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伝説の冒険の旅  作者: ご主人さま
第一章 冒険の始まり
14/68

水の町ロドイ⑥



俺は凄い速さで水路を滑り落ちて行った。

通常ならこんなの止まりようも無くて困るが、今は少しでも早く屋敷を離れられるのが嬉しい……。


いや、本来なら俺もリディに加勢しに屋敷に残るべきだったんだ。


…………。

でも今はユリアの保護を最優先しよう。

それからケット達と合流してすぐにリディの救出に……。


「ごあらげばごぼげぼがぼ!!」


流されながら思案にふけるが、すぐ後ろではボロッゾの娘が溺れそうになりながら流れて来る。

どうやら体に巻いていたタオルが奇跡的に海獣の毛皮と同じ役割を果たしているようだ。

或いはハイドロプレーニング現象でも起こしているのか……。


「ごぼらげびげばげべらびら!!」


うるさいなあ。


と、そうこうしていると、ふっと、体に浮遊感が走る。


………落下している!? そう気付いて数瞬後、


ざばああん!


深い水流に落ちた! 


これは、地下水流に合流してしまったのか!? 

何とか浮上し水面に顔を出すも、辺りはほぼ真っ暗で何も見えない。


と、とにかく掴まれそうな所を見付けないと! 

それに、一応ボロッゾの娘も助けてあげないと。


「ぶわはあ!! た、たしゅけて、わたくひ、およげなは!!」


娘はすぐ近くで声を上げている。


「落ち着け! 目が慣れるまで少し流されるしか無い! 腕を掻いて流れに身を任せろ!!」


俺は適当に彼女に指示した。

俺は灯りの魔法を使おうとする、しかし、とてもそんな集中が出来る状態じゃなかった。


「ひょ、ひょんなこちょいってゃって~~、げぼごぼ」


彼女は水を飲みながら叫ぶ。

危険な状態だな。

でも俺も溺れる人間抱えるほど泳ぎに自信ないしな。


幸い水の流れはそこまで早くない様だ、早く方法を見付けないと。


「リックス!!」


俺を呼ぶ声がする。

これはユリアか!?


「ユリア!!」


「リックス! こっちに上がって! こっちは岸になってるわ!」


岸? これは川なのか。


ユリアは自力で水から上がったのか、良かった。

とにかく俺たちも言うとおりにしよう。


「おい、ボロッゾの娘! 落ち着いて俺に掴まれ! 

暴れたら2人とも溺れるから、ただじっと掴まっててくれよ!」


「わ、わひゃったかりゃ、ひゃ、はやうく!!」


俺は彼女に手を差し伸べた。

彼女はそれにしがみ付き、俺の体まで上って来る。


「落ち着けよ! すぐ岸に行くからな!」


「んぎゅううう!!」


もう暴れる体力もないのか娘はじっと俺にしがみ付いている。

俺は着実にユリアの声のした方に漕ぎ進んだ。


すると、足が何かに触れる、これは地面か?

