第14話 王妃の意外な秘密
「・・・さい、ごしゅ・・・、起きてくだ・・・」
「う、ん?」
ゆさゆさと揺すられる感覚とともに、俺は目が覚めた。
「ティアにポプリ?」
「やっと起きてくれました♪」
「ふん、もうちょっと遅かったら無理矢理起こさないと行けなかったんだからね」
どうやら、かなりの時間を寝ていたらしい。
窓から見える外の景色はすでに夕暮れ時であり、あと2時間もすれば真っ暗になる時間帯だ。
「ふぁ~、ずいぶんと寝ていたようだ。君達は大丈夫だったかい?」
「はい、私とポプリちゃんも先ほど目を覚ました所ですので大丈夫です」
「あそこまでハードな修行はもう二度とやりたくないわ」
どうやら、とても不評だったみたいだ。
それも当然で、毎日が眠くて疲れる訓練なんて精神的にはとてつもなく、俺自身も負担の大きい訓練だった。
「こんな訓練は二度としないが、それでも有意義な時間にはなったはずだよ?」
「そうね。レベルも3桁になったし、今は向かう所敵なしって感じだよね」
「はい。それに沢山の収穫もありましたし」
ティアが言うように、この1ヶ月間で多くの魔物を倒したために多くの素材やら換金アイテムが空間魔法に収まっている。
その数は希少なものも含めて4桁に達しているため、換金するとかなりの額になることが予想される。
そのため、軽く夕食を食べてから小さいものは種類ごとに仕分けていき、大きいものは解体して毛皮や肉、骨などに分解していった。
~~~~~~
「大金貨6枚と金貨9枚、そして大銀貨7枚になります~」
「はい、どうも~」
冒険者ギルドで換金してもらったのだが、数が多かったために3時間ぐらいは掛かると言われたので、ティアとポプリに買い物に向かわせた。
理由は、1ヶ月ぶりの町なので消耗品の補給と同時に娯楽も兼ねている。
彼女達は強くなったとは言え、12歳の少女なのだから今のうちに色んなことを知っておいた方が良い。
そんな訳で、換金アイテムでかなりの額のお金が入ったのだが周囲の冒険者からは「大金貨を手渡される場面なんて初めて見た」とか「あそこまで魔物からでる素材をきれいに解体したのを見るのは初めてだ」などとざわめかれた。
こんな出来事はいずれ、日常の風景になるだろうから今しか見れない光景だな。
それはともかく。
鑑定のためとは言え、3時間もギルドで待たされたから息抜きがてら表に出て、外の空気を吸いながら背伸びをしたら切羽詰まった声でティアに声を掛けられた。
「セレナ様!」
「あぁ、ティアか。そんな慌ててどうしたの?」
「ぽ、ポプリちゃんが!ポプリちゃんがぁ!」
「1回、深呼吸して。いいな?」
「は、はいぃ」
俺がそんなことを言うと、ティアは涙目になりながらも徐々に落ち着きを取り戻していった。
彼女が落ち着いたのを見計らって、俺はティアに現状を聞いた。
「それでポプリがどうしたの?」
「人攫いに攫われました~」
「人攫い?一体、何故に?」
「理由はわかりませんが、気が付いたら私は押し倒されていてポプリちゃんが連れ攫われたんです~」
なるほど、魔物相手との正面からの戦闘には慣れたが不意打ちなんかの訓練はやってこなかったからな。それで、対処できずに攫われたのか。
「ティア、私達の魔力は膨大だ。だから魔力探知などで移動先なんかも辿れると思ったのですが?」
「あ、そっか・・・」
「焦ってて気が付かなかったんですね」
「はぅぅ・・・」
「まぁ、誰だって急に非日常のことが起きれば多少は焦るから気にする必要は無いわ」
俺がそう言うと、ティアはホッとした顔で完全に落ち着いたので、2人同時に魔力探知でポプリの探索を行う。
それと、俺は共感覚というものを魔力を使って行う。
これは本来、視覚や聴覚、嗅覚や味覚と言った別々に機能している感覚をつながっているもので、緑色をした物体を見たらブロッコリーの味がしたとか、明るい音楽を聞いたら甘い匂いがした、などが上げられる。
共感覚自体は生まれてから成長する間に失っていく機能なのだが、大人になっても持っている人は元の世界では少なからずいるが日常の生活では不自由がないらしい。
今回の場合、ポプリの魔力に色と匂いをつけて色の遠近感や匂いの強弱で、視覚以外でも彼女の位置を探ることにした。
すると、
