第25章 初戦
【章の主役】ヴィータ・ブリッジス
【作者前書き】リンクス/ヴィータ組の初戦が始まります。
ヴィータの予感が的中し、リンクスの実力がおおよそ明らかになります。
ただし、リンクスはあえて話をそらしていますが、第4、第5の切り札が無いとは言っていないので…。
「この学校ってやっぱりレベル高いな。」
「あれ見た感想が!?」
第1試合3回戦の観戦を終えてリンクスがつぶやくが、ヴィータは突っ込みを入れる。
「いや、さっきの2組とも、前の学校だったら大会メンバーの有力候補レベルだぞ。」
「あんたの前の学校ってイリーノだっけ?あんな二流校じゃトップランカーになれるかもだけど、ウチではあれだと上から数えても100番ぐらいよ。」
「ははっ、それは楽しみだ。強い相手がいっぱいいるなんて腕が鳴るよ。」
余裕綽々のリンクスに対して、ヴィータは昨晩ずっと考えていた疑問を口にする。
「ねえ、あんたイリーノじゃ1年生レギュラーだったのよね?」
「うん。大抜擢だったね。」
「なんでイリーノなんかに行ったの?最初からウチに入ればよかったのに。」
「いやー、お恥かしながらリンストンも受験したんだけど落ちちゃって、滑り止めのイリーノに入学したわけよ。」
「はあ!?落ちた!?」
「でも、イリーノに入ってすぐに魔法が使えるようになったから、今更ながら良い回り道だったと思うよ。」
それは入学する実力もなかったということか。
いや、昨日見た彼の剣技はおおむねこの学校の平均的水準には達していた。
「あんた、大会でエリザベス先輩に勝ったのよね?それは魔法のおかげ?」
「そりゃ魔法がなくちゃ勝てなかったな。」
「でも、使わないで剣技考査を乗り切ろうというの?」
「うん、まあ乗り切れそうになかったら、そのときは別の手を考えるから。大船に乗ったつもりでいいよ。」
「魔装は使用禁止よ。」
「シェフィールド家家訓第3条、切り札は常に3つ用意せよ。第10条、最高の結果を思い浮かべて行動に移せ。だよ?」
「だよっ、てあんたねえ、そんな人の家の家訓なんて知らないわよ。ていうか本当に切り札3つも有るんでしょうね。」
「魔法のファーストインプレッションでしょ。魔装のインプレッションカードとワイヤーリングも入れて3つだな。」
「ちょっと!ダメじゃない!4つ目はないの!?」
「ねえ、あれが次の対戦相手かな?」
怒り狂うヴィータをよそにリンクスが2人の生徒を指差す。
それはヴィータにとって顔と名前が一致する相手だった。
「リプトン兄妹か。ウォーミングアップには重い相手ね。」
「強いの?」
「さっきの試合に出ていた2組より少し強いかもね。あたしとエリザベス先輩のペアから3ポイントも取ったことがあるわ。」
「そりゃ強いな。良い修行相手になりそうだ。」
審判が選手に“堅護の呪布”を渡してくる。
リンクスは慣れた手つきで呪布を巻きつけ、わずか10秒で確認まで終えてしまう。
その様子にはヴィータも多少の安堵を覚える。
急造ペアであることを差し引いて、10対7で勝てればリンクスの実力を認めても良いと思えるようにはなった。
リプトン兄妹は“やや強敵”の部類に入るだろうが、ここで負けるようでは決勝トーナメント進出など不可能だろう。
だが、彼らに勝てる実力があれば、対戦相手のめぐりわせ(くじ運?)次第では、見込みもあるはずだ。
「両選手、準備できましたね。それでは構え!」
こちらのソードブレイカーに対し、リプトン兄妹の魔剣はエストックという刺突に特化した剣だ。
両者が魔剣を前に構えて臨戦態勢に入る。
「それでは第1試合4回戦、始め!」
ヴィータは愕然とした。これでは決勝トーナメント進出は相当に困難だからだ。
得点板の表示をもう一度見る。
『エントリーNo055 エントリーNo296
アンドレイ・リプトン(3年C組) リンクス・シェフィールド(2年D組)
カトリーナ・リプトン(2年A組) ヴィータ・ブリッジス(2年D組)
10【WIN】 5【LOSE】
試合時間 18分01秒 』
負けたのだ。試合が長びいたため接戦だった感はあったが、得点だけ見ると多少は善戦したという程度だ。
顔面蒼白のヴィータに対して、リンクスは満面の笑みだ。
「いや、それにしても強かったな。スピードはついていけたけど、あのテクニックは兄妹ならではってところなのかな。あんなのがいっぱいいるなんてさすがリンストンだよな。」
とても負けたばかりの人間のセリフとは思えない。
こいつはやはり、勝利への欲求が弱すぎる。
「あんた!分かっているの!?あれに勝てない様ならこの先勝ち残れないわよ!3日目ぐらいには敗退しかねないっていう現実を直視しなさい!」
「まあ、そう怒んないでよ。初戦で負けたなんて幸先が悪いのは分かるけど。さっきの試合を長引かせたのは、なるべくヴィータの魔剣に慣れておくためだったんだよ。転んでもただでは起きないから。これからはもっとちゃんと使いこなせるはずだから。」
たしかに先程の試合はずいぶんと長引いた。
そして後半は相手の得点ペースが落ちていた。
彼の言っていることは一理あるような気がしてくる。
この何も考えていないような顔の裏で、ちゃんと今後の試合のことも考えていたのか。
「そういえば、この後は学生証の更新をしなくちゃいけないんだよね?」
「ええ、そうよ。次の試合会場と時間が事前に分かるし、これまでの結果も記入されるからね。さすがに1時間以上は間が空くはずだけど、早く更新に行きましょう。」
『417年度 第1回 剣技考査
エントリーNo296 リンクス・シェフィールド(2年D組)/ヴィータ・ブリッジス(2年D組)
4月10日(1日目)試合予定
1次リーグ 第2試合 4回戦(12:00~) 05番会場
1次リーグ結果 0勝1敗(第2試合待機中)』
学生証には次の試合時間と場所が更新され、さらに0勝1敗で第2試合の待機中である旨が追記された。
「次の試合まで1時間半か。結構ハードスケジュールじゃないか。」
「だからノーシードは嫌なのよ。初日は試合数が多いから、どうしてもキツキツになるのよ。」
「そういえば2日目の総試合数は初日の6割ぐらいだったっけ?」
「そう、今日は240組が495試合を行うけど、2日目は初日の勝ち残り120組とシード24組が参戦して144組297試合になるわ。5日目なんか32組で66試合だから観客も多くなってうざったいったらありゃしない。」
「ははっ、観客が多いとか燃えるな。30人ぐらいでも多いと思うけど。あっ、でも夏の大会では数千人の観客に見られていたから、やっぱ少ないよな。」
相変わらず呑気な発言だ。
5日目まで残れる見込みはほとんど無いというのに。