第20話 初めての魔法
「それでじゃな、イツキ。お主の所持品のことじゃが、わしの見たところじゃな、これらにはな……」
エメラダさんが勿体付けるように、呼吸を置く。
ゴクリ
ぼくは、かるく唾をのんだ。
「なんも特別なことはありゃせんかったわ」
ガクッ
どうも肩透かしを食らった気分だった。
「どこにでもある、金属、布、皮で作られておる、なんの変哲もないものじゃな。性能的にもそんな良いものじゃないじゃろ」
別に魔法の武器といったものは期待していたわけでもないけど、短い間とはいえ、時にはぼくの命を守ってくれた物たちだ、やはりがっかりはするものである。
しかし、エメラダさんの話はまだ終わっていなかった。
「じゃがな、確かに、魔法の痕跡がある。これは、わしくらいじゃないとわからんじゃろうが、鍵が仕込まれておるのう。お主がいっておったじゃろ、武器等が治ったりすると、むしろメインで魔法が仕込まれているのは始まりの家の方だと考えるのが自然じゃろうて」
そういわれると、なんとなく納得がいった気がする。始まりの家には、やはり、どこか違和感を感じることが多かった。それが、きっと魔法のせいであったんだろう。
「エルや、イツキを拾ったところにいって、他の持ち物を回収しておいてくれるかの」
「わかりました」
「あ、といっても、ベルトや持ち物は崖の上に……」
「問題ありません」
そういえば、アリエルはどうやってぼくをここまで運んできたんだろう。何かの手段があるのかもしれない……やっぱり魔法?
「その間じゃが、イツキには、生活魔法を教えてやろう、使えないと困るじゃろう」
……
えっ?魔法??
生活魔法と言っても魔法は魔法、それは、ぼくにとって、願ったり叶ったりの申し出だった。
「お、お願いします」
朝食を食べ終えて、ゴーレムに食器を片付けさせると、エメラダさんの指示どおりアリエルは、ぼくの荷物を回収しに行った。はたして、あそこはここから近いのだろうか?
アリエルのことも気になるけれど、ぼくは、エメラダさんが魔法を教えてくれるということに興奮してしまっていた。
そして、ぼくは、エメラダさんに連れられて屋敷の外にやって来ていた。
ちなみにぼくがどうやって、外まで移動してきたかというと、自分の足で歩いたのではなくて、ゴーレムに運ばれてきたわけだが……どうやら、彼らは、ぼくひとり程度なら軽く運んでしまえるようだ。
「さて、前に少し話したかもしれんが、簡単に魔法の基礎を教えてやろうかの。まずじゃな、魔法というものは、簡単にいうと魔力の力によって、現象を引き起こすことじゃ。現象というのは、火を起こすといったことじゃな」
「また、魔法は、大きく3つの種類に分けられる。一つは、自身の魔力を用いる魔法じゃな、魔法といえばこれを指しているといっても間違いはないじゃろ。人間魔法、獣人魔法など種族の名前を付けることもあるようじゃが、己の魔力を使っている時点で、特に何も変わらんな。魔族が使う魔法も、威力は人間のそれとは比べ物にならんが、わしから言わせると同じもんじゃ」
「次に、他者の力を借りて魔法を行使するものじゃな。エルフの使う精霊魔法や、召喚魔法と言われるものがそれじゃな。精霊魔法はエルフしか使えんし、召喚魔法を使うには、呼ばれる者との契約が必要じゃから、お主が使うことはまずなかろうて」
「最後が、周りにある魔力を用いる魔法じゃな。これはな、魔女であるわしらぐらいしか使えんから、知っておくだけでよいじゃろう」
「そして、次に大事なのが性質じゃ、火、雷、風、氷、水、木、土に光と闇が基本の性質じゃな。人間であれば、大抵自分の得意な性質というものをもっておるでの、自分の性質を良く知ること、あとは、互いの関係を知ることが大事じゃな、例えば、火と水との関係が悪いということは容易にわかるじゃろ」
