スーの初仕事
多網の父こと正孝、通称サーは親友のとけたみ、通称スーにメールをする。
最近はどうしてる?
場面は変わる、こないだの旅行前から仕事を辞めてニートとなったスーは昼間から家でくつろいでいた。
「あ〜快適最高だぁ〜」
この生活は最高なんだけど、両親に気まずいんだよな。
両親の居る下の階に中々降りて行きづらいスーがいた。
それになんか社会から取り残された感じ、だけどそれは最高でもあった。あ〜あの煩わしい人間関係、仕事の業務、変な気遣いもしなくて良い、最高であった。
「ノーストレス、マイライフ」
あーずっとこうしていたいな、予定が無いってのも良いなぁ、布団の上であくびをする。
だが少し退屈でどこか虚しい気もする気がした。
基本やる事も金も無いので寝ているかネットを見たり、好きな事をして過ごしている、と言っても好きな事もあまり無かったスーの大半は睡眠。簡単に言えば食っちゃ寝である。
あ〜仕事の悩みが無いのは良いなぁ〜、明日も仕事だぁ、なんて考えなくて良いもんな、ボソリつぶやき空を見つめる。
これから僕はどうやって生きていこう、そんな事も考えた。
その日の夜、43歳のスーは久しぶりに父親にこてんぱんに叱られた。
「一体いつになったら働きに出るんだ!!」
スーは答えた「後数年後」父親の顔色はみるみる真っ赤になり噴火した「ばっかも〜〜〜ん!!」ひょええ〜〜っ
またも父親の知り合いの職場を紹介され、明後日から渋々働きに行く事に。父親の知り合いのレストランで働く事になったのだ。
その経緯をサーに電話で伝えた。
「ああ、僕の悠々自適な生活に終止符が打たれたよ、今は明日が来るなと祈っているよ!」
「新たな職場、最初緊張するんだよね、大変なのは仕事慣れるまでだよ、まあ頑張ってよ」
「ありがとうまた飲みにでも行こう」
ふう〜小さなため息をつくスー、ああ仕事面倒くさいなぁ〜。
こうして男の初勤務日は緊張と共に近づいて来る。
ああこないだまで自由な海で泳いでいた精神が嘘みたいだ。
不安と心配でいっぱいになる、あーみんな良い人ばかりだったら良いなぁ。
そしていよいよ初勤務の日
向かう足どりは重く、緊張で呼吸すらうまく出来なくて男はむせた「がふっ」電車の中から周りの人を眺める、今僕みたいな気持ちの人この中には居ないだろうなぁ。
はぁ〜はやく帰る時間にならないかなぁ。
この向かう瞬間がなんとも憂鬱であった。
良い人ばかりだったら良いなぁ、うまく打ち解けられるかな。
ハァ〜なんにも分からない初回はどうにも緊張し不安になる。
職場に着くと、思ったより大きなレストランでスーは驚いた。
うへぇ〜なんだか大変そうだなぁ、これだけでかいと沢山働いてるよなぁ、沢山の人と一緒に働くの神経使って嫌なんだよなぁ。
ドキドキッ、バクッバクッ心臓の音がより一層大きくなった気がした。
うへぇ〜、店に入る時、全身をなんとも言えない気持ちが襲う。
ええぃ頑張るんだ自分。踏み出せ深呼吸をする。
「いらっしゃいませ」中から若い男の店員さんが声をかけてきた。二十歳くらいだろうか?
