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早口は危険な香り

もうそろそろお気づきのことと思いますが、この小説はとても危険です。

ヒキニートの皆さんは至急退去してください! 怒りが爆発する前に……

挿絵(By みてみん)



 ネモフィラが会議室のドアを開けると、女神たちが拍手で出迎えた。抱きついてきたセイロンはもちろんのこと、その他の女神も目に涙を浮かべていた。

 

「よくやりましたね女神ネモフィラよ。任務ご苦労様!」

 ホイルがネモフィラの肩をポンと叩いた。

「あの、あの……女神ホイル……私はあれで良かったのでしょうか?」

「あれ……とは?」

「えっ? あの……小林さんの……」

「――それはどなたのことです? 私は忘れました」

「えっ……?」

「女神ネモフィラよ、あなたは今までに何人の異世界転生候補を担当しましたか?」

「えっと……37人……いえ、小林さんを含めて38人です!」

「あなたはその1人1人のことをすべて記憶していますか? 詳細に?」

「それは自信がありませんけれど……」

「ならば全てを忘れなさい。中途半端な記憶は不平等な感情を抱く元凶となるの。そしてそれはあなたの身をも滅ぼすことになるわ。いいですか女神ネモフィラよ。私たち女神は常に等しく全ての人間に愛を分け与えることが使命ですよ?」

「はい……わかりました。ごめんなさい私、また調子に乗っちゃっていました……」

「いいえ、謝ることはないのよ。先程の任務は立派でしたよ!」


 ホイルはネモフィラをそっと抱きしめる。

 それを見ていた最年長の女神ブルベリは、ホイルの表情に陰りを見つける。

 ホイルには悲しく、切ない過去がある。

 ブルベリはメンバーの中ではそれを知る唯一の存在。

 しかし今は、昔話に興じている暇はない。


「はいはい、みなさん会議の続きをしましょう!」

 ブルベリは雰囲気を変える意味で手をパンパン叩いて着席を促す。

「そ、そうですね! では再開しましょう。ネモフィラも席に着きなさい」

 そう言いながら、慌ただしく4号室カメラからコンピュータに切り替えるホイル。


 

「先輩……転生させる直前に男の人に何か話しかけていましたよね?」

 ネモフィラが席に着くなり、隣のセイロンが小声で話しかけてくる。

 彼女は小声で話すときは饒舌である。

「あっ、分かっちゃった?」

「分かりますってば! 私は先輩のことは何でも知っていたいんです!」

「な、何でもぉー!? ちょっと愛が重すぎるわよー!」

「せーんぱい、何て言っていたんです?」

「それはぁー、ひ・み・つ!」

「ええ――――!?」

「そこの2人、私語は慎みなさい!」


 ホイルが注意すると、2人は短く悲鳴をあげて、シュンとなり俯く。

 ホイルは小さく咳払いをして、会議を進行する。

 

「さて、まず話題を整理します。議題は『転生候補者の減少をどう食い止めるか』です。転生候補者である『ヒキコモリ』の数は増えているのに転生候補者は減少している不思議。それを解明しなければなりません。そこで質問が出ました。なぜ転生候補者が『ヒキニート』限定であるのか。1つ目の答えはゲームやアニメに詳しいから話が早いこと。そして2つ目は――というところで女神レモネードの任務で中断。その後女神セイロンに2つ目の答えを問いかけました。すると、何と答えましたか?」


「えっと……特定の分野に……並々ならぬ興味を……示す……です……?」

「はい、相変わらず声が小さい、そして頓珍漢(とんちんかん)な回答ですね!」

「ひぃぃぃー!」

 ホイルに睨まれたセイロンはネモフィラにすがりつく。


「いいですか女神セイロンよ。ヒキコモリの転生候補者の特徴の一つ、『特定の分野に並々ならぬ興味を示す』ことは、諸刃の剣なのです。うっかり話を掘り下げてしまったばかりに、収拾がつかなくなる危険があるのです。それについては女神ネモフィラは理解しているようですね?」


「はい。私が先程担当した男性の場合も……危うく時間オーバーになるところでした」

「そうですね。それを分かっていながらあなたは転生候補者の話に聴き入ってしまった。そして感情移入をし過ぎて涙を流してしまった。結果的に転生候補者の心を掴むことに成功し、巧く事が進みましたが、それは偶然です」

「では……私たち女神は……転生候補者の話を聞かずに一方的に話を進めると……いうこと……ですか?」

「そうは言っていません。共感的理解、受容的態度は私たち女神の基本です。ただ、話の進行の障害になるような事を掘り下げてはなりません。そのような愚かな行為を『地雷を踏む』と言います」

「地雷を……踏む……ですか?」

「そうです。本来は相手が触れて欲しくないことを『地雷』と呼ぶのですが、この場合は私たち女神にとって触れてはならないものという使い方をしています。そして相手のその『地雷』がどこに隠されているかの見極めが肝心です!」

「……私にも、できるの……でしょうか……?」

「こればかりは経験を積まないと難しいのですが、一つヒントを教えましょう。相手が急に早口になる、それは地雷の兆候です!」

「早口……ですか……」

「…………やってみましょうか?」

「えっ……?」

「ここで模擬練習をやってみますか? 女神セイロンよ」

「い……良いんです……か? 貴重な会議の時間を……いただいても……?」

「会議も大事ですが、若い女神であるあなたを教育することも大切なこと。良いですよ、私が相手をして差し上げましょう!」


 ホイルの提案に女神たちは一様に驚きの表情を浮かべた。


次回、女神ホイルの地雷を踏んでしまったセイロンが大変な目に……

セイロンちゃんに励ましのメッセージをお願いします。感想欄へ……

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