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第8話 失敗

 パチッ


 薪の爆ぜる音で目が覚めた。


 椅子に座って寝ていたせいで、身体の節々が痛い。


 どれくらい寝ていたのだろう。暖炉の中の火は以前の勢いを失い小さくなっていた。ぼくは立ち上がり、伸びをして痛む身体をほぐして、あらかじめ用意しておいた追加の薪を暖炉の中に放り込む。


 あらかじめ桶に汲んでおいた水で喉を潤すと、寝室へのドアを開ける。暖炉の明かりに照らされている居間とは違い、寝室の中は真っ暗で手さぐりにベッドの位置を探し、その上に身を投げ出す。


 暗闇の中を照らしてくれる、暖炉の火は頼もしくもあるが、当然、暖炉本来の機能も発揮して部屋を暖めている。今の季節がいつなのかわからないが、夜は少し冷えるために暖炉の熱は心地良いくらいだ。けれど、これから夏が来るのだとしたら、明かりを確保する方法を考える必要があるかもしれない。

 順調に立ち上がりつつある生活のこと、これからのこと、そんなことを考えながら、ぼくは再び眠りについた。


 それからの数日は、繰り返しの毎日だった。


 少しずつ草原の草を刈り取り森までの道を広げること、森の中の探索をおこない、その探索範囲を少しずつ広げながら、薪を作るための倒木を拾い、斧で薪を作って一日の作業を終える。

 その間にあったことというと、パンだけの食事に飽きてきたこと。倉庫で補充される物とそうでない物の区別がついてきたことくらいだった。例えば、肌着といったもの消耗品に該当するようで、外に持ち出した場合、朝には補充されており、ズボンや上着のようなものは装備品に該当するようで、補充はされなかった。不自然に便利なこの家の倉庫でも、タオルといった日用品は用意されていないようで、この補充される肌着をタオルの代わり等にして利用していた。


 こんな生活が1週間ほど続いたある日、最初の事件が起こった。

 

 この日は、小川に沿って森を探索することにして、小川沿いに一時間ほど歩いたところで、川原と呼べるようなスペースもなくなり、それ以上進むことができなくなったため、意気消沈して家路についていた。

 このころには、森の中にもずいぶん慣れてきており、薄暗い森の中でも恐怖を覚えなくなっていた。


 また、初めて斧を使ってから、わずか1週間ほどしかたっていないのに、その技術はさらに向上していて、木を横に切断することですら、そのコツのようなものをつかんでおり、わずかな回数斧を振りおろすことによりって、きれいな断面の丸太を作ることができるようになっていた。

 きっとぼくは調子にのってしまっていたのだろう。


 パカーン、パカーン


 丸太が子気味良い音を立てながら真っ二つになっていく。


 この1週間森の中を探索してみても、人の気配はおろか、動物の1匹すら見ていなかった。鳴き声や上空を飛んでいる姿から、鳥の存在は確認しているため、動物がいないなんてことはないと思うが、ひょっとするとこの世界に人間は自分一人なのではないかなんてことを考えてしまう。

 そんな、ネガティブな思いを振り払うかのように、少し力を込めて振り下ろした斧は、理想のフォームから外れた軌道を描くと、丸太の端に当たると丸太を弾き飛ばし斧の着地点を大きく逸らしたまま振り下ろされた。


 衝撃はわずかなものだった、しかしその感触と痛みに、一瞬で体中に嫌な汗が浮かぶ。

 恐る恐る目を自分の右足にやると、斧の刃が自分の足に刺さり止まっているのが目に入った。

 斧に切り裂かれた隙間から、ズボンが赤く染まっていく。その光景を見て少し意識が遠くなる。

 

 頭の中を激しい後悔がよぎる、ズボンだけでなく、地面までその色を赤く変えていく。自分はここで死んでしまうのではないかと恐怖に包まれる。

 震える手で、斧を何とか自分の足から引き抜いたものの、さらに増える出血と、傷口からちらりと見えた白いもの、自分の骨を見てまた意識を失いそうになる。

 緊急時の応急処置を何とか思い出し、脱いだシャツで足の付け根を固く縛る。しばらくすると、出血の量も減ってきたようで少し冷静になってきた。頭の中はどうしたらいいか?という思いでいっぱいになる。

 あたりを見渡しながら治療に使えるものがないか探していた時、ふとウェストベルトに保持されている、ポーションに目が付いた。

 どうして存在を忘れていたのだろうか、赤が治療、青が精神、黄色が気力だったか、ノートに書いている記載を思い出しながら、慎重に蓋をしているコルクを取り外して、祈るような気持ちで傷口へと振りかける。

 痛みは感じなかった。傷口に垂らされた鮮やかな赤い液体は、血液と化学反応をしたかのように、白い煙を発すると、ぼくは自分の身体に起きた変化を自覚した。刺すように続いていた痛みが引いているのだ。

 煙は、時間を置くことなく薄くなっていき、赤色に染まったズボンの裂け目には、日に当たっておらず、不健康な白い肌がのぞいていた。

 正直、信じられないものを見た気分だった。傷は深く骨まで見えていた、死ぬことすらあり得るかもしれないと考えていた傷口がまったくなくなっていたのだ。

 傷がなくなった喜びというよりは、驚きに包まれ、ぼくはしばらくの間、呆然と自分の足を眺めていた。

 

 やがて、我に返ったぼくは、自分の右足を触ってみたが、痛みの類は全く感じず、その動きにも何も問題がないようだった。ゆっくりと立ち上がってみると、軽い立ちくらみを覚え、ぼくは少しよろめいた。身体を支える足はポーションのおかげもあって全く問題が内容だったが、失った血液というものは戻ってこないのかもしれない。

 ぼくはゆっくりと家の中にもどると、血に染まってしまったズボンを倉庫の中に戻すと、洗い場で、足に残った血の跡を洗い流すと、体力を回復させるためにも早々にベッドに横になった。

 刃物の危険性というものを、見失っていたかもしれない。この日以降、刃物を使う際には、気を抜かないことをぼくは誓ったのであった。

お気に入りに登録して下さった方ありがとうございます!

そっと追加していただけると、よろこびます。

まずは、300位!?いけるのかしら・・・・・・


でも、ランクにも入ってない作品を読んでくれている方は、どこで発見をしているのでしょう・・・・・・私も読者だけど、ランク上位に入ってきたのしか読まないなぁ・・・・・・(笑)

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