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泣く子

作者: will
掲載日:2016/04/01

 道端で女の子が泣いている。声を上げてはいないものの目は充血し頬には涙が通った筋が何本も通っている。

 声をかけようか悩むがこのまま放っておいてもどうもならないだろう。

 「こんにちは、お母さんは?」

 「っく、っくおかあ……さんに待っててって……っくひっく」

 オレの頭の中に嫌な考えが浮かんだ。でも本当にそんなことをする親などいるのだろうか。

 「お母さんどっちに行ったの?」

 女の子の細い指が指した方には駅がある。またオレの頭の中には嫌な考えが浮かんだ。

 ひっくひっくと泣きながら女の子は自分の顔を丁寧に拭く。

 このままどうしたらいいのだろうか。声をかけたからにはどうにかしなければいけないし、かといって家に連れて帰るわけにもいかない。

 多分このまま待っていてもこの女の子の母親は戻ってこない。

 この子はいつからここにいるんだろう。もう時間は三時を過ぎている。

 「お腹空いてない?」

 「空いた。なにか食べたい」

 「ハンバーガー食べれる?」

 「うん」

 オレは女の子の手を取りハンバーガー屋へ向かう。徒歩十分程度でも女の子は途中で歩くのをやめようとした。かなりお腹が空いているらしい。最後はオレがだっこした。

 子供用のセットと照り焼きバーガーを頼んで、椅子に座る。

 いただきます、と女の子は小さな手を合わせハンバーガーを口にする。小さな口からはハンバーガーが溢れてしまいそうだった。

 「どれぐらい前から待ってたの?」

 「わかんない。でもいつも幼稚園に行く時間ぐらい」

 「じゃあ朝早いんだね。朝ごはんは?」

 「食べた」

 「おうちはどこなの?」

 「幼稚園の近く」

 女の子が答えた幼稚園名はかなり遠いところで徒歩では帰りにくい。

 「おにいさん名前なんて言うの?」

 「松って呼んで」

 「松さん。夏っていうの」

 「夏ちゃん?」

 「うん」

 「いい名前だね」

 「夏は下の名前じゃないの、上の名前なの」

 「名字に夏がついているんだ。何歳?」

 「五歳。松さんは?」

 「十七歳だよ、高校二年生」

 「高校生って大人だね」

 オレも幼稚園の時は高校生はとても大人だと思っていたなあとしみじみする。実際は全くそんなことなくほとんど変わらないまま年だけとった。

 「あ、上のパンだけ食べちゃった」

 中の具と下のバンズはまだまだあるのに上のバンズだけほとんど無くなっている。

 「いつもこうなるの、なんでかなあ」

 そんなところが幼稚園児らしいというか不器用でかわいい。小さい口をずっともぐもぐと動かしいているところも小動物のようで愛らしい。

 夏ちゃんは母親との二人暮らしなのだろうか。そうだとしたらこれから夏ちゃんはどうなるんだろう。

 「夏ちゃんお父さんはいる?」

 「うん、いるよ。今お仕事行ってる」

 「そっか」

 じゃあ大丈夫だと安心したけれど、それで本当に大丈夫なのか。

 「これからどうするの?」

 今までとは違い不安そうな声色だった。

 そうか、この子はわかっているのか。そりゃそうか。わからないわけがない。幼稚園児とは言っても五年も生きているんだ。

 「おうちの鍵は持ってないよね」

 「うん、持ってない」

 家の鍵を持っていれば家まで行って父親の帰宅を待てばいいのだけれど、持っていないのであればそうもいかない。警察に連れて行くべきなのだろうか。でも警察に連れて行けば施設に連れていかされそうなイメージがある。夏ちゃんには父親がいるからそうはならないのだろうか。

 一度家に連れて帰るか。それぐらいしかオレの脳では手段が出てこない。幸い今日は母親も仕事に出ているので家族には知られない。

 「オレの家に行こう。お父さん何時ぐらいに帰ってくるかわかる?」

 「だいたい九時ぐらいだと思う。私は寝ているからわからないけれど」

 トレイを返してオレと夏ちゃんは店を出る。

 「おじゃまします」

 夏ちゃんは丁寧に靴揃えて、ゆっくりと階段を上る。一段一段上っている姿がかわいい。

 「迷惑かけてごめんなさい」

 「全然いいから。ジュース飲む?」

 「うん」

 オレンジジュースを渡せば夏ちゃんは嬉しそうにごくごくと飲んだ。夏ちゃんに合わせてなっちゃんジュースをあげた。

 「松さんの将来の夢はなんですか」

 「学校の先生になりたい。夏ちゃんは?」

 「お嫁さんになりたい。お料理が上手くて、お掃除もできるお嫁さんになりたい」

 きらきらと目を輝かせて言う夏ちゃんにオレはなんといっていいのかわからなくなった。他の女の子が同じ台詞を言えば微笑ましくて叶うよ、と言う事ができる。でも夏ちゃんの場合それを言う事がなんとなくできなかった。

 「じゃあたくさんご飯作らないとだめだね」

 「うん」

 無邪気に笑う夏ちゃんになんとなく救われた。

 夏ちゃんの父親が帰ってくるであろう時間までオレと夏ちゃんは色々なゲームをして遊んだ。意外とマリオが得意でびっくりした。家でたまにやっているらしい。

 そろそろ時間かな、と思ったときオレは夏ちゃんの手を取り家を出、バスに乗り夏ちゃんの家に行った。夏ちゃんの家はどこにでもある普通のマンションの一戸だった。インターホンを押すとまだ若そうな男性が出てきた。

 「こんばんは、夏ちゃんが道端で泣いていたので声をかけて預かっていました。勝手なことをしてすみません」

 「本当にすみません、ご迷惑をおかけしました。この子の母親とは離婚する事になったんです。まさかこんなことをするとは。本当にすみませんでした」

 夏ちゃんの父親は深々とオレに向かって頭を下げた。

 夏ちゃんはそれを少し悲しそうな顔で見つめていた。

 「気にしないでください。勝手にやったことなんで。夏ちゃん素敵なお嫁さんになりたいそうです。夏ちゃんを大切にしてあげてください」

 今度はオレがゆっくりと頭を下げた。 

 数時間だが一緒に過ごした少女がこれから笑っていられますように。

 「ばいばい、松さん。また会おうね」

 「うん、またね」

 夏ちゃんは小さな手を振る。オレも手を振り返した。

 素敵なお嫁さんになってね。

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