ビバ・ヒキニート
女神レモネードから読者の皆さんへメッセージが届いてます。
「私の活躍見てくれた? これからもよろしくね、おにいちゃん!」
女神レモネードが会議室に戻ると、クラッカーが炸裂する。さながら祝勝パーティーのように、レモネードの頭上から紙テープや紙吹雪が降り注いだ。
「さすがね女神レモネード! 見事なお手並みだったわよ」
「先輩、お疲れ様ですっ!」
「期待の新星の二つ名の本領発揮ね!」
「お、おめでとう……ごさいます……」
皆からの祝福を受けて、満更でもない様子のレモネード。
女神セイロンは彼女の髪の毛に引っ掛かった紙テープなどを甲斐甲斐しく取り除く。
やがて興奮が冷めてきた頃、セイロンは床に落ちた紙テープや紙吹雪の残骸を手で集め、ゴミ箱へ捨てる。新入り女神にはこういう気遣いは欠かせない。それが仕事の流儀。
女神ホイルはモニターを無人の3号室の映像からコンピュータ画面に切り替える。
「さてみなさん、会議を再開しましょう!」
女神ホイルがそう言いながら、重役椅子に腰をかける。
続いて他の4人もそれぞれの席に着く。
「あれ? 会議って何を話し合っていたんだっけ?」
女神ネモフィラがそう呟くと、参加者からため息が漏れる。
彼女は悪い女神ではないのだが、頭が冴える方ではない。
「先輩、私たちが選ぶ転生候補者がなぜヒキニートなのかという話題ですよ」
女神セイロンが小声で伝える。小声の時は彼女は饒舌である。
「ああー、はいはい、そうでした! で、どこまで進んだっけ?」
ネモフィラの呟きを聞いて、ホイルはため息交じりに発言する。
「仕方ありません。ここで内容の整理をします。まず議題は『転生候補者の減少をどう食い止めるか』です。その転生候補者はヒキニート。このヒキニートとは『ヒキコモリ』の同義語として定義します。つまり、転生候補者の減少はその『ヒキコモリ』の減少が原因ではないかと疑いました。でも『ヒキコモリ』の数は減っているどころか年々増加傾向にあると判明しました。そこで私たちは行き詰まります。その時、ある人が何でヒキコモリだけが対象者なんですかと質問しました。話がどんどん横道に逸れているわけですね。分かりましたか? 女神ネモフィラよ!」
「あっ、はい。大体分かりましたけど……今、議論は横道に逸れているんですね?」
「はい、逸れに逸れていますよ。逸れまくりです!」
「ある人のせいで……」
「そうですね、ある人のせいです!」
「申し訳ないですけどぉ、その人を省いて進めた方が良いんじゃないです? 皆の幸せのために」
「――そうですか。ではそうしましょう。女神ネモフィラよ立ちなさい!」
「えっ? あ、はい……」
「そのまま後ろに下がって立っていなさい!」
「えっ? あ、はい……」
「では会議を再開しましょう――」
「えっ? えっ? ええ――?」
会議室の入口付近に1人立たされたネモフィラはようやく気付いた。
話を横道に逸らした張本人が、超本人であることに――
泣いて謝るネモフィラだが、女神ホイルは『不干渉』スキルで躱す。
「では、本題に戻る前に、彼らヒキニートがゲームやアニメに詳しいことの他に、我々女神にとってどんな利点があるのか共通理解していきましょう」
女神ホイルの言葉を聞いて、ネモフィラはふと泣き止んだ。
女神ホイルは自分の疑問にさりげなく答えてくれようとしている。
怒られていることには変わりないのだが……
「女神セイロン、どう思いますか?」
「えっ? わ、私は……見当がつきませんけれど……」
「それでは困ります。いま考えてみてごらんなさい」
「あっ……ある特定のことに……並々ならぬ好奇心が……ある……こと……?」
「はい、それは先程の3号室の男もそうでしたね。そしてあなたの目は節穴ですか!?」
突然声色を変えて凄むホイル。
「ひぃ――っ!」
隣のネモフィラにすがり付こうとするがそこは空席である。
「あ……わわわ、私としたことが……はしたない声をあげてしまいました。ホイルちゃん反省! てへっ?」
恐らく3号室のレモネードの様子に感化されたのであろう。
誰得? という仕草を真っ赤な顔をしたホイルが収める。
女神ホイルは咳払いをする。
「女神セイロンよ、先程の3号室で男がタッチパネルに並々ならぬ興味を示しましたがその間、女神レモネードは何をしていましたか?」
「えっと……目を……瞑って……いました……?」
「そうです。見事な『不干渉』スキルを発動していましたね! それを見てあなたはどう思いました?」
「えっと……何で話に乗ってあげないのかな……と……思いました……」
「はぁー…… これであなたの成績がなぜ低迷しているのかが分かりましたよ。女神ネモフィラよ、教育係として説明してあげなさい!」
「えっ? 私が発言しても?」
突然ホイルに話を振られたネモフィラは戸惑う。
ネモフィラを退場させてしまったことを忘れて、いつもの調子で話を振ってしまったホイルも慌てる。
微妙な空気が会議室に漂うその時――
『きゅいぃぃぃん……きゅっきゅっ……きゅいぃぃぃん……きゅっきゅっ……』
コンピュータから例の信号音が鳴り始めた。
次回は女神ネモフィラが活躍する……かしないかは、皆さんのブクマにかかっています。(ウソです)