機内での攻防
冬馬君達一同は、とりあえず、搭乗口に向かう事にした。
「みんなパスポート出して、荷物検査とボディチェックだって」
正子の呼び掛けに、何故か多網が腕に力を入れて、ちょっと膨らんだ自分の腕を見て、ニタニタ笑っていたのに隆はギョッとした。
冬馬君が探知機のゲートをくぐると、ビビビビビビ、音が鳴る。
えっ?僕、危ないものなんか持ってたかな?
まさか、多網から預かってた怪談の本がまずかったのか?(また持ってきてたよ)
「僕、そんな、変な本なんか持ってないです」
テンパる冬馬君に一言
「とりあえずベルト外して下さい」
きみ子の通った時は、何故かビビビではなく、ブブブと言う音が鳴ったそうな。(こんなとこでも、ぶっこいていたそうな)可憐な おなご、きみ子。
皆は手荷物検査を終え、飛行機の搭乗口前で待機していた。
「乗り換え、間に合えばいいんだけど」と正子
「空港で過ごすのはやっぱ厳しいですよね」と、多網ママ
男は一人ソワソワテンパっていた。
そやつの名はサー、そう彼は恐れていた飛行機に乗る事を。
一人目をつむり祈っている。
ああ飛行機の神様(そんなのいるのか?)
どうかこの飛行機を一ミリたりとも揺らせないで下さい。
絶対にUFOとかにぶつかって墜落しませんように。
絶対にそんな高い所、飛びません様に。
冬馬君と大喜は思い出す、前回のスペイン旅行の機内でサーがとんでもない事になっていた事を。
妻も思っていた、こやつの隣にだけは絶対に座りたくないと。
隆はとりあえず、機内食でビーフ オア チキン って聞かれた時、どうやったら相手にビーフと理解させられるか悩んでいた。
うまく言えるかな、一人小さな声で「ビーフ、ビーーフッ?あれっ、ビフッ?」と囁いていた。
きみ子と多網は、外に止まる飛行機を眺めては興奮してぷっぷこきまくっている。
「バリやば楽しみ〜」きみ子はケツをぼりぼりかきながら言った。
清楚で可憐な乙女、This is きみ子。
ちなみに今更ながら名字は黄身である。
黄身きみ子(何故今このタイミングで言ったかは不明)
多美は思ふ、今度クイズ多美多美ターーミでこの問題出そう。
冬マニアになりたいなら、これくらいは答えられなきゃ、冬マニアにはなれないよ〜、多美はほくそ笑んだ。(居るのだろうか冬マニア)
世界に二人居たら私は嬉しい。
すると添乗員さんが「大変遅れて申し訳ございません、搭乗を開始致します」
ズギャアアアアアアアアアアンッ
サーの心臓の鼓動の音である。
来たッ、来てしまった。
大の絶叫マシーン苦手な人間が、絶叫マシーンに並んで、いよいよ乗る直前の気持ちに似ているかも知れない。
子供達は喜びながら列に並ぶ
「いよいよ出発だね〜」
みんなは旅券の座席シートの番号をみた。
「隣だよね流石に」と大喜。
サーは懇願していた、絶対に窓側は嫌だと。
いよいよ飛行機に乗り込む一同。
隆の心の中
ビーーフッ、あれっ?ビーフか?えっビフーーっ?大丈夫かな。
サーは念仏を唱えている「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
こうして席につく。
窓側から冬馬君、大喜、その後ろの座席に正子、隆
前の座席にはきみ子、多網
飛行機の真ん中の座席に多網ママ、さらにその隣、飛行機の中心に奴は座っていた、サーである。
実はなんか知んないけど、真ん中なら揺れませんよと言う、訳のわからない隆の言葉を聞き、席を変わって貰っていた。
サーの隣に座っていた黒人の人は異様に怯えてるその様子を心配して声を掛けた「ダイジョブデスカ?」
「あっ、えっ、その、サー」奴は謎な返事を返したそうな。
こうしていよいよ離陸、発信〜〜
ブゥおおーーーんっ
「いよいよバリだね」
「そうだね冬馬、しばらく日本とお別れだ」ウキウキな子供達
いよいよ旅が始まるんだ、始めての国
リゾートアイランド バリ島
一体どんな旅になるんだろう?
