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剣帝マギの森羅万象剣  作者: 三千世界
4月10日
27/28

第27章 リンクスVSエリザベス

【章の主役】ヴィータ・ブリッジス

【作者前書き】初日の第5試合を辛くも制して2次リーグ進出を決めたリンクス/ヴィータ組。

しかしヴィータはリンクスの隠された実力をどうしても早く確かめたくなり、図書館に出向きます。

去年の夏の大会――――リンクスがエリザベスに勝った試合の詳細が明らかに。

第27章 リンクスVSエリザベス


ヴィータは図書室を訪れていた。

図書委員をやっている彼女にはなじみの場所だが、今夜ここに来た目的は委員会の仕事でも本を借りに来たのでもない。

右手に持ったままの学生証の裏面を眺める。

『417年度 第1回 剣技考査

エントリーNo296 リンクス・シェフィールド(2年D組)/ヴィータ・ブリッジス(2年D組)

4月11日(2日目)試合予定

2次リーグ 第1試合 1回戦(9:00~) 14番会場

1次リーグ結果 3勝2敗(1次リーグ通過)

2次リーグ結果 0勝0敗(第1試合待機中)』

なんとか第5試合を勝利して1次リーグの勝ち抜けることができた。

その証が確かに刻まれていた。

今日行われた1次リーグだけで120組が脱落した。

3勝する前に3敗した者はそこで剣技考査が終了となり、翌日以降はただの見学者に成り下がる。

3勝を収めた者だけが翌日の2次リーグにコマを進めることができるのだ。

リンクス/ヴィータ組は1次リーグを勝ち残ることができたが、2次リーグで待ち構えているのは同じく1次リーグを突破した者――――場合によっては3戦全勝で早々と勝ち抜けた者と、シード権を有して1次リーグを免除された強者たちだ。

今日のリンクスはどんなに追い詰められても頑なに魔術に頼らない戦い方をしていた。

もちろん筋力強化など基本的な魔術は使っていたが、明らかに手を抜いていた感がある。

むろん、剣技は本気でやっていたと思う。

だからこそ、2次リーグでは剣技だけに頼った戦い方をしていては確実に敗退するだろう。

彼の魔術を織り交ぜた真の実力を、明日こそはこの目にできると信じたい。

しかし、その力が一体どれ程のモノか、全くわからないことがヴィータを言い知れぬ不安に苛む。

だがリンクスの実力を今すぐ知る手段があることに思い至った。

去年の学校間対抗剣技大会で、リンクスは魔法を使いエリザベス先輩を破るほどの戦いをしている。

そして大会の映像は魔術的に記録されており、学内の図書室で視聴できるのだ。

今日はもう遅いので、明日に備えてこのまま眠ることも考えたが、不安に眠れぬ夜を過ごす可能性を考え、敢えて今夜確かめることにしたのだ。

「あら、ブリッジスさん。どうしたの、こんな遅くに。」

本棚の影から初老の女性が姿を現す。

「こんばんはヴィバリーさん。ちょっと閲覧したい記録映像があるんですけど。」

司書のヴィバリーは教員ではなく事務職員なので、学生からは“さん”づけで呼ばれている。

「あら、ひょっとして“また”去年の剣技大会かしら。」

「“また”ってどういうことですか?」

「やっぱりそうだったのね。今日は剣技考査だというのに昼前後に2人もここにやってきて、2人ともその映像を見に来たものだから、珍しくって。」

2人も例の映像を見に来た?

昼ごろと言うと3回戦が始まったかどうかぐらいだからシード組だろう。

おそらく1人はクラスメイトで新聞部のメディ・キッシンジャーだろう。

だがもう1人というのは見当がつかない。

などと考えを巡らせているとヴィバリーさんが小さな箱状の物体を渡してくる。

「はい、このメモリーキューブよ。あと1時間ほどで戸締りをするからなるべく急いで見て頂戴ね。」

とりあえず目的のモノを探し当てる手間は省けた。


図書室には小さな視聴覚室が備え付けられている。

魔術が施された記録媒体<メモリーキューブ>を壁のスクリーンに向けてセットする。

するとスクリーンに大きな文字が投影される。

『新暦416年度 魔剣師高等学校対抗試合 団体戦』

そう、自分はこのとき補欠としてベンチ入りしていたし、この試合も見ているはずだった。

しかしエリザベス先輩と戦ったリンクスのことは全く覚えていなかった。

いや、どこかで見たような記憶はあったのだが、ほとんど印象に残っていなかったというのが正しい。

どうしてエリザベス先輩を下したような相手が印象に残らなかったのかというと、実は団体戦ゆえに同時並行で行われていた別の戦いを見ていたからだと思い至った。

そもそも当時はエリザベス先輩とは接点がほとんどなかったのだ。

少し前までは先輩のエリザベス・オールストンと組んでいたヴィータだが、当時は同学年のジャクリーン・アボットと組んでいた。

そしてエリザベス先輩の当時のパートナーはヴィータと同学年のニーナ・レイノルズだった。

よってエリザベス先輩の動向を注視する理由も特になかったのだ。

団体戦は参加8校が5人ずつ選手を出し、広大なフィールドでチーム・バトルロイヤルを行うものだ。

よって5人全員が固まってでもいない限り、全員の動向に気を配るのは難しい。

たしかあのときは当時2年生(現3年生)のライオネル・ウォーカー先輩を中心に見ていたはずだ。

映像が切り替わり、試合開始を告げる。

メモリーキューブを操作し、映像をイリーノ校のスタート地点にセットする。

5人の選手が大写しになり、その中にリンクス・シェフィールドの姿も見受けられた。

彼が手にした魔剣はフランジュベルだった。

刃が波打つような形をした両刃の剣で、刃渡りは75センチほどもあるだろう。

一応は片手剣だが両手で使うのにも適しており、ヴィータとはまるで違うタイプの魔剣だ。

5人の選手は2人と3人の組に分かれて動き出した。

リンクスは2人組の方だ。

2人は岩場を通り、小高い丘の方を目指して移動していった。

しかしリンクスが突然足を止め、何かを叫ぶ。

その声までは記録に入っていないので何を言ったかは定かでないが、先行していたもう1人の選手が振り返ってリンクスを見た瞬間、岩の爆発に巻き込まれて吹き飛び、その意識を喪失した。

