動輪
さて、蒸気機関車の動輪というものを思い浮かべることはできるだろうか。そう、あの錘がついたでっかい車輪である。わからん人向けに写真を添付しておこう。
これは近代万能機関車C58形の動輪で、直径1520mmだ。さて、なぜこんなに大きいのだろうか。
答えは簡単。どうしても回転数が少ないからである。大体蒸気機関車における常用回転数は300回転/分である。空転しないとして、300回転/分の時、速度は以下のようになる。(円周率を3.14で計算)
D51等1400mmの場合:79.128km/h
C58等1520mmの場合:85.9104km/h
C57等1750mmの場合:98.91km/h
である。そもそも貨車の構造的に65km/hしか出せない(除く急行貨物)とか、そもそも線路側が柔で100km/hを越えることが稀とか言う時代には十分すぎる性能が出せる。回転数が低いから大きくする、これは自明之理である。
今度はなぜ錘がついているのか、である。これは簡単なことを言ってしまえば、蒸気機関車のあの大きなロッドと重さを釣り合わせるためである。そうでなければ揺れが激しくなるし、回転が不均等になる。本来は回転部分だけでなく、往復部とも釣り合わせねばならないが、そんなん知らんとかしてしまった9600形は機関士らが投げ出されることを覚悟せにゃならんほどだったとも言う。
この錘が引き起こす現象に『ハンマーブロー』というのがある。この大きな錘が回転していると言うことは、巨大なハンマーで線路をぶん殴ってるも同然ということである。当時の線路が柔、と先ほどのべたが、どちらかと言えばこのハンマーブローが問題だったのである。だから、日本の蒸気機関車はこの釣り合いが30%程度となっている。機関士らの乗り心地を捨てたのである。結果はやたらたと揺れるということだ。9600やC58は根本的な問題があるのだが、他も大概である。蒸気機関車のなかで一番揺れが少ないのはC11、C12であるが、もしかしたら今、やたらと動態保存でC11が多い理由の一つかも知らん。本線特急用機関車で一番なのがC62であるが、それに関しては後で参考動画のアドレスつけとくから参照をおすすめする。
よく見れば錘が軸中心からずれているとか、なかなか話はつきないが、その辺は省略しよう。長くなる。
この動輪の外周、白いところをタイヤという。そう、タイヤなのである。鋼鉄の。このタイヤを外し、残るところが『輪心』、自動車のホイールに相当する。このタイヤ、当然交換がある。その交換は、とにかく手間がかかる。なにぶん焼嵌めである。この場合、焼嵌めとはタイヤをあぶり、熱膨張させ、そこに輪心を嵌め込み放置すれば、タイヤが冷えて縮み、しっかりと固定されると言うものだ。タイヤ固定用のピンもある。外すのは簡単で、車輪を吊るし、回しながらひたすらひたすらバーナーでタイヤをあぶり続ければ、そのうち熱膨張でタイヤが緩んで抜け落ちる。
輪心は大きく分けて二つの種類がある。一つがスポーク、もう一つがボックスである。スポークの方が走行性能は高いのだが、整備性や強度に劣る。ボックスは整備性や強度に勝るが走行性能は劣る。ヨーロッパではスポークがずっと主流であるが、アメリカやソ連、中共、日本ではボックスが主流である。ちなみにボックスの方が安く軽い。上の写真の動輪はボックスである。錘以外は完全とは行かないが、割りと中空構造となっている。
参考動画
https://m.youtube.com/watch?v=ugmXS2NrgHY