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伝説の冒険の旅  作者: ご主人さま
第一章 冒険の始まり
9/68

水の町ロドイ①



幾つかの山を越え、中腹の開けた丘の上からそれは見渡せた。


「あれが、ロドイ………!」


「おっきぃー! ロドイってあんな大きい町なんだ! あ、アルア、あっちにあるのは湖かな!??」

「そうですね。うわー、キレイなところですね!」


隣で見下ろす、俺と同じく初めてロドイを訪れた姉妹も俺と同様の感想のようだ。



上から見る白い壁に囲まれた町ロドイからは1本太い道が繋がっており、それは大陸内部を行く新街道だ。

旧街道も同じくロドイに通じているのだが、それは多分もう新しい道を通す時にかなり潰してしまっているのだろう。


そして、ロドイの向こうには、かなり離れていてもその広さの分かる湖も見えた。

ここからもう少し行けばさらに比べ物にならないくらい大きな海がある。

やっぱり世界は広いな!


ここに来るまでに途中崖崩れで旧街道が通れなくなっている部分があり、俺たちは脇道の険しい山道を通らざるを得なくなった。

余計な時間を食ったのは確かだが、かなり標高の高い所にも人の住む村があったり、こんな雄大な景色もみられるし、驚かされる事ばかりで面白かった。


ロドイはここから眺めれば本当に、栄えた綺麗な町に見える。

しかし一方で、リオナの一家が去ったり、山賊の頭が逃げ込むような物騒な街でもあるらしい。


そしてしばらく景色を眺めた後、俺たちは丘を下って行った。




さらに一日後の昼過ぎ、馬車はロドイへと着いた。


町を出入りする人は思ったほど多くないが、裕福そうな人が多く、巨大な荷を運ぶボルンム(牛の様な輓獣)数頭轢きの荷車が通ったりしていて、巨大な交易拠点になっているのが窺えた。


町は高い外壁に囲まれ、馬車はその外の厩舎に停めるよう門の前に立つ衛士に言われた。

門のほど近くにあった綺麗な厩舎に向かい、主人に預かるように言うと、


「旅のお方。初めてのお越しのようですね。まずはあちらにお停めください。市民章を得たのちはこちらにお停めいただきます」

と言って、主人はさらに町の入り口から離れた方にあるみすぼらしい小屋を指した。


どういう事かと思ったが取り合えずそちらに行く。


………ん? 


横手に回って分かったが、ロドイの城壁の外にも林沿いに何やら建物が並んでいる。

遠くから見た時は林に隠れて見えなかったらしい。


どれも俺たちが案内された馬小屋と同じく、急ごしらえの様なほったて小屋だが、人が暮らしているようだ。


どうしてこんなところに住んでるんだろう?? 

気にはなるがまずはロドイに入るべく馬小屋に行く。使用人が馬の世話をしていて姉妹の馬の世話も頼むが、なんだか怯えているような受け答えをされた。

俺たちに怯えていると言うよりは、何か憔悴し切っているような感じだった。


だが一先ず馬を預け、俺たちはロドイに入った。


しかしそこでもまた別の衛兵に止められた。


「お前たちは渡航者か、商人か?」

衛兵は偉そうな口調で言う。


「私たちは町に用事があって来ました」

アルアが答える。


「市民章を持っているのか?」


「市民章…? それは何でしょう?」


「町に入るには市民章がいる。外部の者への市民章の交付申請はあちらでおこなっている。まあ……お前たちでは、無駄だろうがな。ふふん!」


衛兵はアルアの質問にも答えず俺たちの身なりを眺め、含み笑いをして言った。


「いけすかん奴だ」

言われた場所に向かいながらケットが怒りを隠さず言うと、リディが笑ってなだめる。


「まあ抑えて、ケット。ここじゃあノンビの様にはいかないわよ。兵士に逆らえば牢屋行きよ」


「ふん! 牢屋が怖くて戦士が務まるかっ!」


「それにしても市民章というのは何なのでしょうね……」


俺たちは衛兵が教えたカウンターで、受付の男に聞く。男は横柄に、言い慣れた口調ですらすらと言った。


「市民章はここロドイに於ける生活の保障となるものだ。市民章の発行には以下の物が必要になる。1、一人につき2万エルドの納付。2、グイージ高等学術基準以上の資格もしくは相応の社会的地位を有している事。3、ロドイ内の市民居住区に住居を有している又は有する見込みがある事」


