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伝説の冒険の旅  作者: ご主人さま
第二章 新たな大地へ
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後夜祭 その④



モモムイは服の袖を伸ばした様な布切れをなびかせて、俺とメリアンノの間に立っている。


いつもはあそこまで袖は長くない筈だったと思うけど、まるでその部分の布を使ったかの様に彼女の上半身の露出が増えていた。


メリアンノは表情に何の変化も見せずに、目標をモモムイに切り替えた。

俺が端から見ていても捉えられないほどの速さで、モモムイに刃を振るう。


フッ……


だが、モモムイはその恐ろしい攻撃を、見切っているのかどうかも分からない様な、優雅な動きで躱す。

躱すというより、メリアンノがわざと当ててない様にさえ見えるほど、モモムイの動きには作為が感じられなかった。


布の動きで攪乱したりしてるんだろうけど、高等手法過ぎて俺には理解し切れない。


「アハハ……」


そして、更に驚く事に、モモムイはその激しい戦闘の中で、演舞の時と同じような不思議な笑みを浮かべていた。それを見て俺は助けて貰っておきながら、少し背筋に寒いものを感じた。


でもそんな人の感情と言ったものにはメリアンノは意識を向けず、ただモモムイへと斬り掛かり続ける。


「ぐっ……」


誰かの呻き声で俺は周りに意識を戻す。

そうだ、バンズールさん……!


俺が気付くより少し早く、ナムネとルティカが彼の元に近付いていた。


「す、すぐに回復させますだ!」


ナムネが彼に言い、傍に座り込む。


「す、すみませんね……。やはり歳は取りたくないものです。もう少し動けると思っていたのですが……」

床に倒れ込んでいるバンズールさんは軽く笑いながら言う。


俺は申し訳ない気持ちで、彼の傍に座った。


「バ、バンズールさん……! すみません、俺を庇ったせいでこんな事になって……!」


「いえ、あなたの責任ではありませんよ。あの子の事は、全て私が負うべき責務です」


余裕がある状態ではないと言うのに、彼は微笑んで言ってくれた。


傷口に回復魔法を掛け始めるナムネに、バンズールさんが言う。

「出血を止めて頂ければ結構です。その後は、私があの子の相手をしている間に、みなさんは店を出てください」


「!! そ、そんな訳にもいきませんよ。みんなで逃げましょう!?」

俺は今出来る最善はそれだと思って、彼に提案した。

多分、バンズールさんは俺なんかより強いはずだ。俺にはメリアンノの初撃でさえ受けきれるかどうか分からない。それでもこの傷じゃあもうバンズールさんも彼女には敵わないだろう。俺のせいで……。


だがバンズールさんは俺に、優しいが、でも目の奥に感情を秘めた様に返す。

「それは出来ません。今のメリアンノを外に出せば、多くの方に迷惑をお掛けすることになります。あの子はもうここで止めるしかないのです」


バンズールさんは、脂汗を流している様な状態ながらも、使命感を衰えさせずに言う。


「で、でも、俺たちじゃあ、今のメリアンノには勝てそうにありません! あなたもその体じゃあ……」


俺がそう彼を説得しようとした時、バンズールさんは思い詰めた顔で言った。


「……。この店には、すべての壁の内部に大量の魔法爆薬が埋め込まれています。私の命が尽きる時、その爆薬が起爆する仕掛けになっています……!」


「!!」

「!!?」


バンズールさんの告白に、俺のみならず、ルティカやナムネも驚いた。

彼は続けた。


「さすがのメリアンノも、その爆発には耐えられないでしょう……。多少は外にも影響は出ますが、ほぼ店の内部だけに余波が出るよう外壁は頑丈になっています。ですから、どうかみなさんは、もう私共の事はお忘れになって、どうぞこの店からお逃げください……!」


彼の覚悟とも言える告白に、隣で見守っていたルティカの顔も、嘆きや憤りが混ざった様な複雑な表情になる。

俺もそんな無理心中とも取れるような悲しい結末を選ばなきゃいけないなんて、許せない気持ちでいっぱいだ……!


俺は改めてメリアンノとモモムイを見た。


モモムイは決して戦っているわけではない。

時々布を相手に絡ませて動きを止めたりはしながら避けているが、本当にただ遊んでいるだけの様に舞っている。

正直関係の無い彼女が、時間稼ぎをしてくれるだけでも有難いんだけど、彼女の真意は見えなかった。


彼女と協力すれば俺にも今のメリアンノに立ち向かえるだろうか……。頭でシミュレーションしてみるが、あんまり明るい予感は見えない。


「……」


と、少し見ていると、メリアンノがモモムイと多少距離を空けて、動きを止める。


そしてその場に直立したかと思うと、自身の足元へと目を向ける。そこにはまだ重しが付いたままだった。


メリアンノはその重しと自身の足を繋いでいる鎖の環の一つへと刃先を落とす。そして無造作に刃と連結した腕を捻ると、バキッと弾ける音を立てて、鎖の結び目の一つが壊れてしまった。

「!!」

俺たちは声も出さずに驚く。


メリアンノはさらにもう一つの足に付けられた鎖も、同様の手順で力任せに千切ってしまった。


俺が同じような事を出来るとは思えない……。相当の力が無いと無理だし、刃の方が先に折れるはずだ。

初めから、彼女にとってあんなものは枷でもなんでもなかったのだ。

そして、重りからの解放は、メリアンノの動きがさっきまでより、更に早いものになる事を意味していた。


「! …………!!」


みんながその事実に気付いていて驚愕しているが、対面している当のモモムイだけが、何にも分からない様に曖昧な笑みを浮かべていた。





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