな少女から元気よく発せられた挨拶だったが、俺は静かに鞄からスマホを取り出した。

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