「に!」

「に!?」

「に、2万エルドですってえ~~!!?」


男の説明に俺たちが一堂に驚くと、ティイが代表して叫んだ。


2万エルドあればうちの村なら納屋付き2階建ての家が数件建てられるな。

ちなみに俺の現在の所持金は73エルドと小銭が少しである。

他の条件もよく分からないが相当厳しいのだろう。住居を有すると言うがそれも幾らするのか。


男は更に続ける。


「渡航者や一時的な滞在には臨時市民章の交付もしている、臨時市民章の発行には、保証金として7千エルドを預かる。のち保証金は、ロドイから退去時に臨時市民章返却と交換に、滞在税として2千エルドを差し引いて返還される。なお最大滞在期間は5日までとする」

受付の男は事務的に言う。


それでも俺たちには全く手の出ない金額だ。


「バカらしい! そんなの誰が従うものか!」

ケットが怒る。


「それなら結構。ロドイ市内から速やかに退去するように」


「こちらから願い下げだ!!」

ケットは怒りに任せその場から去ろうとした。


「ちょ、ちょっとケット…! 私たちはそうはいかないの!」

「そうです…! ひ、人探しをしているのです! 何とか少しだけでも入れていただけませんか!?」

ティイとアルアは男に食い下がる。


「そうはいかんな。ボラッゾ様が作られた制度は厳守せねばならんのでな」


「そんなあ~~!!」


俺たちが食い下がり騒がしくしてるのを気にして、衛兵が俺たちに近付いて来る。それを察してリディが耳打ちする。


「ティイちゃん、今は引きましょう。兵士に目を付けられるわ」


「わ、わかったわ……」


そして俺たちはすぐさま元来た門を潜り、ロドイの壁内から出た。


「ど、どうしろって言うのよ~~!! 町の中にすら入れないなんてっ!!」


門を出るとティイが我慢出来ずに叫ぶ。


「じゃあ、まずは情報収集をするっていうのはどうかしら?」

リディが俺たちを安心させるためか、明るい感じで言う。


「情報収集? どこで?」


「どこって、あっちにも人が居たじゃない」


ああ、そう言えば町の外にも人が住んでいる様子だったな。


「はい。話を聞いてみましょう」

アルアは理性的に同意する。


そして俺たちは町の外から外壁に向かった。



――――――――――



ロドイの町に寄り添うように並ぶ建物の列。


人々に生気は無く、ノンビとは別の意味で退廃的な諦観が漂よっている。


「この方たちはどこから…」


不思議に思いつつ、並んだ小屋に近付く。


小屋は外壁に沿い、長屋の様に軒を連ねている。

思った以上に多くの人が住んでいるようだ。


内部に入ってみると、何やら結構色々な店がある事が分かる。

食事処、宿屋、仕立て屋、髪切り処まである。

まるで、まるで一つの町のようだ。


「この人たちって……!」

ティイも気付いたようだ。


「この人たちはロドイの住人じゃないのか?」

俺も呟く。


「そうね」

リディは頷き、続ける。

「前領主のイスワット・マイバー氏が突如失踪して、その兄弟であったボラッゾが領主を引き継ぎ、混乱に乗じて市民章制度を制定し、市民章を手に入れることが出来ず元々住んでいたのに追い出されてしまった人々が、この人たちでしょうね」

彼女は平静な口調でそう言い切った。


「リディ! 知ってたの!?」

「うーん、噂で聞いてただけよ」

彼女はそう言うが、なんだか誤魔化している気がする。いきなり長々と説明するし。


「とにかく、レブワーさんを知らないか聞いて回ってみます」

アルアはそう言って先を急ぐと、


「おいアルア、一人で行くな」

ケットが注意し、アルアについて行く。彼女なりに心配してるみたいだな。


それから数十分、分かれて聞き込みをする。

町人は無気力であるものの非協力的では無かったが、価値のある答えはほぼ得られなかった。

ゴイルナについても同様で、どうやら外壁の町には全く立ち入っていないようだ。


「やっぱり、ロドイの中に居るのでしょうか……」

「そうかもね」

合流したアルアの言葉に、俺は頷く。


その時、


バキャッ!


近所の木箱が突然音を立てて壊れる! 何事かと俺もびっくりした。


「ひいっ!」

周辺の誰かが悲鳴を上げる。


それからその集落の所々で何か壊れる音が連続でする。

い、一体………!?


「も、もうやめてくれ!!」

「もうこんな生活いや!!」


生気を失っていた住人たちが糸が切れた様に叫ぶ。な、なんだ、これは??


「上だ」


ケットが冷静に言うので俺は上を見た。


すると、確かに何かが空から降って来ている、いや、投げ落とされていた!


