プロローグ ―転生のきっかけはいつも大型車―
「ロクタくん! 待ちなさい、聞いてるのですか!?」
学校帰り、行き交う人々で混み合う歩道で、後ろから追いかけてくる幼馴染の妻藤マミナが叫ぶ。
「…………」
俺は無視して早足で歩く。
「今日もどなたともお話しなかったでしょう!? 私はお友達として、とても心配です!」
周りの人が好奇の目で見る。
……くそぅ、こんな人ごみで大声で話し掛けやがって……!
「男の子と話すのが苦手でしたら、私のお友達の仲間に入りましょう! みんないい人ばかりですよ!?」
「…………、…………」
「せっかくの青春なのですから、一緒にもっと大切に過ごしましょうよ、ロクタくん!」
だああ! しつこい!!
俺はいい加減むかついて、立ち止まり振り返って怒鳴り返した!
「う、うっせーよ! さっきから!! 俺にどんだけ恥をかかせたいんだよ!」
マミナは俺に追いついて来る。
俺の前に立ち、真剣な眼で俺を見据える。
(ぐっ…、)
こんな時だというのに、俺はマミナの顔に怯む。それは怖いからではない、……かわいいからだ。
俺は別に本気でマミナを鬱陶しがってるわけじゃない。
でも、俺には劣等感があった。
こいつは家庭環境も良いし容姿もスタイルも滅茶苦茶良い。俺とは比べようもない。
でもマミナは幼馴染と言うだけで、小さい頃から何かにつけて俺の心配をして付きまとってきた。
俺はこいつとは違って何の取り柄も無いし認められないし褒められないから周りに不満を募らせるばかりだ。
かと言って不良になるほどバカにもなれない、どっちつかずの将来性の無い人間なんだ。
俺は友人、知人としてさえ、こいつに釣り合う隣に居ていい人間じゃ全くない。
「もう俺に構うなよ! 放っとけ!!」
俺は居た堪れないので、突き放す様に言う。
すると、自分の思いが伝わらない事に傷付いたのか、それまでの強気な様子から表情を一転させる。
「そ、それはイヤです!! ……幼い頃からのお友達が、一人っきりで居るのに見過ごすことは出来ないのです……」
マミナはすがる様に心配そうな顔をする。
なんで俺なんかにそんな顔するんだよ……。
強引なこの女が時折するこの顔に俺は、何故か昔から逆らえなかった。
「…………、ったく!」
俺は反論を止めたが、行き場のない苛立ちを感じて頭を掻いた。
仕方ない、少し話を聞いてやればまた暫くは放っておいてくれるだろう……。
俺はマミナの顔を見る。
「! パアア」
俺が聞く姿勢になったのを察したのか、マミナは笑顔を取り戻した。現金なやつだなあ。
まったく、結局いつもこいつの思い通りだ………、
俺は道端で立ち止まり、マミナの視線を受けていた。
いつまでこんな関係が続くんだろうな。こいつが大人になって自分の恋愛をして、子供が出来て、その頃でもうだつの上がらない人生を送っている俺を、こいつは気に掛けるんだろうか。
……案外そうなりそうだな……。
はあ情けない。
それでも今は、俺に向けられるこの純粋な視線を、独り占めにしていることを喜ぶか……。
その時、
ドガッ!
「キャア!!」
すぐ近くで騒音と悲鳴がする。俺たちはその方向を見た。すると大型車がこっちに突っ込んで来ていた!
ほんの数秒でここに突っ込んで来る距離だ……! 運転主はハンドルにうつ伏せに倒れているように見えた。
「!!!」
俺は慌てて両手でマミナを押して逃がそうとした。
何とかコイツだけでも助けないと!!
すると驚く事が起きた!
なんとマミナも俺を押していたのだ!!
マミナは目を閉じて体当たりの様に俺を押していた。
その瞬間、俺は押し飛ばすことも出来たはずだが、なぜか一瞬力を緩めてしまった。
(!! こ、このバカ!!!)
俺が動かないのに気付き、マミナは顔を上げて俺と目が合う。
何とも言えない表情をしていた。
「! ロ、ロク…!!」
俺は混乱する頭で、でもマミナが最後まで俺を心配してくれた事に心の中で瞬間有り難さと、そして悔恨の気持ちを感じながら、もうどうしようも無い状況でこいつを見ていた。
こんな事になるならもっと意思の疎通をしておくべきだったな…。
マミナは申し訳なさそうな顔をしていた。
最後にそんな顔をさせてしまって、ごめん………。
そして、俺たちの全てを吹っ飛ばす様な衝撃が横から襲って来た。
………………、