もう少し。


体が水流から逃れた、岸にボロッゾの娘を助け上げて、俺もその場に倒れ込んだ。


もう体力の限界だ……。

俺はその場に四肢を垂れた。


少し経って、ユリアの声が聞こえた。


「リックス~~~!」


「ユリア……、ここだよ~~」


俺は小さな声で返事する。



――――――――――



「カチカチカチカチ!」


ボロッゾの娘が歯を鳴らしている。


娘は巻いていたタオルも流されたらしく、真っ裸になっているようだ。

光源も全くないのでどんどん体温を奪われているのだろう。

俺とユリアで少し服を譲ったが、それでも震えは治まらないようだ。


「このままじゃ低体温症になるな。

火を起こせればいいけど、こんな場所じゃあ燃やせるものも無いし、どうしようか」

俺はユリアに相談する。


でもユリアはあんまり経験がないのか見当違いの答えを言う。

「そうだ! 運動すればいいのよ! ほら、ラローナ、体を動かして!」


「カチカチカチカチ!」


何を言ってるのこの人、と言う様な恨めしい目で娘はユリアを見る。


こういう時よく言うのは、人肌で温め合うのが良いって言うけど、そんなに親しい間柄じゃないしなあ。

まあいざとなれば背に腹は代えられないか。


「さあ! 体を温めるために走って出口を見付けましょう! オー!」


ユリアは一人張り切っている。

さっきまで泣いてたのに、切り替え早いなあ。


「カチカチカチカチ!!」


ユリアでは話が通じないと思ったのか、娘は俺を睨みつけて来る。


「ああ、まあ悪かったよ。ほら、これも着ろよ」


俺はもう一枚服を譲った。

これで俺は上半身裸だ。

娘は急いでそれも袖を通す。

そもそも俺は謝らなくちゃいけないのか?


そして娘も何とかしのげたのか、俺たちは歩き始めた。




岩肌がむき出しの、天然の地下水脈。

この地下水路は海まで続いているって話だけど、海に出るまでどれくらい掛かるだろう。


最悪海まで出口が無いなら、この真っ暗な地下で1日がかりだとしてロドイに戻って来るのに往復で2日、リディを助けなくちゃいけないのに、そんなに掛けられるか。

でもボロッゾの娘は靴も無く、足にドレスの端切れを巻いてるだけなので急いで歩くことも出来ない、置いて行ったらそれこそ死んじゃいそうだし……。

俺もただでさえ疲れ切ってるので灯りの魔法を使うことも出来ず、真っ暗じゃそこまで早くは歩けなかった。


そうこう思いながら2時間ほど歩いた頃、


「あ! 光が漏れてるわ」


前方を見てユリアが言う。


確かに明るい場所がある! 

俺たちはその下に向かった。


上方から小さな滝のように水が流れていてその天井の周りに自然な形の空洞が出来ている場所に出た。

その空洞から少し赤い光が差し込んでいる。

恐らく夕日だろう、もうそんな時間になったのか。


「出口ですの!?」


「うーん、ここからじゃまだ上には登れそうにないわね」


俺は滝の下に来た。


光が差し込んでいるので周辺にコケなどが結構育っている。

滝が流れ込んでいる場所は削られて水流とは別に泉の様になっていた。


俺はその水を見て思った。

「この水かなり綺麗だな。下水じゃないんじゃない」


俺がそう言うと、ユリアが気付いて教えてくれた。

「あっ! もしかしたらこれは噴水の水かも知れないわね!」


「ああ、そうかもなあ。でも結構流されたはずなのにまだそんな場所なのか」


「下水溝は町の外周を通っているから、そう思っちゃったのかも!」


なるほど。


「誰かいませんのーーー!! 私は領主の娘のラローナ・マイバーですわあーー!! 賊にさらわれていますのよーー!! 誰か助けてくださいましーー!!」


ボロッゾの娘は力いっぱい光が差しこむ上に向かって叫んでいる。


しかし返事は無かった。

賊って……、よく本人らしか居ないのに目の前で言うな。


「はあ、ここからは聞こえないのかしら。とにかくわたくし少し休ませて頂くわ。ああ、陽の光って暖かいのね」


彼女は光の差す場所の下で日光浴を始めた。

俺は急ぎたい気持ちだが、無理強いは出来ないか。

少し休憩するか。


「………」


色んな事があったのでぼーっと状況を反芻する。


リディは無事なんだろうか。

ティイとアルアの探してた人は本当にあの人なんだろうか。

それにあの力は……。


「よいしょっ」


ユリアが何か作業をしている声がして、俺はふと顔を上げた。


「ふう、寒いけどきもちい~!」

と、ユリアは裸になって泉で水浴びしていた。


「な、何してんの!?」

俺は思わず声を出す。


「え? 体を洗ってるのよ、下水で汚れてたから! リックスもちゃんと洗った方が良いよ!」


「い、いや、そうじゃなくて!」


「この方は婦女子たるものそう簡単に殿方の前で肌を見せるべきではないと仰りたいのよ。あなた、常識が足りないのですわね」


そうそう!

……って何故この娘にフォローされなきゃいけないんだ。


「ああ! ヨダたちもそんな事言っていたわ! 

