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剣帝マギの森羅万象剣  作者: 三千世界
4月8日
8/28

第8章 リンクスの仮面

【章の主役】リンクス・シェフィールド

【作者前書き】リンクスの複雑な内面の一端が明らかに。

精神的にも能力的にも一癖二癖ある彼ですが、基本的に善人で努力家です。

完璧なようで無能、一芸特化型のようで平凡と、二面性のある彼の今後の活躍と成長にご期待あれ。

面倒なことになった。

おかしな先輩が女の子にイチャモンつけているから助け船を出しただけなのに、昼飯を失った挙句(蹴られると分かったときにコーヒーをこぼさない自信がなかったのでわざとトレイごと投げつけたのだが)、真銘解放まで向けられる始末だ。

戦意をそぐために魔術で不可解な現象を演出したのも無駄になりそうだ。

力押しで真銘解放を抑え込むこともできるが、それをやると今後の学生生活があっという間に終わってしまいそうなので却下する。

ここは真銘解放を撃たせずに相手の心を折るしかないだろう。

だが、一筋縄ではいかなさそうなチンピラ先輩には、徹底的な心理負荷をかける必要がありそうだ。

転校初日でこれはやりたくはなかったが、すでに魔装まで持ち出しているので今さらだと諦める。

普段は垂らしている前髪を右手でおもむろに掻き上げ、立たせる。


「いいかげんにしろ。」凍て付くような冷たい声で威嚇する。

相手の顔がビクッと引きつる。

当然だ。目の前の人物が一瞬で別人のようなオーラを放ったのだから。

「5秒以内に魔剣を収めろ。さもなくば死ね。」

自分の容姿は、髪型と目つき以外はこれといって外見上の変化はないはずだ。

しかしマインドセットをした今の自分は全くの別人と言っても過言ではない。

普段とは違う強さの仮面を被ったのだ。

チンピラ2名と数十人の観衆全員が自分に呑まれたのを感じる。

後でヴィータへのフォローをしなければならないと思うと頭が痛いが、今は目の前の爆弾処理に集中するしかない。

なにせ彼らは怯んだだけで真銘解放状態を止めてはいないのだから。

左手では、ワイヤーリングと幻視のインプレッションカードを操作しつつ、新たに右手の指に幻覚・幻痛・拡散・吸収の4枚のインプレッションカードをはさみ、魔力を通す。

「5、4、」

カウントダウンを告げる。理想は魔剣化の解除だが、真銘解放を止めればひとまず攻撃をやめてもいい。

「3、」

「あ、あ、あ、」チンピラが声にならない声を挙げている。

恐怖に呑まれているのは狙い通りだが、混乱して自棄になっている。

瞳孔が開ききり、暴発寸前なのは感応の魔術がなくても手に取るように分かる。

「2、」

「ああ…!」

だめか。発動するしかない。


そのとき、レックス・ベントリーの足に激痛が走る。

見るとさっきまで床には何もなかったはずなのに、巨大なトラバサミが口を閉じて彼の両足に噛み付いている。

そこからは鮮血が吹き出し、生臭い鉄ようなの匂いがツンと鼻につく。

しかも周囲は半径2メートルにわたって無数の刃物が床から生えており、その刃先を彼に向けている。

足首は動くが、膝のあたりにはトラバサミの歯が食い込んでいてヘタに動かすとさらなる激痛が襲う。

ふと、上に掲げた両腕が冷たくて感覚が無くなりかけているのに気付く。

激痛に耐えながら視線を上にあげると、先程のイバラごと手首と魔剣までが氷に覆われていた。

天井からも複数の氷柱が生えており、このまま落ちて自分に突き刺さるのではないかという不安に襲われる。


「何事だ!」

4人の男子生徒が学食に飛び込んでくる。

腕には≪風紀委員≫の腕章をつけており、そのうち1人はかなり腕の立つ剣士のようだ。

しかし、4人とも学食の一角が魔界と化している状況に頭が着いてこないようで、立ち尽くしてしまっている。

「たす…けて…」

天井と床からの摩訶不思議な攻撃に身体の自由を奪われ、レックス・ベントリーはついに力なく降伏の言葉を口にする。


リンクスが左右の手の指にはさんでいた計5枚のカードがボロボロと崩れて跡形もなくなる。

すると床の刃や天井の氷とイバラは一瞬で消え去り、ハーギンは人の姿に戻る。

ベントリーは両膝と両手首をワイヤーのようなものでグルグルに縛られている。

ワイヤーは周囲の2つの柱に巻きつくことで彼の位置を固定しており、そこからさらにリンクスの左手の指輪につながっている。

リンクスが指をくいっと動かすとワイヤーが巻き取られ指輪に収納されていく。

ベントリーの拘束が解かれ、彼は両手両膝を地面について四つん這いのような格好になる。

そんな彼の身体には一切の傷跡がなかったこともまた、周囲を驚かせた。

リンクスは髪を両手で撫でつけ、元の垂らした前髪に戻る。

その顔つきは普段の穏やかなものに戻っていた。

「いや~大丈夫でした?先輩?真銘解放なんて馬鹿な真似するとは思わなかったから焦っちゃいましたよ。」

2人組のチンピラ先輩もヴィータもその他の観衆も、目の前で起きたことを理解できず放心状態だった。

「またお前らかレックス、ガイ。」

風紀委員の1人が近寄ってくる。

「事情聴取させてもらうぞ。それからお前。名前と所属クラスは?」

リンクスの方を品定めするように見る。

「リンクス・シェフィールド。2年D組50番です。」

「2年生だと?お前みたいなやつ見たことないぞ。」

「あの、オコーネル先輩。彼、転校生なんです。一応、私のパートナーで…」

ヴィータが口をはさみ援護してくれる。

この風紀委員がオコーネルという名前なのが分かった。おそらくは百家の序列20位、オコーネル家の人間だろう。

「ほう、また妙なパートナーを持ったなブリッジス。おまえらも事情聴取させてもらうぞ。」


面白そうなパートナーを得て、昼飯抜きになった挙句、風紀委員に連行されるという波乱万丈の転校初日。

しかしリンクスの心は妙に充実感に満ちていた。

この学校ならもう一度自分を見つめなおせる。

今後進むべき道を見つけられる。

そんな気がする。

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