不意打ちをした張本人――――エリザベスがゆっくりとリンクスの方へ歩いてくる。

そして彼女の手にはダガーの魔剣が握られていた。

大地に作用して強力な破壊力を生む魔剣、ニーナ・レイノルズだった。

リンクスとエリザベスは互いに何か言葉を交わしていたが、そこまで録音できていなかったので内容は定かでない。

ひとしきり口論した二人は剣を振りかぶる。

先に仕掛けたのはエリザベスだった。

ダガーの魔剣を振りかざすとリンクスの足元がはじけ飛び、轟音と土煙が辺りを覆い尽くす。

魔剣ニーナの疑似魔法の1つアクティブ・マインだ。

ある程度離れた場所、すなわち地面を爆発させることができ、魔術ではこの威力と射程を模倣するのはほぼ不可能だ。

リンクスにかなりのダメージを負わせたはずだが、エリザベスの視線は上を向いていた。

リンクスが上空から急降下してくるのだ。

彼の手にしたフランジュベルの魔剣は赤々と高熱を発し、波打つ刃と相まって炎のように見える。

ヒートエッジと化した魔剣が大上段で振り下ろされるが、エリザベスはその場を全く動かずにダガーで防ぐ。

パーマネント・アース――――地面と接しているときにしか使えないが、地面と自身を固定してあらゆる衝撃にも怯まない防御力を得る魔剣ニーナのもう1つの能力だ。

それがリンクスの落下速度を加えた強力な一撃の威力を完全に相殺してしまう。

エリザベスは魔剣を薙いでリンクスを遠ざける。

リンクスに向かって魔剣を向けると再び彼を疑似魔法の地雷が襲うが、リンクスは空中ではなく前後左右縦横無尽に避け続ける。

疑似魔法の発動兆候を感知して、魔術で高速移動して地雷を避けているようだ。

ヴィータは映像を食い入るように見つめ、その回避能力に舌を巻く。

しかしリンクスは切り立った岩の壁に追い詰められ、その壁面に飛びついて張り付く。

そこへエリザベスは疑似魔法を全力で発動させる。

が、リンクスは一足早く同じ場所へ自らの魔剣をつきたてていた。

岩肌が赤く熱せられるが、ただそれだけだった。

いや、何も起こさせなかったのだ。

リンクスの魔剣が岩に領域干渉したせいで、エリザベスの魔剣はうまく岩に魔力を伝えられず、アクティブ・マインの発動が阻害されてしまったのだ。

そして、リンクスが魔剣を岩から引き抜く。

その魔剣にはマグマと化した岩がまとわりつき、さながら炎のムチのようになっている。

そのまま大ジャンプでエリザベスに斬りかかるが、軽くいなされてしまう。

果敢に追撃をかけるリンクスだが、その剣技は今日散々見てきたものよりもさらに劣るように見えた。

逆に斬りつけられて負傷するリンクス。

蹴りを返すも避けられ、魔術も魔剣に防がれる。

熱を持った魔剣はいたずらに地面だけを傷つけ、エリザベスの体には届かない。

圧倒的にリンクスが劣勢だ。

エリザベスがリンクスの顔面に魔剣の柄をたたきつけて距離を取り、すかさずアクティブ・マインをお見舞いする。

が、必殺の地雷はリンクスに直撃するも威力が酷く弱まっていた。

よく見ると周囲の地面は、リンクスの魔剣による熱で格子模様が描かれていた。

まさか、辺り一帯の地面に自身の魔力を通して、アクティブ・マインを封じたのだろうか。

たしかに疑似魔法をこのような形で封じられればエリザベスは面白くないだろう。

しかし場所を変えればいいだけだとヴィータは気付いたし、事実エリザベスもリンクスの横を抜けてその場を離脱しようとした。

そんなエリザベスの退路を熱波の壁がふさぐ。

地面に描かれた格子模様が、あたかも牢獄の格子のように彼女の逃走を許さない。

リンクスは魔剣を地面に突き立て、周囲の格子模様からはさらにマグマがあふれ出してきた。

エリザベスは一気に地面を大きく蹴りあげ、空高く舞い上がった。

が、それはリンクスの思うつぼだった。

フランジュベルの魔剣から超高熱のレーザーが放たれる。

真銘解放、しかも並の威力ではない。

おそらくファースト・インプレッションを併用したに違いない。

宙に舞った状態では回避もままならず、パーマネント・アースも使えない。

全力でガードしたもののエリザベスはその高熱に耐えきれず、全身から煙を出しながら派手に墜落する。

勝負が決した。リンクスがエリザベスに勝ったのだ。

満身創痍のリンクスの背後に突如衝撃波が押し寄せ、彼もまた戦闘不能になる。

彼を攻撃したのはリンストンの代表選手の1人、ライオネル・ウォーカーだった。

そう、ヴィータはこの日、主にライオネルの動向を注視していた。

だからこのシーンには見覚えがある。

そしてリンクスのことは“ライオネルに一撃でやられた他校の生徒”ぐらいにしか記憶に残らなかったのだ。

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