うーん…。まーでもリックスは友達だし多分いいんじゃないのかなあ?」


「どんな判断ですのよ」


そうこうしてる内に、日が傾いて来たのがここからでも分かった。

差し込む光がどんどん暗くなってきた。


「ああ! 日が沈んでしまいますわあ!! おなかも空きましたわ…、

あなた達! 早くわたくしを屋敷に戻してちょうだいな!!」


満たされても次から次に欲求が出て来るのが人間か。


「よし! さ、リックス、ラローナ! 先を急ぎましょう!?」


「えええ!! あ、あなた何を仰っているの!? わたくしはもう動けませんわ~~」

娘はこれ以上歩くのを心底嫌がって言う。でも歩かないと屋敷には帰れないぞ? まさか俺たちに運べとでも言うのか。


「………」


ユリアは黙って考える。

表面上は明るく振舞っているが、ユリアが先を急ぎたがっているのは明らかだった。

屋敷でのこともあるしやっぱり気になるんだろうな。

でも彼女もさすがに体力を使い切って相当疲れているだろうに。


どのみちこの地下は暗いんだけど、それでも昼に歩くのと夜中とでは安心感が違う気はする。

モンスターでも出て来ればどうしようもない。

体力もまだ回復してないし、俺もひと眠りしたいのは山々だ。


でも、リディはもっと怖い目に合ってるかも知れない………。一刻も早く助け出してあげたい。

果たしてこのまま進むのが正解なのか……、俺も悩んでしまった。


「………。……あれ、静かになったと思ったら」


顔を上げたユリアが、ラローナって娘を見て言う。

俺も見ると、娘はコケの上でもう眠り込んでしまっていた。


「はは、寝てるよ。まったく、あんな悪い事する奴も、寝てればかわいい寝顔するんだな」


「あはは! 本当ね! ………、」

ユリアは愛想よく笑ってくれる。


「……起こすのも可哀想だし、俺たちも少し眠らないか。この子ももう限界だろうし、俺たちも疲れたままじゃ良い方向に進まないよ」


「………」


ユリアはまた少し考える。

俺は彼女の返事を待った。


!?


ほんの一瞬、彼女のその表情が、ちょっと怖い位思い込んでいる様に見えて、俺は驚いた。

でもそれは一瞬の事で、すぐいつものユリアに戻っていた。


「うん、そうね。分かったわ! そうと決まれば、さあ、寝ましょう!」


…………。俺の思い過ごしかな。


腹は空いているがここじゃあ魚も釣れない。

まあ一番うるさい娘ももう寝ているし、俺たちもその辺で雑魚寝する事にした。


ユリアはラローナのそばに横になり、俺は彼女らから少し離れた場所に寝床を確保する。


「リックスもこっちでコケの上で眠ればいいのに。結構柔らかくていいわよ?」


「大丈夫。今ならどこでも寝れそうだから」


「はは。………優しいのね、リックス」


そして俺たちは眠りに着いた。

床は剥き出しの岩だが、ユリアに言った通り俺はすぐに深い睡眠に落ちていった。


………………。





滝から少し離れた場所で寝入っていた俺はふと目を覚ました。どこも真っ暗なのでまだ夜中かな……。

うう、寒い。でもそれ以上に疲れた、もう少し眠ろう……。


ぱちゃ


滝の音とは違う水音が聞こえる。

気が立っているのかこの音で起きてしまったのかも知れない。


俺は体を起こして泉の方を見た。

今夜は月明かりが強いのか、天井から淡く暗い光が差し込んでいる。

そこには泉に入っている人のシルエットが見えた。


ボロッゾの娘じゃ……ないな、あれは、ユリアか?

真っ裸で泉に入っている。


また体を洗っているのか? 

