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マジギレの女神ホイル

女神セイロンからメッセージが届いてます。

『今話は私の当番回です。精一杯頑張りますので応援よろしくです!』

挿絵(By みてみん)



 ここは現実世界と異世界を繋ぐ異世界交流館。死者の中から選りすぐりの魂を召喚し、異世界への橋渡しをすることが主な業務である。建物は日本国でよく見られる公民館のような作りになっており、屋上は女神たちの憩いのスペース、2階は女神たちの居住スペース、1階は主に業務を遂行するための小部屋や情報管理室、そして会議室がある。

 10畳ほどの会議室には、長テーブルとコンピュータ端末、そしてホワイトボード型のモニターが置かれている。いま会議室では長テーブルを挟んで2人の女神が向かい合って座っている。そこから少し離れた場所で3人の女神がその様子を見守っていた。

   


有海(あるみ)さん、有海保入(あるみほいる)さん、起きてください」

「えっ……あ、あれ? ここは……?」

「ここは死後の世界……有海保入さん、あなたはトラックに轢かれて死にました。ご愁傷様です。」


 セイロンはマニュアル通りに毅然とした態度で宣告する。


「私が……死んだ……? うっ、うそだろう?」


 有海保入役を演じるホイルが頭を抱える。

 彼女は完全に役に入り込んでいる。


「えっと……あ、有海さん……大丈夫……ですか?」

「大丈夫なわけないじゃないですか-。私死んじゃったんですよー。どうしてくれるんですか-」

「あ、あの……ホイルさん……私、どうしたら……」


 セイロンはいきなりの問いかけに戸惑い、泣きの一言を吐いてしまった。

 ホイルは役に入り込んでしまってはいるが、鬼ではない。セイロンに進行のヒントを与えることぐらいはする。


「はい? 私は保入だけど『どうしたら』とはどういうこと? そもそもあなたは何者なんだ?」

「あっ……申し遅れました。私は女神セイロン、あなたの担当女神になりました」

「き、君は女神なのか! ではお願いだ、私を生き返らせてくれないか?」

「それはできません! お気の毒ですが……亡くなった人を生き返らせるような力は女神にはありません」


 出来ることと出来ないことをはっきりと伝える。

 これは転生候補者との会話での鉄則の一つ。


「そうか……私は天国へ行けるのだろうか。それとも私にはその資格がないとか? 女神様はそれを見極めるために私をこの場へ呼んだんですか?」

「あっ、いいえ……天国が地獄かはこのあとの段階で審判が下りますので……私はその前の段階の担当女神なんです」


「ええっ!? 天界ってそういうシステムになっていたんですかぁー。こりゃたまげたわぁー! では女神セイロン様の担当は一体どのような?」


 保入役のホイルは声を高揚させて熱演を続ける。

 ブルベリ、レモネード、ネモフィラの3人の耳がぴくりと動く。

 しかしセイロンはただただ、次のセリフを考えるのに必死になっていた。


「有海さん、落ち着いて聞いてください。ここは異世界への転生候補者を選別する担当女神です。今、異世界では強い魔物の侵略をうけて人類が絶滅の危機に陥っています。そこであなたには勇者として異世界に転生し、人類の危機を救ってほしいのですが……いいですか?」


「ほわぁー、ここはそういうところだったのですねぇ、そうですかそうですか。ということは、あなたはこの私が勇者候補として適任だと、そうおっしゃるのですね。一体どのような所が良かったんですか? この私の……」


「えっと……えっと……、トラックに轢かれちゃったところでしょうか?」

「――――えっ!?」


 これは保入としてではなく、ホイル自身の驚きの反応のようだ。

 3人のギャラリーも同様に引いた。


「あっ……ごめんなさい、ごめんなさい! 今のは無かったことにして……えっと……保入さんがヒキニートなところ……?」

「確かに私は引きこもりでニート、さらにはコミュ障ですが……それが勇者として適任であると?」

「そう……ですよ? 私……先輩からそう教わりましたから……」


 確かにセイロンは嘘はついていない。

 しかしこの場で先輩女神を引き合いに出すことは仕事の流儀に反すること。

 自身の信頼を崩しかねない愚かな行為である。

 ホイルは小さく溜息を吐き、ネモフィラを見やる。

 ネモフィラは視線を外し『不干渉』スキルを発動した。

 レモネード直伝の聞こえない舌打ちをし、ホイルは演技を再開する。


「まあいいでしょう……女神セイロン様、しかし私は特別な力などをもたない人間。そんな私が勇者になれるとは思いませんが……も、もしかして……?」

「はい、ご安心ください。有海保入さん、あなたにはご希望のチートスキルを1つ差し上げますので!」


「ほわぁー、チートスキルですかぁー、それは一体どんなスキルなの?」


「あっ、はい。いろいろありますよ? 武器とか魔法とか特殊能力とか……」


「すげぇぇぇぇぇ! その中から1つを?」


「はい、1つだけです」

「どのように選ぶのです?」

「コンピュータ画面をクリックして選んでいただきます」


「コ、コンピューターきたぁぁぁぁぁ! 天界にもコンピュータが導入されているんですかぁぁぁ! 一体どんなシステムを組んで入るんだろうか。コンピュータのスペックが知りたいなぁ、ねえ、教えてくださいよ」


「あっ、えっと……私たちは人間界のシステムを積極的に取り入れて、転生候補の方々の生活環境に近いものにしていますので……最新のスペックになって……」


「ほわぁぁぁ、それはすごい! CPUは何を使っています? ひょっとして京を超えるスペックとか?」


「あっ、えっと……多分そう……です……?」


「京越えキタァ――――!!! って、女神セイロン、あなた適当なことを言うんじゃないわよ――!!!」


「ひいぃぃぃぃぃぃ!」


 女神ホイルがマジギレした。

 セイロンはネモフィラにすがりつく。  

 模擬練習が始まってからすでに10分が経過し、タイムオーバーは確定していた。

女神セイロンからメッセージが届いています。

『わわっ……私の不手際で女神ホイルさんが大変なことになってしまいましたが、本当は優しい大先輩……なんですよ……?』

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