愚者はそれに手を伸ばす
もう今年は1ヵ月もない。街はクリスマスを待って足早に着飾っている。風は横を切るように吹く、何もない隣を意識させるように冷たい。
そこのお揃いのマフラーに顔を埋めるカップルも、さっきのカフェでコーヒーを片手に笑いあっていたカップルも、どうせ中身をみれば醜いものだ。きっと、お互い見せられない灰色であふれている。温め切って冷めたころに気づくのだ。そこで目が覚める。
彼女との未来は初めから無かった。
彼女は度々、僕を傷つけた。酷い行動を取って、魅せられた僕を含む蛾たちを温めていく。物理的な傷を欲した僕は、狂っていた。今となっては彼女の代わりに傷つけた右腕が醜くて仕方ない。切り落としてしまいたい。最初から気づいていたくせに、僕はまだ彼女から逃れられていない。
彼女ももちろん狂っていた。きっと人として必要な何かが欠けていた。年上の彼女とのデートは煌めいて、もっと幼いあの頃のクリスマスプレゼントのように特別だった。彼女はいろいろなものを僕に見せた。汚いものももちろんあった。
あのカップルは、結婚するのだろうか。
いつの間にか疎遠になった僕らと違って、ずっとずっと距離を近づけていくのだろうか。未来がない関係に縋っていた愚者として、羨ましい。欲しくはない、とって代わりたくはない。僕は結局彼女が好きだった。たとえ未来がなくても彼女が好きだった。彼女が僕の愛情を受け取らず弄んでしまうような人だったとしても、この寒い季節外に放りだされたとしても、彼女だけに手を伸ばしてずっと待っていられたのだ。
今頃、彼女は何をしているのだろうか。やっぱり、もっと手頃で都合のいい言葉を吐く凍える愚者で遊んでいるのだろうか。
一体この虚無感は、この春が来ないような寒さは、誰が埋めてくれるのだろう。
さっきのカフェで彼女とコーヒーを飲んだ先月のことが懐かしい。
世間はクリスマスの夢を見ている。カップルは今だけの幸せを見ている。僕には見えている、僕にはまだ見えている。彼女との自分勝手に描いてしまった暖かい聖夜の夜のことを。
悲しい恋の終わりからは、一歩踏み出すのが難しいですね。
私も、閉じ込められてしまったかのように明日が見えません。
こんな憂鬱な話をまた少しずつUPしていければと思ってます。