緊急会議始まる
遠慮無くブクマしていただいてもいいんですよ?
ここは現実世界と異世界を繋ぐ異世界交流館。死者の中から選りすぐりの魂を召喚し、異世界への橋渡しをすることが主な業務である。今、とある問題が発生し、女神5人による緊急会議が開かれていた――
「では、今日の議題ですが、こちらのグラフを見てください」
司会役の女神ホイル――銀色のストレートヘア、推定Cカップ――がホワイトボード型モニターに映し出された棒グラフを指示棒で指す。指示棒の先端には銀色に輝くハートマークが付いている。
「これは私たち女神が日本国から魂を導き、異世界へ転生させた人数の月別推移です。ここ数年来、右肩上がりに数を伸ばしてきましたが……今年に入って急激に数を減らしています」
会議室内がざわつき始める。
最近の異世界転生者数の低迷を可視化されることで動揺しているのだ。
「はいはい、皆さん静かに! 女神ホイルさんの説明を聞きましょう」
最年長でリーダー役の女神ブルベリ――真っ赤な口紅を塗った紫色のパーマヘアー、推定Dカップ――が手をパンパン叩いて注意をした。彼女は参加者の注目が集まったことを確認し、女神ホイルに説明の続きを促した。
「ありがとうございます女神ブルベリ様。さて、このままでは日本国からの優秀な人材をスカウトするという私たち女神の通常業務に支障が出ることは必定。最悪、リストラも覚悟しなければなりません!」
再び会議室内がざわつく。
女神ホイルは咳払いをし、説明を続ける。
「女神のリストラなど、前代未聞の事態です! そこで今日はその対策を話し合いたいと思います。質問のある方は?」
10畳の広さの会議室の入口付近に座る、5人の中では最も若い女神セイロン――赤毛の天然パーマヘアー、推定Bカップ――がすっと手を挙げ質問する。
「あの……それって……日本国において……ヒキニートが減少している……ということでしょうか……?」
「女神セイロンよ、貴女はもう少し堂々と声を出しなさい。そんなにオドオドしているから、転生候補の人間を魅了できないのですよ?」
「そうそう、セイロンちゃんの担当した転生候補は、ほとんどが異世界転生でなく天国行きを希望しちゃうものね。あっ、でもこの間のロリコン男はセイロンちゃんに抱きついちゃって地獄に堕ちたけどねぇ、あっはっはっは――あっ、ごめんなさい……」
話に横やりを入れててきたのは女神ネモフィラ――青い髪のポニーテール、推定Cカップ――である。彼女はお調子者だが決して悪い女神ではない。
女神ホイルはまた咳払いをし、女神セイロンの質問に答える。
「日本国に於いて引きこもりのニート人口は増えています。ろくに仕事に就くことなく自宅でゲームやアニメに没頭している若者は年々増加の一方なの。なお、私達の言うヒキニートとは学校に通わずゲーム三昧の学生も含んでいるから、相当の人数が潜在しているはずなのよ!」
女神ホイルは拳を突き上げ熱弁した。彼女は温厚な性格の女神。しかし研究熱心であるが故に蓄えた知識をひけらかしたいという欲求がこういう場面で爆発してしまうのだった。
「日本国に於いてぇー、ヒキニート人口はぁー、増えているにも関わらずぅ-、異世界転生候補者がぁー、減っているぅ……なぜなんでしょうー?」
女神レモネード――黄色い髪のベビーフェイス、推定Aカップ――が口元に人差し指を当ててこくりと首を傾げた。
会議室に集まった女神達は一様に考え始める。しかし、ヒキニート人口の増加と転生候補者の減少という、相反する状態を説明できる女神は現れない。
「あの……私……前から疑問だったのですが……なぜ……ヒキニート……なんですか……? 普通の……人じゃ……だめ……なん……で……すか……?」
最も若い女神セイロンがおどおどしながら呟いた。
「はぁ-、女神セイロンよ……貴女はそんなことも分からずに転生業務に従事していたというのか……女神ネモフィラよ、女神セイロンの教育係としてきちんとこの場で説明してあげて」
先程の熱弁の勢いで立ち上がっていた女神ホイルが、額に手をあてて重役椅子に座り直す。背中の白い羽がパサリと音を立てて背中に収まった。
説明役に指名された女神ネモフィラはあごに手を当て思案する。