身震いするくらい気温は下がっているのに。


そんなに体を冷やすと体調を崩し兼ねない。

気になった俺は起き上がって彼女に近付いた。


「ユリア? どうしたんだ? そんなに冷やすと体壊すよ?」


「………」


ユリアはむこうを向いた姿勢のまま何も答えない。聞こえてないはずはないんだが。


「どうかしたの? どこか痛むのか?」


俺は心配でさらに近付く。


「なんでも、ないわ………。だいじょうぶ、放っておいて」


彼女は小さい声で言う。

それでも彼女は背中を向けたままだ。


さっきまでの彼女の雰囲気じゃない。

どうしたんだろう?

まさか、何か感染症とかで意識が朦朧としているのか?


俺は心配になり、放ってはおけず、泉に入って彼女の後ろまで来た。


「おい! どうしたんだ? ユリ……」


と、その時ユリアは振り返った。


しかし、その目に溢れるように涙が浮かべ、表情は怒りに染まった様だった。


「!!?」


俺は驚き、彼女を見る。

ユリアは一度隠す様に顔を逸らす。でも、一瞬肩をわなわなと震わすと、俺を睨みつけた。


そして、


バチンっ!!


ユリアは俺の頬を思いっきり平手打ちした。

俺は痛さより驚きが勝って呆然と彼女を見た。


「……なぜ、」

ユリアが震える声でやっと声を出す。


「なぜ、あの時止めたのか!!? わたしに、味方を見捨てさせるなどと! 最も恥ずべき行いをさせるなんて!!」


彼女は俺を叱咤した。


…………。

切り替えれてなんていなかったのか………。

気持ちを自分のうちに押さえ込んで、明るいふりをしていたのだろうか。


「………!!」


ユリアは激しい目で俺を睨みつけていたが、少しすると憤りを抑えるように下を向いた。


俺は間違ったことをしたとは思っていないので、謝るわけにもいかないが、彼女の後悔も分かるので何も言えずユリアを見ていた。


沈黙が辺りを包んでいたが、暫くして落ち着いたのかユリアが俺に謝る。


「………。ごめんなさい。リックスは何も悪くないよね。当たるような真似をして、本当にごめん……」


ユリアは謝ったが、俺は叩かれるくらいは構わないと思っていた。

ユリアが顔を上げて少し情けない顔で俺に言う。


「リックス、私の事殴って。それでおあいこにして?」


「………。そんなの出来るわけないだろ」


「どうして? 友達なら、対等でいるのが当然だって……。だから私の事も殴って欲しいの!?」


「殴らないよ。俺は女の子を殴る気はぜんぜん無い」


「そんな……。じゃあ女の子と男の子じゃ、友達にはなれないって事なの!??」


そうじゃない。そうかも知れないけど、今はそうじゃない。

俺はそう思うが、口には出さなかった。


「………」


しばらく2人で目を合わせず向き合っていた。


彼女は裸だし、俺も上着は全部ボロッゾの娘に貸したままだった。

ユリアも俺もこのままじゃ風邪を引く。


でも誤魔化して切り上げる気にもならなかった。彼女の痛みから逃げたくは無い。

俺はユリアの言葉を待ったが、次の言葉は少し思っていたのと違う言葉だった。


「………。男と女じゃ、体付きもこんなに違うんだね。初めて分かった気分」


ユリアが俺の裸を見て言う。

そんなの当たり前だ。俺はユリアの体を見て思う。


ユリアの指が俺の胸に触れようとした、でも戸惑い引っ込める。


「そうだね。男と違って、女性は……ユリアは、こんなに綺麗だね」


俺は心に浮かんだ言葉を言った。

確かに、こんな場所だけど、薄い月明かりに照らされたユリアは神秘的なまでに綺麗だった。


「え……!?」


ユリアは小さく声を上げる。

その顔がきょとんとしていてかわいい。


しかし彼女は何かむずむずしたような顔をして、すぐに顔を伏せてしまった。

その頭が偶然俺の胸に当たる。

でも俺もユリアも動かなかった。


なんだか、胸がどきどきする。きっとユリアに聞こえてしまっている。


「………!!」


でも何故かもう一つ俺とは別の鼓動が聞こえる気がした。

これはもしかしてユリアの??


