旅立ちの日は15歳
コロトン村。丘伏にあるいなか村だ。
殆ど使われなくなった旧街道が面しており、交流が盛んだった過去の面影か、建物は使い古されてはいるが多少小洒落ている。
今は穀物栽培や畜産などが主な産業だ。
人々の気質はのんびりしており争いは少ない。
属する国も数十年大きな戦乱は起こしていないらしい。
そんな村で俺、リックス・エドワックは生まれた。
冗談と思うかもしれないが俺には前世の記憶がある。地球と言う場所で育ち15歳で死んだ記憶が。
ここで赤ん坊として生まれてからずっとあって、話せるようになってから家族とかに話してみたがもちろん笑われて終わりだ。俺自身も大して気にはしなかった。
それから村の一員として育ち、俺の前世の記憶は役に立ったり立たなかったりで、殆ど普通のガキと変わらない。
気持ちだけが15年多く生きているみたいなものだった。
でもまあ、この村の生活は嫌いじゃない。
記憶の中の世界は何だか息苦しい場所だった印象だが、それに比べても今は過ごしやすい気がする。自分本来の気持ちで生きてる気分だ。
芝生が覆う小さな丘から収穫期が近付いた農園を眺め、気持ちのいい風に吹かながら俺はそう思っていた。
しかし、そんな日々が急に変わった。
「リックス! ついに旅立ちの時が来たのよ!!」
俺が15歳の誕生日を迎えた次の日、遅い昼飯を食べていた俺に、母親のマオラがそう言った。
「へ…?」
俺は意味が分からなかったので情動少なく母に聞き返す。
母はやや興奮気味に続ける。
「秘密にしていたけれど、エドワック家の者は15歳になったら家を出て旅に出なくてはいけないのよ!」
「他の家の子もそうなの……?」
俺はまだ驚きから回復しないまま聞き返す。
「いいえ、うちだけよ! エドワック家の者には使命があるのよ」
「使命? それってなに?」
「それはお母さんには分からないわ! お母さんはお嫁に来たから!」
「…………」
めちゃくちゃだ。だがこの母親は嘘は吐かない。やるといったらやる。
俺はそんな母の性格が好きだし、助けられもした。
俺も母の言葉を信じるしかない。
「わかったよ。じゃあ行くよ」
「ええ! いってらっしゃい。気を付けてね!!」
そう言って母は荷物はすでに必要な物をまとめていた荷物を出してきた。
そう言えば、俺の姉も3年ほど前の15歳の時に突如家からいなくなったな。こういう事だったのか。
俺は母の用意してくれた荷物に自分の私物を少し加えて、早速家を出た。
生まれ育った生家、見慣れた村の景色もこれで見納めかと名残惜しく感じる。
みんなに挨拶したいが、一日じゃ済まないだろう。潔く村を出よう。
と、この村で同じく育った一つ上のロニーと会う。
「? なんだよリックス! お前どこか行くのか1?」
俺の荷物を見てロニーは不思議がる。
「ああ。旅に出ることになったんだ。今から」
声を掛けられて嘘を言うのも嫌なので俺は正直に答えた。
「村を出るのか!? 本当かよ! へー……」
「おかしいだろ」
「はは、そうだな! ………、でもなんか楽しそうだな! 俺もいつも想像してたんだよ、村の外がどうなっているのかって!」
「そうなのか?」
「おおよ! うわーそう思ったらなんだか俺も旅がしたくなってきたよ!!」
「はは、気楽だなロニーは」
「そうよ! 俺は前向きなロニーさまよ! へへ!」
「ははは!」
何だかロニーは一緒に行きたそうだな。
…………。
「じゃあな!」
「おお、じゃあな! 元気で!」
そして俺は村を出た。