「何名様ですか?」
「はっ、はひゅっ」スーはテンパったった。
「一名ですっ」
「こちらの席へどうぞ」
スーは次の瞬間客となっていた。
「ご注文お決まりになりましたら、お声かけ下さい」
「はっ、はいっ」スーは困ったった、こっからどうやって働きに来た事を伝えれば良いんだろう?このまま帰るか?それはまずい。
じゃあとりあえずハンバーグ食べるか?いや、それじゃあただの客じゃないか。トイレに籠城するか?なにしに来たんだ。
スーは頑張った「すっ、すいません」
「はいっ、お決まりになりましたか?」
「あっ、じゃあハンバーグで、じゃなかった。すっすいません実は今日から働きに来ました、とけたみです、よっよろしくお願いすっすます」あっ、うまく喋れない。
「あっ、そうだったんですか、すいません。じゃあこっち来てください」
再び変な緊張感に包まれる、スーは思う、こっから新しい仕事が始まるのかぁ。ため息三連発。
「店長、とけたみさんが来ました」
ギロッ、スーは鋭い眼光に声を失った。
「君がとけたみさん?うちの親父のお友達の息子さんだよね?」
「あっ、はっ、はいっ」
「じゃあ今日からよろしく」
こうしてスーの仕事は始まった。
「じゃあ高田君、とけたみさんに仕事教えてやって」
「分かりました」
先程の若い店員さんとは違う店員が表れた。
ベテラン感をかもし出している。
スーの特殊能力で(特殊でもなんでもない)即座に自分の苦手レベルを測るスカウターを持っている
ピピピピスカウターは反応した、レベル七。
年は二十七くらい、茶髪、長髪、男は無愛想に言った。
「店忙しいからテキパキ仕事覚えて」
うわぁ〜関わるの嫌そうな奴が出てきた。スーのスカウターは当たった。この空気感やだなぁ、気不味い感覚に包まれる。
「まず店来たら、これ、それ、あれ」マイペースのスーには全くついていけない。
「覚えた?じゃやって」
「はひゅっ?」
「はひゅっじゃなくて、はやく動いて」
「はっ、はいっ」この頃にはスーの顔は真っ黒、じゃなかった真っ暗になっていた。
スー何をするのか全く分からなかった、しかもレベル七(あだ名はこう命名された)には非常に聞きづらかった。
先程の優しそうな若い店員さんに聞く「あっ、教えてくれてありがとうございます」
この日は仕事の流れをレベル七から沢山教わった。
「明日と明後日とけたみさんは仕事休みだから次までに覚えてきて」帰り道スーの目ん玉はバツになっていた。
やっぱり仕事の初めは気も遣うし、仕事もわからないし疲れるなぁ。
帰りなのにこれから仕事に通うと考えるとなんだか憂鬱だった。
電車に乗ってる最中携帯を開く、するとサーからメッセージが。今日泊まりに来ない?子供達もみんな家に泊まりに来てるんだ、久しぶりにスーに会いたいって。
スーは何だか嬉しくなった、だが仕事疲れか今からサーの家に行く気力があまりわかなかった。みんなに会いたいけど今日は家で休もうかな。そう思った瞬間スーは閃いた。
「そうだ良かったら家に泊まりに来なよ」
「えっ、今からスーの家に?大丈夫なの?」
「うん、僕も仕事で疲れてるし良かったら泊まりに来てくれたほうが嬉しいよ」電話口からヒヤッホ〜子供達が電話口で聞いていたのか喜んで叫んでいる、どうやらみんな一緒に居るようだ。スーは懐かしのみんなの声に何だか嬉しくなる。
こんな時は少し話したい。
と言う事で、これからサー達が家にやってくる。
なんだか少し嬉しくなるスー、サーと夜語ろう、それに子供達にも会える、この二連休が彩られた。
小さなため息は消えなかったが、家に帰る足どりは少し軽くなった。
やりたくも無い仕事してお金稼いで生きる、本当にこれでいいのだろうか?
これが社会的な大人?これが生きるって事?スーは帰り道こんな事を考える。
他の人もそうなんだろうか?考えたら僕もこの年まで働いて来たけど、これを定年まで続けて余生を生きる頃には身体は動かず。
なんだろう生きるって?
大半の人間と同じ様に生きなきゃ本当にダメ人間なのか?
