ただ君を手に入れたくて
甘くないですので、甘いのとか溺愛系をお望みでしたらお戻りください。
初めて出会った瞬間に恋に落ち、手に入れたいと願った。
それは決して適うことのない願いだった。
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「どこだ・・・ここ?」
僕は煌麟と一緒に城を抜け出して、二人で空を駆けていた。
煌麟は途中で気が向いた方に一人で駆けて行き、僕も散歩のつもりで適当に駆け回っていた。
そしてそこに辿り着いた。
一面が色とりどりの花に溢れた、花の楽園。
今まで見たことのない極彩色の景色に一瞬呆けたくらいだ。
そして僕は彼女に出会ったのだった。
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「だぁれ?」
突然聞こえた声に僕は意識を取り戻して、振り返った。
そこにいたのは、白金に輝く髪を緩く編み上げて色とりどりの花で飾り、白い衣装を緩やかに風になびかせた幼い少女。
キョトンとした表情で僕を見つめた瞳は、黄金色。
その色に僕はきっとその瞬間囚われたんだろう。
「お兄ちゃんだぁれ?迷子になっちゃったの?
ここは母さまのお庭だから、許可なく入ってきちゃダメなんだよ?大人の人達に怒られちゃうよ?」
「母さまの庭??」
「うん、そうだよ。
えっと・・・ほうじゅにょしんの庭だから、許可なく誰も入ってはいけないって兄さま達が言ってたよ。」
そして僕はその言葉で、ここがドコなのかを理解したんだ。
【宝珠女神の庭】・・・それは僕達麒麟族が永きに渡り手に入れたいと願う天空の世界、その世界の中央に位置する天央神殿に住む龍族の王の一人が宝珠女神と呼ばれる女性。
つまりココは、その天央神殿の庭ということになるのだ。
「玲龍。」
「あ・・・母さま!えっと・・・迷子になっちゃったお兄ちゃんがいるよ?」
そして驚いて固まっている僕をさらに打ちのめす状況に陥っていた。
まさにこの庭の主である、彼女の母親がそのときやってきたのだから。
「玲龍、兄様達が待っているわ。お部屋に戻りなさい。」
「でも・・・」
「大丈夫、この子は私が帰してあげましょう。」
「うん。お兄ちゃんまたね。」
母親の言葉に安心したのか、笑顔で僕に手を振って彼女はその場から去っていった。
そして残された僕は、絶望の淵にいた。
敵対する龍族の王の目の前にいるんだから、当たり前だったと思う。
「麒麟の子よ。よく無事にこの庭に入ってこれましたね?
まぁあなたの顔を見れば、何も知らずに入ったことがわかるけれど・・・
ここがどこかわかっていて、悪意を持って入ろうとしたならば、あなたのその身は無事には済まなかったことでしょう。
一度だけ見逃してあげましょう。
自分の世界にお帰りなさい、そしてここで見たことは忘れてしまいなさい。
それが恐らく、あなたにもあの子にも、そしてこの世界のためにもなるでしょう。」
そう言って、彼女の母親は僕を誰にも内緒で結界から外に出した。
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僕は城に戻って冷静になってから理解した。
彼女が僕達とは敵対する龍族の姫であることを・・・
どれだけ手に入れたいと願っても、決して手に入ることがない存在だということを・・・
そして二度と彼女の瞳に僕が映ることがないということを・・・
「僕の手に入らないなら・・・いっそ壊してしまおうか。」
「漲麒何か言った?」
僕の呟きに、双子の妹の煌麟は首を傾げた。
「龍族を倒してしまおうかって言ったんだよ。
手に入らないなら、全部壊してしまおうか・・・ってね。」
「あら、いいわねそれ。
龍族と戦うなんて楽しそうだわ。」
僕の言葉に、煌麟は楽しそうに笑う。
僕達麒麟族がいつも地上で見上げるばかりの天上の世界。
手に入れられないなら、全て壊してしまえばいい。
例え彼女が死ぬとしても、手に入れられないなら僕がこの手で殺してあげる。
「楽しみだよ・・・愛しい君がこの腕の中で僕を見つめて息絶える瞬間が・・・」
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そして、世界は混沌の渦に飲み込まれる。
全ては人族の知らぬ遥か遠き過去の話。
龍族と麒麟族、そして鳳凰族までも巻き込んだ三つ巴の争いはそうして幕を開けたのだった。
その争いは共倒れで唐突に終わりを告げ、そして悠久のときは巡る。
彼の願いは唯一つ、彼女の心を手に入れたかっただけ。
それが適わぬとわかったとき、全てを道連れにして世界を壊そうと思った。
今はもう誰も知らぬ物語、悠久の過去の話。
昔書いた長編を編集してたら、プロローグ的な話が書きたくて突発的に書いた話です。
この話自体はアンハッピーエンドです。
本編では話的にはハッピーエンドだとは思うけど、誰も両思いじゃないし恋愛面的にはアンハッピーエンドかなと思います。
本編はそのうち・・・公開すると思います。