第24章 訓示
【章の主役】リンクス・シェフィールド
【作者前書き】とうとう剣技考査1日目。ビショップ学院長からの訓示を経て、1次リーグが始まります。
リンクスは鏡を見て自分の身なりを確認する。
学院指定の戦闘服に身を包んだ姿が映っていた。
朝食前からその必要は無いと思うが、気合を入れるという意味でも戦闘服がいいような気がする。
ドアを開けて居間に出るとヴィータはまだ起きていないようだ。
まだ30分は起こさなくてもよさそうな時間なので、放っておいても問題ないだろう。
と思ったのだが人が動く気配がする。
居間の反対側のドアが開き、ヴィータが出てくる。
「おはようヴィータ。」
挨拶をするが、ヴィータはなぜか固まる。
「おーい。どうした?」
ヴィータは下を向いて自分の服装を確認すると、リンクスの顔に向き直り、自身の顔を赤くした。
そして勢いよく自分の個室に引っ込んで、バタンとドアを閉めてしまった。
「えーと、ヴィータさん、どうかされましたか?」
ドアをはさんでヴィータの声が聞こえる。
「なんであんたもう起きてんのよ!」
「いや、もう7時だよ。早すぎはしないと思うけど。」
「あたし、パジャマで出てきちゃったじゃない!これだから男子と同室ってイヤだったのよ!」
「いや、べつにいいだろ。俺、姉と妹にはさまれて育ったから、下着姿でうろうろされない限りは気にしないぞ。」
「私は気にするの!」
「なら個室で着替えてから出てきなよ。俺はそうしたよ。」
「あ~、もう!分かったわよ!私が悪かったわよ!自業自得よ!だからさっきのは忘れなさい!」
やれやれ。まあ、昨日は口論して寝たから、朝一番で雰囲気が変わったのは良いことだと思うか。
「開会式まであと5分です!第一演習場に集まって整列してください!」
教師が魔術で拡声させた声でアナウンスをしている。
すでに第一演習場には全校生徒800人のうち9割以上が集まっている。
リンクス/ヴィータ組は第一演習場への入り口で、カード型の学生証を魔術演算装置
の端末にかざす。
もともと何も書かれていなかった学生証の裏面に、魔術で文字が刻まれた。
『417年度 第1回 剣技考査
エントリーNo296 リンクス・シェフィールド(2年D組)/ヴィータ・ブリッジス(2年D組)
4月10日(1日目)試合予定
1次リーグ 第1試合 4回戦(10:00~) 18番会場』
演習場の中に入り、すでに整列した生徒たちの後ろに並ぶべく、学生証を見ながらも歩き出す。
「へー、こういう仕組みで試合予定が分かるのか。でも、相手は誰なんだろ。」
「相手が事前に分かると妨害工作の危険があるから、直前まで分からないようにしているのよ。」
「あ、やっぱりそういうのあり得るんだ。」
「当然でしょ。人目があるからめったにチャンスなんてないけど、昼食に下剤を入れられたっていう話が昔実際にあったらしいわよ。」
「うわ、嫌だなそういうの。じゃあ気をつけるよ。」
しばらく待っているとアヴィエル教頭の声が響く。
「それでは、これより417年度 第1回 剣技考査開会式を行います。開会に先立ち、ビショップ学院長先生より訓示をいただきます。」
するとビショップ学院長が朝礼台の上に上がってきた。
「本日は晴天のなか、皆さんの剣技を観賞できることを喜ばしく思います。」
雲ひとつないとは言えないが、まあ一応晴れかなという天気にリンクスは一人苦笑する。
「この6日間、2、3、4年生は魔剣師としての技量を評価されることになります。誰もが評価を上げることに邁進していることとは思いますが、その方法は決して一つではありません。得意技に磨きをかけて長所を伸ばす、苦手を克服して短所を補う、すべてを満遍なく鍛える。それらは人それぞれです。私は、本当に強い人間とは自分のことをよく知り、その能力を最大限に活用できる人のことだと思います。この剣技考査は様々な相手と競い合うことができる最大のチャンスです。剣を交えれば、相手から学ぶことも多いでしょう。他人の勝負を観戦することでも多くのことが学べるでしょう。自分の強さと弱さを自覚し、今後の指針を定めていくことで、必ずや魔剣師としてさらなる高みに上ることができるでしょう。大いに悩み、学び、模索してください。当学院はそんな学生が答えを見つけるために有るのですから。」
わずか1分程度のスピーチの後、学院長は拍手に包まれながら退場していく。
この訓示はひょっとしたらリンクス個人へのメッセージではないか。そんな気がした。
「それでは、0900時より剣技考査第1試合を開始いたします。出場者は遅れずに所定の会場に向かってください。それでは解散。」
アヴィエル教頭の掛け声とともに、生徒も教師も散らばっていく。
「見ごたえのある組み合わせってある?」
第1試合の対戦表が示された巨大掲示板を見て、リンクスがヴィータに尋ねる。
転校生のリンクスにとって、ほとんどの生徒は名前と顔が一致せず、実力など想像もできない。
「特にないわね。」
ヴィータはそっけなく返す。
「そもそも上位実力者はシードなんだから、初日には見ごたえのある試合なんて少ないのよ。」
ずいぶんと辛口な評価だ。
彼女は実力の低い者とは交流すら持たないので友達が少ないと、メディやジャクリーンから聞かされていたが、ここまでとは。
「じゃあ、17番会場を見に行こうか。イーデンとキムが出るから応援しよう。」
昨日友達になったばかりでクラスメイトでもないが、一緒に自主練をした仲だ。
自分たちが4回戦で出る18番会場にも近いのでちょうどいい。
『1日目 第1回戦(9:00~)
17番会場
エントリーNo087
ジョナス・アッテンポロー(4年A組)/イーニッド・カー(4年D組)
VS
エントリーNo114
イーデン・ブラナー(2年B組)/キム・バーリス(2年B組)』
「まあ、別にいいわよ。」
17番会場に着くと、すでに4人の選手と審判役の教師がスタンバイしていた。
剣士の2人は戦闘服の上に“堅護の呪布”をタスキのように巻きつけており、装着状況を確認している。
観戦に来ている生徒も30人ぐらいいるだろうか。
1年生と思しきグループが何やら興奮して話しこんでいる。
「間もなく、9時になります。選手は構えてください。」
教師の合図で周囲が一気に静まり返る。
魔剣の2人が剣の姿になり、剣士の手に収まる。
さらに“堅護の呪布”によって強力な防御魔術が発動した。
「両者、準備はいいですか?では…始め!」
先に仕掛けたのはイーデン/キム組だった。
一気に間合いを詰めて、ロングソードの魔剣で袈裟斬りにする。
ジョナス/イーニッド組も似たようなロングソードの魔剣だが、イーデンが振り下ろした魔剣を触れるように受けるとそのまま横に流してしまう。
そのまま振り抜きざまに横なぎに剣を打ちつけ、イーデンの胴体から魔力光が発せられっる。
イーデンへのダメージが“堅護の呪布”によって防がれたのだ。
そのかわり、攻撃を受けたことが分かりやすいように、派手な発光を伴うのだ。
「ヒット。1ポイント。」
審判の声とともに得点板が更新される。
『エントリーNo087 エントリーNo114
ジョナス・アッテンポロー(4年A組) イーデン・ブラナー(2年B組)
イーニッド・カー(4年D組) キム・バーリス(2年B組)
1 0』
このあとも激戦は続いたが、試合時間5分49秒、得点10対2でジョナス/イーニッド組が勝利した。