エメラダさんのいうことを聞きながら、心の中にメモをとっておく。なるほど、魔法の種類に性質か……でも、どうやって魔法を使うんだろう。
「でじゃな、魔法、お主の体内の魔力を使う方法じゃが、これにはまず己の魔力を認識する必要がある」
「でも、魔力なんて全然わかりませんよ?」
「まあ、焦るでない」
エメラダさんにたしなめられる。
「そしてじゃな、これも大事なことなのじゃが、人は己の魔力を使って魔法を使うわけじゃ、そのため、もし魔力を使い切ってしまうと死んでしまうこともある」
えーーーー
心の中に衝撃が走る。
「まだ話はここからじゃ。でな、人は魔法を覚えるときにじゃ、子供でも使えるように十分威力を抑えた生活魔法から覚えるというわけじゃな」
なるほど、それで生活魔法からということなのか……
でも、肝心の魔力を感じる方法がわからない。
「ここまでは、わかったかの?」
ぼくは神妙にうなずいた。
「ではな、わしが、お主の身体にわしの魔力を与えるので、まずはその魔力を感じてみるといいぞ」
少し唾を呑み込む。
「用意はよいかの?そんなに構えることはないぞ、別に死にはせんわい」
死ななくても、何かは起こるのか……少し冷や汗が流れる。
そんな躊躇をするぼくの心を見透かしてか、顧みずか、エメラダさんがぼくの手を握ってくる。すると次の瞬間に、エメラダさんの身体から何か温かいものが流れ込んできた。
熱というか、血液の流れというか、また少し違った不思議な感覚。少し気分が高揚するかのようだ。
「魔力の感覚はわかるかの?」
「なんというか、熱というか、不思議な感覚があります」
「それが、魔力じゃ、時間をおいて何回か流すからの、まずはその感覚を意識してみよ」
「はい」
エメラダさんと手をつないで、魔力を流してもらう。そんなことを5回ほど繰り返しただろうか、身体を伝わる熱のような感覚、今まで経験したことがない不思議な感覚で言葉に表しづらいのだが、確かにその新しい感覚がわかるような気がした。
「なんとなく、わかってきたような気がします」
「ふむふむ、良い兆候じゃな。では、次は、お主の身体の中の魔力を感じてみるのじゃ」
「やってみます」
それから、30分ほどだろうか、感覚をわすれないように、たまにエメラダさんに魔力を流してもらい、自分の魔力を感じるという作業を繰り返していた。そうすると、だんだんと、新しい感覚がぼくの中で築かれていき、自分の中を流れる血液とはまた違った何かを感じることができるようになってきていた。これが、自分の魔力なのだろう。
「わかってきたようじゃな。では、次に、蝋燭の火をつけることをイメージするのじゃ」
そういうと、エメラダさんが呼び寄せたのか、空中に火のついた蝋燭が浮いていた。
ぼくは、その蝋燭を見ながら、蝋燭の芯に火が付くところをイメージする。
「よさそうじゃな、一般に人の使う魔法は、音声を媒介にして言葉の組み合わせで用いられるのじゃ。最初は、“小さき 炎よ灯れ”でよいじゃろ。言葉とともに、魔力を蝋燭の火に変えることをイメージしてみるのじゃ」
「はい」
そう、エメラダさんにこたえて、ぼくはイメージを固める。
蝋燭に火をつけることをイメージしながら、魔力をしっかりと自覚する。
『小さき 炎よ灯れ』
声に乗って、身体の魔力が動いていくのを感じる。そうして動いた魔力は、現象に変換され、ぼくの初めて使う魔法となって……
目の前に巨大な火の玉を発生させた。
「あつっ!!」
急に感じる熱量に思わず、悲鳴を上げてぼくは尻餅をついた。自分の髪から少し焼け焦げたにおいがしてくる。初めて使った魔法の感想は、感動などというより、熱さだった……
のろのろですが、じわじわと進んでますっ