「うーん、何から説明したら良いんだろう……あっ、そうだ! セイロンちゃんはヒキニートと聞いてどんなイメージがあるの?」
「えっと……暗くて……じめじめしていて……きしょい……イメージ……?」
「……あんたそれ、転生候補者が聞いたらみんな泣いて帰っちゃうわよ!? そうじゃなくて、もっとポジティブなイメージで!」
「あっ……はい……えっと……ゲームやアニメ……のことに……詳しい……です?」
「そうそう、大変良く出来ましたセイロンちゃん! ぶっちゃけ、異世界のルールの説明が省けて助かっちゃうのよねー、ヒキニート相手だと」
「あっ……そうか……」
「…………」
「あれ……? それ……だけ……?」
「うん!」
「ちょっとお待ちなさい女神ネモフィラさん!」
リーダー役の女神ブルベリが口を挟む。
「それだけが理由なら何もヒキニートである必要はありませんことよ? 社会適合者にもゲームやアニメ好きな人達は沢山いますわよ?」
「――うっ、ご、ごめんなさい、女神ブルベリ様……でも、私は今までそのように理解していましたので……」
「仕方がありませんね。女神ホイルさん、私が説明してもよろしいですか? それとも貴女が――」
「はいっ、私が説明いたします!」
女神ホイルが女神ブルベリの問いかけに喰い気味に返答した。
立ち上がった彼女の白い翼は誇らしげに揺れている。
「女神セイロンよ、ヒキニートは『ヒキコモリ』と『ニート』を合わせた造語であることは知っていますね? では、そのヒキコモリとはどういう意味でしょう?」
「えっ? あの……インドア派……?」
「違います! それではただのお家が好きな人になっちゃいますね。では女神ネモヒィラはどうですか?」
「あっ、はい、えっと……外に出るのが嫌になった人?」
「それではただのものぐさですね!」
「ええっ? じゃあ、ヒキコモリって一体――」
「――仕方ありませんね……では、私が解説しましょう!」
女神ホイルが誇らしげに背中の翼を揺らして一歩前へ出た。
「彼らは自らの意志で家に引き籠もっているわけではありません。外に出ることに恐怖心を抱いているのです! 気付いた時には外に出たくても出られなくなっているのです!」
「そ、そうなんですか? 一体どういった理由で?」
「良い質問ですね女神ネモフィラ。しかしそれはケースバイケース……人それぞれなのです。例えば近所付き合いが苦手な人間、例えば職場の人間関係が上手く出来なくて失敗した人間、例えば学校で嫌なことがあって不登校になった人間などです。ところで今挙げた3つのケースですが……すべてに共通する要素があることに気付きませんか? 女神セイロン、どうですか?」
「あっ……はい……ひ、人付き合いが……苦手……ということ……ですか……?」
「その通りです! そしてそれを一言で表す便利な言葉が――」
「あー、私それ知っています! 『コミュ障』ですよね!?」
「そう、『コミュ障』です。女神ネモフィラよ、よく分かりましたね!」
「えへへ……この間異世界に転生した勇者候補が言っていたんですよ。自分はコミュ障だから自宅警備員を仕事にしていたんだって……」
「はい、ものは言いようですね! 時々貴男は本当にコミュ障なんですかと聞き返したくなるほどのヒキニートがいますね。でも仕方がありません。私達は女神……すべての男性に愛を与える存在でなければなりません」
その時、女神ホイルは自己陶酔に浸っていた。
背中の翼が小刻みに震えている。
リーダー役の女神ブルベリが立ち上がり、
「はいはい、皆さん。大事なことを忘れてはいけませんよ? 私達女神がヒキニートを対象にしているのは、彼らがゲームやアニメに詳しいからということもありますが、それだけでは敢えてヒキニートに限定することはないのです。もう一つの理由があるのです! それは――」
「それは――」
『きゅいぃぃぃん……きゅっきゅっ……きゅいぃぃぃん……きゅっきゅっ……』
女神4人が固唾を飲んで聞き入った瞬間、コンピュータから信号音が鳴った。
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