「「みなさま~~!! 今日の配給ですわよ~~!!」」


見上げるほど高い城壁の上からの、反響した声が辺りに響く。

女性の声で、他の数人も同じく女の子の様だ。


彼女たちは騒ぎながらそこから物を投げていた。


それは、野菜や果物、卵などだった。


人々はそれを拾うことも無く逃げまどっている。


あの高さから地面に落ちれば粉々になるので食べることなど出来ない。

むしろ家屋に当たれば被害が出るし、重い物が人に当たれば大怪我もしかねないので、地面に落ちる前に掴もうとする小さい子供が、慌てて親に建物の陰に匿われていた。

そもそも、こんなのが人が人に物を与えようって言うやり方とは思えない……!


「「きゃははっ、きゃははははっ!!」」

複数人の甲高い笑い声が聞こえる。


「「おーほほほっ!! 喜んで頂けていますか、貧民の皆様~!!」」


一人が優越感に浸った様に叫んでいる。


ロドイの市民県とやらを持っている住人の子供たちが、全く悪びれる様子なく、むしろ楽し気にこんなひどい事をしているようだ……!!!


「特別に私の涎も差し上げますわ~! んべ~~」

「きゃははっ! さすがラローナ様ですわ~! 素敵ですわ~! 憧れますわ~~!! きゃはははっ!!」


バカ共がバカを賞賛している。


「おい、アルア、鉄杭を貸せ」

「え??」

ケットがアルアに言う。

「目玉の一つも潰せばおとなしくなるだろう……!!」

本気らしい目つきでケットは言った。今の彼女ならこの距離でも命中させそうだ。


「だ、ダメです!」

アルアは止める。


そうこうする内に、やがて食べ物を投げ落とされるのが止んだ。

「「終わりですわ~! また後日の配給を楽しみにお待ちになってくださいましね~!! お~ほっほっほ~~!!」」

そして最後に容器にしていたらしい箱が投げ落とされ、彼女らは去って行った。

落とされた箱が地面に落ちて激しく割れ散る。


もしかして何度もこんなことをやっているのか?


「……な、な、なにやっとんの!! あのガキども!!!」

その辺に落ちていた木箱をかぶって頭を守っていたティイが怒る。


「ふう。あの子たちは町の有力者の子供たちでしょうね。特にリーダーらしいあの子は、多分ボラッゾの娘、ラローナ・マイバーみたいね」

一息ついて、リディがまた説明する。


ボロッゾって今の領主なんだろ? 領主の娘が、こんなことを!?


周りを見ると、集落に住む人々はゆっくり建物の陰から出て、被害の清掃を始めていた。

それをする気力も出ないのか、打ちひしがれている人もいる。

泣いている人もいた。


家や土地を奪われた上に、まだ子供に、こんな仕打ちまで受けているんだもんな。

俺はこの集落の人々の心中を察した。


どうにかならないのか………。


「リックスくん」

考えていた俺に、不意にリディが声を掛けてくる。


「え?」


「人助け、してみる?」

彼女は何か意思の込めた目で俺を見て、言う。


人助け?

人助け……か。確かにこのまま放っておいていいと思えない。

俺に出来ることがあるのだろうか。


「王都に知らせるのはどうでしょう。さすがにこの様な傍若無人な振る舞いをこの国の国主も許すわけがないのではありませんか?」

俺たちのやり取りを聞いていたのか、アルアが提案する。

それにリディは意見を言う。


「これだけの町で独裁を行ってこれまでに動きはないみたいだし、もしかしたらどこかで上訴が封殺されているのかも知れないわ」


「そんな……!」


「とりあえず今日は宿に泊まりましょう。ここにも宿屋を営んでくれているみたいだしね」


リディが挫ける様子も見せず言う。こんな事に慣れてるのかな。

俺たちはとにかく宿に入ることにした。


宿屋は周り同様おんぼろの廃材で建てられたようなものだが、土地が大きく取られて内部も広そうだ。

もしかしたら俺たちと同じようにロドイに入れない人々を何とかもてなそうと言うここの住人たちの意地の表れかも知れない。


「お泊りですね。部屋は分かれていませんがそれでよければお泊りください」

宿の主人は、覇気なく言う。宿泊の値段はとても安かった。


奥に行くと、地面に直接置かれたカーペットの上に、幾つかござが敷かれていた。

これが寝床か……まあ野宿よりいいか。


宿には既に男女の2人の先客が居た。

壮年の男と、俺と変わらないくらいの年齢の女の子の2人連れだ。

この人たちも知らずにロドイに来たのかな。


「まあ!」


部屋に入り、リディが2人を見て声を漏らす。

するとその2人もリディに気付く。


「あ! あなたはノンビに居た。あなたも来たのね!?」


2人のうちの女の子が良く通る明るい声で言う。

誰だろう??




食事一回が1エルド、10エルドでいい宿に泊まれるくらいの設定

物騒な土地は物価が上がる

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