ハァ〜ため息四連発である。
家に帰ると「仕事はどうだった?」
「あははもう最高だよ」ひきつる笑み
「そうか良かった、頑張れよ」
スーは思う、頑張れか、頑張らなきゃいけないのかと。
「あっ、そうだ後でサー達泊まりにくるよ」
部屋にはいり寝転ぶスー。
気付けば眠っていた。
すると玄関のチャイムが「あっみんなが来たんだ」急いで玄関に向かう。
「ひやっほ〜スー久しぶり」
目の前には久しぶりの冬馬君、大喜、多網、きみ子、サーの姿。
なんだかホッとするこのメンツ
「久しぶり、元気だった?さあ、みんなあがって」
スーのお父さん、お母さんも出て来て優しく出迎えてくれる。
「あら〜みなさん久しぶり、ご飯作ったから食べてね」
「ありがとうございます、すいません突然お邪魔しちゃって」
「来てくれて嬉しいですよ、なんだかうちの子、仕事初勤務で緊張したのか疲れてたみたいだから」スーの気持はバレていた。流石母親である。
リビングでみんなで食事
「スー仕事はじめたんだ、どうだった?」冬馬君の質問、両親のいる手前、本音では語れなかった「まあ、良かったよ」
20時を過ぎた頃スーのお母さんが「和室に布団敷いといたから使って下さいね」
「すいません、そこまでして貰っちゃって」
「ありがとうございます」
「私達はもうそろそろ寝ますので、ゆっくりして下さいね」
喜ぶ子供達「やった〜旅行に来たみたい、あの和室最高なのよね」ニンマリきみ子。
多網も喜びプップこいている(他の喜び表現ないんかぁ〜)
両親が居なくなり、ようやく本心を語れる場がスーに訪れる。
「実は仕事もう辞めたいんだよ」
「え?」驚く一同。
「なんか嫌な事あったの?」とサー
「仕事するのが嫌なんだよ」ずっこける一同
こりゃ面白くなってきたね夜中の語り合い、大人混ぜバージョンだ」大喜が言う。
「働くのが嫌と言うよりやっぱり僕は人間関係が苦手なのかも」
すると多網が「嫌なら辞めれば良い」
「え?」
「そうだよ無理に頑張らなきゃ良いんだよ」きみ子が続く。
「人付き合いが苦手なら、一人で出来る仕事だってあるんじゃない?親に言われたからって無理にそこで働かなくても良いじゃん」サーはぐびりビールを飲み言った。
「そうだよ、スーの人生だからやりたい事すれば」冬馬君のその言葉に自分のしたい事を考えるスー、思いついたのは働かず、眠る事だった。
無理に働かなくても良い、なんだかそう思えたらスーの力んでいた気持ちは軽くなった。
「そうだよね、みんなに話せて少し気が楽になった」
「まだ一回めだしもう少し続けてみようかなって気持ちになったよ」
「そうだよ、もしかしたら良い事だってあるかもよ」
「良い事?」
「素敵な出会いとか」
サーのその言葉に興奮するスー「そっそうか」
「それに人間関係も最初は気を遣うかも知れないけど、そこで親友だって出来るかもしれないし、そこで女性紹介してくれるかもよ」(全て女性に繋がる)
「仕事で得れる事だってあると思うよ」
「良い面を見てみる」
「おおっ」多網の名言にみんなから声があがる。
「そうだなぁ、仕事の良い面か、お金貰える、新たな経験が出来る、出会いが増える」もう思いつかなくなる。
「あぁ、一日二時間で良かったらなぁ」
「それは最高だね」
「スーは何時間働いてるの?」と大喜
「朝の10時から夜の8時までだよ」
「朝はゆっくり眠れるね」
「ああ、こないだまでの毎日休みの生活最高だったなぁ〜遂に始まったか仕事って感じだよ」
「休みの後なんて特に思うよね、せめて週休3日だったらなぁとか」
「あはは確かに、ちなみに僕は週二回休みだよ」スーが言う。
「まあ、せっかくの人生、無理せず楽しもうよ」
「そうだね、せっかくだし。仕事楽しんでみるよ、やらなきゃ出会えない人達だったんだもんね、レベルナナともうまくやるよ」
「レベルナナ?」なんじゃそりゃと言わんばかりの表情の子供達
サーは理解していた「それは高いレベルだね、でも大丈夫だよ僕の上司レベル2500だから」
「そりゃやばい」笑い合う二人。
スーは思う、自分らしくあれるこの環境やっぱり落ち着くなぁ。
「みんなありがとう、話して楽になったよ。無理する必要ないんだって思ったら気が楽になった、仕事続けてみるよ」
「そっか、まあお互い人生楽しもう〜」
「おーーーっ」
「でも明後日辞めてたらごめんね」
「あははそれもよろし」
「アッハッハ」みんなは笑い合う。
「よーし乾杯〜〜っ」
こうしてみんなで過ごす楽しい夜はふけていく。