ワクワクは止まらない。
ブゥオオーーー 飛行機が動き出した瞬間だった。
「たさまはんはた、らたらまわなま、たはやほなー、た。やは」
サーが叫んだ。
隣に座る、黒人の名はボビー
彼は思った、こいつ頭大丈夫かと。
飛行機は地上を離れ、どんどん高く飛んでいく
窓から景色を見てる子供達は声を上げる
「最高〜〜っ」
「すごい、車があんな小さく見える」
「なんかプラモデルのおもちゃみたいになっちゃった」
不思議な感覚に酔いしれ楽しんでいた。
そう
この男意外は
「えっ、なにっ、これっ、墜落してない?大丈夫?羽とかもげてない?」
「ちょっとあなた」
「本当に飛べるんだよね、これ?」
「なんで、飛ぶのこんな形で?どうやって?」
妻は思う、絶対に今度は、かなり離れた所に、座席して貰おうと。
景色は雲一色となっていた。
さっそく椅子の前の画面をいじり、映画を見始める冬馬君達
「見て見て大喜、バック・トゥ・ザ・フューチャーがある、最高〜」
「やったー、ツーもあるよ」
その頃
震える子鹿はと言うと。
「もう着いた?ちょっとこの揺れ大丈夫?墜落しないよね」
「あなた、そんなのする訳ないんだから、映画でも観てなさいよ」怒り気味に妻は言う。
「そっ、そうだよね、墜落なんてする訳ないよね、そうだ気を紛らわせよう」子鹿は画面をいじり始める。
その時、微妙に椅子が揺れる
ピクッ 子鹿はピタリと動かなくなる。
そして少し落ち着くと、ゆ〜っくり、そろりと様子を見て、動き出す。
そして、ビミョーに揺れる、ピタッ
この繰り返しである、きっと彼は着陸した時、ようやくスイッチに手が届くんではないだろうか?
そして時は来たッ!!
添乗員さんがなにやら台をひいて歩いてくる。
隆は咄嗟に思った、いよいよ来たッ。
小声で囁く、ビーーフッ、びふっ?
そして質問された
「ウッジューライクサムスィング トゥ〜ドリンク?」
「ビーーーーーーーーーフッ」
「えっ? 嘘っ? ビフ」とテンパった奴は言ったそうな。
「あなた、何飲むかって聞かれてるのよ」
「あっ、なんだぁ」
それが分かっても、なお男は困った事に気付く。
リンゴジュースって英語でなんて言うんだ。
少し怒り気味のスチュワーデスさん。
はやくして下さい、英語でせかされ焦った男は清水の舞台から飛び降りた。
「リィンゴッ ジューチュ」
何故かビールが出てきたと言われている。
隆は前の子供達は大丈夫か心配になり覗き込む
大喜は「これ」と言ってジュースに指差し貰っていた。
その光景を見て男は思った、大喜頭良いな。
その後、飛行機はそこまで揺れず、順調に進んでいる。
しかし、再びその時はやって来たのだ。
緊張する隆。
また乗務員の人が台をひいてやって来た。(こやつにはどう見えているんだ?)
ゴクリ、いよいよ来たな。
ビーーーーーーーーーフッ。
男は息を呑んだ。
時は来たッ
いざじゅんじょうに勝負!!!
「フイッシュ オア チキンッ」
「ビーーーーーーーーーフッ」
「ほわっと?」
「ビフ?」
「パードウンッ???」
「牛」
「にーーく、にく にく 」
何故か魚になったった。
ここでようやく思う、あっ指差せば良かったんだ。
だが安心するのだ隆
蓋がしてあって見えませんから〜〜。
こうして、敗北した隆を乗せた飛行機はバリに向かう。