「女と男が友達になれないなんて、そんなわけ、ないよ……!」


ユリアが俯いたまま少し震えるような小さい声で言う。

そして顔を上げて続けた、


「だって、……だって、わたし。リックスともっと仲良くなれたらいいなって、今すっごく思ってるもの……!」


!! 


そう言った表情に、俺はときめいてしまった。

きっと俺今顔真っ赤になってるぞ! うわー恥ずかしい!!


「そ、それは! 友情とは違うよ! それは、」

俺は焦りを隠す為に慌てて何か言おうとした。


「それは?」

ユリアが上目遣いで聞き返す。

でも俺は気が動転して本当は言う言葉が思い付かなかった。


こ、これは、態度で示すしかない!


俺は思わず彼女にキスした。


「!!??」


ユリアの体が驚いて小さく跳ねる。


「?? ………、…………」


でもユリアは、落ち着くと俺の肩に手を添わせ、抵抗せず受け入れてくれた。


そして、俺は唇を離した。


「………」


ああ、何してるんだ俺は。

俺は自分の未熟さを思い恥ずかしがりながら彼女を見る。

すると、


「………。……、唇にキスをしたの、はじめて……だけど、何だか……。えへへ」


彼女が笑みを浮かべた。


ああ良かった、笑顔に戻ってくれた……。

いつもの明るいユリアに戻って、俺は安心する。

だが、その効果は思ったより大きかった。


「リックス、教えて? これって何て言うの? 女と男の本当の気持ち……。もっと、教えて欲しいの‼」

ユリアは俺に詰め寄って来る。

いきなり明るいユリアに戻り過ぎだ!


さ、さすがにまだユリアにはこの先は早過ぎる気がする……、


「教えて……! リックスーー……!」


ユリアが俺を押し倒してくる……。

ち、力が強い……。




―――――――――――




一方その頃、ロドイ市内の警備局地下にある囚人収監所――。


幾つか並んだ牢の一つに、手足を枷に繋がれたリディの姿があった。


彼女はリックスとユリアを逃がす為に、兵士達の追撃を必死に食い止めようとした。

彼女の反攻は凄まじく、兵士は彼女を捕えあぐねていた。

しかし、踵を返した異国の剣士が、兵士を割って彼女に近付き、その剣を抜いた。


「うぐぁ!?」


その瞬間、リディは強烈な一撃を受け、もんどりを打って倒れ込んだ。


「ぐぅう、み、見切れなかった……。いつの間に、ここまでの腕を……??」

リディは朦朧とする意識で疑問を口にする。


「く、くく。これが、神の力だ」


そう言った男の胸元が、怪しく光っていた……。


そして気を失った彼女は牢へと運ばれた。


傷だらけの体は治療もされず、他の囚人とは比べられない厳重な枷。

だが意識を取り戻したリディは苦痛の嘆きも上げずじっと耐えていた。


そんな彼女の牢屋の前に、その収監所に最近任命された新たな所長が姿を見せた。


「よお。随分しごかれたみたいだなあ? ええ、リディよお?」


彼女を知っているらしいその男はそう嫌らしい口調でリディに声を掛ける。

リディは痛みを顔に出さず、明るい口調でそれに応えた。


「あら、これはこれはゴイルナ様じゃありませんか! 突然ノンビ村から去られたと思ったら、こんな所で再就職なさってたんですねえ!」


「ぐっ! ち、ちくしょお、あの野郎。俺が居なきゃこの町の領主になんてなれやしなかったのに、その大恩人が頼ってやったら、こんなチンケな役職しか回しやがらねぇ……!」


リディの言葉に感化され、ゴイルナは何かを思い出して怒りを再燃させた


「まあ、ゴイルナ様ほどのお方でも、都会に来ればただの使用人ってことなのかしら?」


「はっ!! 口の減らねえ女だぜ!! 俺はよお、いつかてめえのその人様を舐めた態度を調教してやりたいと思ってたのよ。へへへ、やっとその機会が回って来やがったぜ……!! それだけは感謝してやるぜ、ボロッゾよお!!」


ゴイルナは手に持った鍵束と、そして獣皮を束ねた鞭をちらつかせ、リディを見下ろした……。




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