『固有スキル「共感覚:LV--」を覚えました』
というアナウンスとともに、魔法を使わなくても視野には色んな色が見えて鼻からは様々な匂いがしてくる。
その中で、ポプリの色が鮮明に見える方向がある。
「こっちのようだね」
「はい、そうですね」
俺とティアが同じ方向を向いて、その場所に急いで向かった。
~~~~~~
「なんだこいつ!話とちが、ぎゃああああ!」
「なんてつよ、ぐはああああああ!」
「悪かったから話をきい、ひぎぃいい!」
一方、ポプリを襲った人攫い集団は悲惨な結果になっていた。
理由は単純で、ポプリのステータスが異常に高いせいだからだ。
その結果、人攫い集団はものの10分で壊滅の一途を辿っていた。
~~~~~~
「ここか」
「そうですね」
視点は変わってセレナ達の方はというと、魔力探知によって人攫い集団のアジトに向かうと何故か見張りが立っておらず、好き勝手に入ってどうぞと言わんばかりにドアも開いている。
「ティア、慎重に行こう」
「はい・・・」
俺達が建物の中に入ると、むせかえるような血生臭い匂いがしたため、共感覚のスキルをオフにした。そうしないと、味覚の方もおかしくなるからな。
そして俺達が慎重に奥に進んでいくと、体や腕を真っ二つにされた人攫い集団の死体が複数体あった。
どうやら手遅れかもしれないと思いつつ、さらに奥に進んでいくと血塗れになったポプリの姿があった。
「ポプリ!?大丈夫か?」
「ポプリちゃん!?」
俺達がその姿を確認して近寄ると、彼女の足元には多数のできたばかりの死体が落ちていた。
「セ、レナ様、ティア。う、うわああああああああ!」
俺達の声に気が付いたであろうポプリは、俺やティアの姿を見るとすぐに泣き出してしまった。
それも当然で、自衛のためとはいっても12歳にして人を殺めてしまった、という事実は彼女の心に深く突き刺さってしまった。
「すまない。私の完全な失態だ」
俺はそう言ってポプリを抱きしめると、彼女は恐怖から逃げるかのように俺に縋り付いて泣き続けた。
~~~~~~
「それは本当かい!?セレナ!」
「あぁ。ポプリの話では、人攫いの集団が彼女を攫った理由がマコト王妃から多額の金をもらったからとの話だそうだ」
ポプリ救出から2時間後、ちょうど昼過ぎの時間帯だったためにギルマスであるニーナと、今回の件で話し合っている最中だ。
人攫いの集団が、ポプリを攫った理由は俺を無理矢理従わせるために大量のお金で彼らを雇って攫ったとのことだった。
確かに、ポプリが弱かったら従うしかなかったが今の彼女を抑えるには俺ぐらいのステータスがないと不可能と言っていいだろう。
とは言え、今のポプリに戦わせることは不可能なほど情緒が不安定になっていて、ティアが付き添っている。
「むむむ、となればギルドとしては厳重な抗議をするしかないな」
「それ以上のことはできないのか?」
「それ以上のこと?」
「例えば王族を・・・するとか」
「無理だな。現状では手掛かりになるものがない」
「・・・そうか」
俺としては、すぐに首謀者を殺しそうな勢いの怒りを感じたんだがな。
とは言え、ニーナによるとマコトは王室に入る前から冒険者として問題があったようで、快く思っていないギルドメンバーは今でもいるらしい。
そのため、一番効果的な場面でこれまでの問題行動を叩きつけるように計画を練っているそうで、現段階では行動を起こさないでほしいとのことだった。
「理由は分かった。ただ・・・」
「なんだい?」
「ギルドの方で動かないようだったら、私個人で起こすつもりだからそのことは頭の隅にでも残しておいてほしい」
「わかった」
俺がそう言うと、ニーナは了解と了承を示してくれたので、ティアとポプリがいる部屋に向かった。
~~~~~~
「ふむ、やはりセレナは強いな」
今の彼女は、身内に何かがあれば速攻で叩き潰す勢いの感情の塊があり、それを躊躇なく出しているから私ですら腰が抜けそうだった。
これは、王室の方を早く何とかしないと彼女自身が、己の怒りで自分を燃やし尽くしてしまう。
「それにしても、セレナもそうだがティアとポプリもかなり強くなっていたな」
(あのレベルの冒険者に喧嘩を売るとは、王室も馬鹿になってしまったかな)
私はそう思いつつ、計画の実行を急がせるように指令を出した。