②蒼暦745年5月15日
ーマイント半島北西部ー
帝国陸軍マイント第12前線基地内
「今、俺は眠い、兎に角眠いの!昨夜はね夜間歩哨の先任将校として、一睡も出来なかったんだよ?
、、、、、ホントだよ!ホントだって一睡も、あの、あのね確かにあの時目は瞑った、、、あー確かに、確かーに、目を瞑っている時にキリング少尉に揺さぶられて、辺りを見渡してー、何かー、今起きた見たいな感じはしたかもしれないけどね〜、アレはね、アレは、そっ、そう!少し部隊編成をね、変えた方が良いんじゃ無いかとね、そう思って瞑目して、シミュレーションしてる所だった訳だよね分かる?
寝てないの!だーかーらー昨夜は俺は一睡もしていません!
だから〜、ねっ!少しだけ!少しだけ寝かせて!
お願い、お願いオーネーガーイー!」
「中尉、そうですか。そうですね。確かに中尉は昨夜夜間歩哨先任将校として、忠実に職務を遂行致しました。因って、基地司令官の呼び出しは不当であると、
小官よりご命令戴いたラムズ少佐に昨夜の日誌を持参してご報告致します!」
ハッ?何言ってんの?俺未だ歩哨日誌作って無いんですけど?アッ!コイツが作る班長日誌の方か?そっ、それはちょっと!
「あの〜、その班長日誌には、なんて書いてあるのかな?」
「ハイ!勿論昨夜の天候、人員配置、交代時状況、歩哨実施内容、、、それと歩哨者全員の勤務評定です!」
今この時、自分より楽しい時間を過ごしている者はいないので無いの?とでも言いたげな、満面の笑みを浮かべ、こいつは俺を見ている。
「えーっと、班長日誌だから上官である、将校については触れてないよね?ネッ!」
「ハァ?アー例外は有りませんが?何か?」
「イヤ、チョット待って、、、、すいませんでした!直ぐ参ります。ちょちょっと待ってね!今ズボンを履くから!」
俺は小隊長用の個室にある野戦ベッドの上に膝立ちで立ち上がった。
「ちゅ、中尉!パンツは履いて寝てください!シーツが汚れるじゃ無いですか!」
コ、コイツ、恥ずかしいのか顔を横に向けて俺のを見ない様にしてやがる、、、、、こ、これはチャンス!
このまま、コイツの正面に回り込み近接戦闘に持ち込むか!!!
「コラ?中尉!うら若い乙女の下士官に何してる?」
右側面から敵正面に回り込む途中で、盆の窪に激痛が未だ走る。背面偵察を行う為、後ろを振り向くと苦笑したケスラー大尉が俺を見上げている。
「お前は朝っぱらから騒がしいやつだな?司令がお呼だ!早く用意しろ!」
大尉はそう言った後、徐ろに俺のを見ながら溜め息をつき「早くその危険物をしまえ!男が全部その位だと軍曹が勘違いしたら、大変だろ?」
直立不動で敬礼している軍曹へ片目を瞑りイケメンスマイルを作る大尉に対し、目をハートマークにした軍曹は俺を目の端にも入れない。
「大尉、後はお願いしてもよろしいでしょうか」
「うん!良いよ!少佐には直ぐに行かせるとケスラーが責任を取ると報告してくれ。」
「はっ!了解致しました!」
回れ右をして、軍曹は名誉ある撤退を完了した!
何だよもう少し遊べると思ったのに!
しかし、何だね、このイケメンは本当にムカつく!
トーマス・フォン・ケスラー
皇家流ケスラー侯爵の三男坊。
身長172センチ体重65キロ
背もそれ程高くなく華奢な身体付き乍ら陸軍士官学校て鍛え上げられた身体は細マッチョを体現している。
現在この基地唯一の弓騎馬中隊の中隊長であり、
当然基地戦力の中核部隊長の為、発言力は強い。
然も、よく通る優しい声音で弁舌も流暢。
当然、基地内の女性将校、下士官兵に至る迄、基地内キングオブ目の保養である。
、、、且つ、俺の士官学校一年時のルームリーダーでもある。
「プフッ!中尉、君は士官学校時代から変わらないね。歩哨中に新任1ヶ月の少尉に衆人環視の中、起こされて『寝、寝てないよ!』って、叫んだらしいじゃないか?、、、カッコ悪!」
クッ、然し待てよ。何でこのイケメンつい何時間前の出来事をもう知ってるんだ?
「大尉?何でその話知っているんですか?」
「やっぱ、ホントだったんだ!ハッハッハッ!」
エッカマかけ?カマかけなの?でもカマかけにしては内容が詳細過ぎんでしょう?ど、どうゆう、、、
「どうゆう事でしょう?た、大尉?」
「んっ?嫌もう、基地内で知らない奴探す方が難しいんじゃ無いかな?ほら!俺なんかは士官候補生の頃のお前を知ってるから、なんとな〜く分かるけどさ
そりゃお前にとって、哨戒、索敵なんてもんは五感の研ぎ澄まされ方が常人とは2桁3桁も違う、お前にしてみれば、ねむ気が来るのは分かるけど何時、敵が急襲して来ても分からない、この時期にだよ普通、先任将校がその警戒体制の中、寝ないよね?
でっ、その先任将校がお前だもん。笑いが止まらないよ!」
「良し!全部バレてんのね?基地内の兵隊全員が知っていて、基地副司令のラムズ少佐がお呼びっと、
んで、女性下士官が呼び出しに来てたけど、いくら待っても、連れてこないから、業を煮やして基地内ナンバー3の大尉が最後通牒を持って来た。って事かな?
結論、司令も副司令もスゲー怒ってるって事だな?
うん!この回答には自信があるな!無茶苦茶怖いけど、
「大尉!すいません、実は小官は昨夜、人事局からですね、内密に辞令を拝命してまして、直ぐに任地に赴かなきゃならないんですね。大変心苦しのですが、司令方には、大尉からお伝え願えないですか?」
「うん!中尉。その手の話しは、君が2年の時にルーム替えだって僕に嘘を言って、フロアリーダーから僕一人で、こっ酷く叱られたよね?君は熱りが冷めるまで、2ヶ月位、寮に寄り付かなかったよね?
覚えてるかな〜?」
「や、やだなぁ?大尉〜そんな昔の事なんか持ち出さなくても?」や、ヤバイ大尉の端正なイケメンマスクが、冷渋面になってくる。だ、ダメだ!これ以上、上官連中に敵を作ると、俺の快適基地生活が根本的に崩れてしまう。怒られて謝って叱られて反省して兎に角やり過ごそう、んで、早く寝よう!
ダメだ!眠くてかなわん!
然し乍ら彼の希望が叶うのは、叱責4時間、罰走2時間、膝立ち1時間の後、軽営倉として入営した営倉内であった。